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第128話 『ヘリオス・フリート その4』






 早朝、起きるとすぐ食事をとった。残っていた肉とスープを食し、即出発。ザックやらテントは足枷となるので、その場に捨て置いた。持っていくものは、剣など身に着けている装備だけ。


 ティアナを背負い、アテナの手を引いて森の中を駆ける。途中、木の根や転がっている石に蹴躓いて、アテナは何回も転んだ。



「おい。大丈夫か?」


「うん! 大丈夫!」



 アテナは膝や肘を擦りむいていた。顔にも泥がついている。だがアテナは、キャンプを出発してからは泣き言のひとつも言わず、その眼の奥には断固たる決意のようなものがメラメラと湧き上がっているように見えた。俺は思った。この娘は、強い。とても4歳児とは思えない位に強い。きっと、母親の強さをしっかりと受け継いでいるのだろう。


 ――――かれこれ4時間程森の中を突き進んでいた。もちろん、闇雲に歩いている訳ではない。クラインベルト王国は、この方角であっているはずなのだ。


 歩き続ける間、運よく魔物や帝国軍に遭遇する事はなかった。そしてついに、歩く先の方に光が見えた。



「あそこまでだ。森を抜ける事ができるぞ。もう少し頑張れ」


「……はあ……はあ……うん……」



 流石にもうアテナは限界だろう。だがもう、国境は越えている。ここはメルクト共和国ではなく、もうクラインベルト王国内だ。森を抜ければ、旅人や馬車にすれ違うかもしれん。そうすれば、助けを借りれる。


 森を出でると、草原が広がっていた。更にその向こうに、道が見える。あれは街道だな。あそこまで行けば――――


 刹那、蹄の音が近づいてきた。振り向くと、草原地帯に馬に騎乗する兵士が何十人も現れた。こちらに勢いよく向かって突進してくる。


 俺は舌打ちすると、背負っているティアナをゆっくりと地面に寝かせた。ティアナが虚ろな目で俺を見る。



「大丈夫だ! アテナも無事だ! もうちょっとだから、我慢しろ。ここに俺がいる限り、帝国軍は何もできん。いいな、ここが踏ん張りどころだぞ!」



 ティアナが頷いたのを確認すると、アテナにティアナに寄り添っていろと指示した。固まっていた方が、守りやすい。接近してくる騎馬隊。


 二振りの剣を抜いて、構える。そして敵目掛けて叫んだ。



「悪いが、今の俺は手加減なんてできねーぞ! それ以上近づいてくるなら、皆殺しだああ!!」



 威圧すると隊長らしき男が手をあげて、部下たちに何か合図を送った。他の騎馬達がその場に留まる。すると隊長のみが剣を振りかざして、こっちに突貫してきた。凄まじい殺気を感じる。こいつは、かなり手強そうだ。


 騎馬の突進を横へ避けると、すれ違いざまに勢いよく剣を振ってきた。二振りの剣で十字に受けたが、物凄い一撃だ。その強烈な衝撃に、少しよろめく。くそ、歳はとりたくないものだ。


 大勢を整えるなり、隊長は再び馬を折り返し、先ほどと同じように剣を振ってきた。


 この野郎! 今度は、そうはいくか! 騎馬とすれ違う直前に、馬の突進をよけながらも両方の剣を鞘に一旦納めながら、馬に乗る隊長の腰と腕を素手で掴んで、地面に叩き落とした。衝撃に驚いた馬が怯えてそのまま走り去っていく。


 落馬して横たわる隊長目掛けて、すかさずナイフを突き立てようとしたが、転がって避けられた。お互いに、再び剣を抜いて構え合う。



「やるじゃねえか、おまえ。でも言ったよな、こっちへ来たら皆殺しだって! 急いでいるから、さっさと片付けさせてもらうぞ!」



 ――――剣を高速で振る。斬撃が宙を飛ぶ。隊長は、まるでその技を予め知っていたかのように、素早くかわした……っが、かすりはしたようだ。隊長の頬に赤い線が浮き出て、血が流れた。



「飛ぶ斬撃、空烈斬(くうれつざん)か!! こんなもの使えるなんて、何者だ!! 貴様!!」


「技の名前まで知っていやがる! お前こそ、ただの兵士じゃねーな!」


「やめてえええ!! 二人ともやめてええ!!」

 


 アテナの叫び声だった。



「貴様ああああ!! 許さん!! 許さんぞおお!!」



 アテナとティアナの姿を見た瞬間、隊長がブチ切れた。額に太い血管が浮き出ているのが解る。隊長は、凄まじい形相で斬りかかってきた。雄たけび。



「ティアナ王妃と、アテナ王女に何をしたああああ!! 貴様のはらわたを、その口から引きずりだしてやる!!」


「それはこっちのセリフだ!! この俺相手にやれるもんならやってみろ!!」



 隊長と斬り合う。なんだと? 俺とここまで打ち合えるやつがいるなんて……信じられん! まさに一触即発の戦いが続く。



「いい加減にしてよ!! 師匠もゲラルドもーー!!」



 再びアテナが割って入った。俺もゲラルドと呼ばれた男も、間に入ったアテナの目前で剣を止めた。


 ゲラルドだと? ゲラルドと言えばゲラルド・イーニッヒ。クラインベルト王国軍最強の剣士。俺が知っている程の男だ。なんてこった。すると、こいつは味方か。俺は剣を鞘に納めた。



「しかし、アテナ様!! こいつはアテナ様やティアナ王妃を!!」


「やめて! ゲラルド! この人は、ヘリオス・フリート。冒険者で旅していた所を、ドルガンド帝国軍に襲われていた私達を見つけて、助けてくれた恩人よ!」


「な……ヘリオス・フリートだと⁉ 伝説のSSランクの冒険者ヘリオス・フリートだと?」


「こんな所で、この国最強の男ゲラルド将軍に出会えるだけでなく、剣を交わせるなんて光栄だぜ。だけどな、そんな事よりもティアナ王妃を早く手当するんだ。極めて危険な状態だ」


「うっ……しかし……」


「わかんねーのか!! 急げって言ってんだよ!!!!」



 怒鳴った。するとゲラルドは頷き、剣を鞘に納め、急ぎ部下に指示を出して馬車とプリーストを手配した。やがて国王が大勢の兵士を連れてやってきた。


 






――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄


空烈斬(くうれつざん) 種別:剣術

飛ぶ斬撃とも呼ばれる。素早く剣をふり抜き、技と速度でかまいたちを発生させて放っている。しかし、実は闘気も練り込まれている。


〇プリースト 種別:クラス

新生系の回復を得意としたクラス。神官。

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