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第1278話 『ミルト・クオーンの心 その7』



「あの3人は、必ずなんとかします。ですからアローは、術が発動できるようになったら、すぐ私達が帰れるように準備をお願いします」


「いいでしょう、任されました」



 セシリアの肩にとまっていたアローは、大きく空に羽ばたいていった。そして私、セシリア、ローザの3人は、私達の後を追って屋敷から出てきた3人の私と向かい合う。どの私も凄まじく恥ずかしい格好をしていて、対面しているだけでも赤面してしまう。


 向かい合っている3人に対して、セシリアは『ワスプショット』を向けた。迷いは、ない。ローザも剣を抜いて構える。そして言った。



「一応、確認しておきたいのだが……あのテトラは、斬ってもいいのだろうか?」


「そうね。斬っても問題ないと思うわ」



 え⁉ 私の姿形をしているのに、セシリアは断言してしまった。万が一の可能性は、ないのだろうか。また問題がない言っても、相手は私の姿形をしており、私は自分自身が斬られるところをあまり見たくない。想像したくもなかった。そんな気持ちが伝わったのか、セシリアはクスリと笑ってみせた。



「でもテトラにしてみれば、自分が血祭りにあげられるのだものね。決して気持ちのいいものではないかもしれないわね」


「それもそうか。なら、斬るのはよそう。峰打ちなどの、打撃中心で打ち倒す事にしよう」


「そうね」



 なぜか、ホッとしてしまう。



「それはそうと、テトラ」


「はい?」


「あなた、いつもの槍は?」


「え? 槍? もしかして涯角槍の事ですか?」


「ええ、そうよ。ダニエルさんの時に、あなたに言っておいたからまさかとは思うのだけれど、まさかあなたまた涯角槍を忘れて……」



 はっとする!! セシリアに怒られたのに、また忘れてしまっていた事に気づいた。私は彼女にまた怒られる事を覚悟して、謝った。



「す、すすす、すいません、セシリア!! 私、また……」


「はあ、もういいわ。それもあなただから」


「そ、そんなあ……諦め的な……」


「忘れてしまったものは、仕方がないでしょ。今更、どうしようもないわ。とりあえず今は、愛用の武器が無い状態でこの状況をどう凌ぐか考えなさい。私だって、非戦闘員なのにここにいるのだから」



 セシリアにそう言われて、猛烈に反省をした。私はいつもこうやってミスをする。だからいつも誰かの足を引っ張っるし、役にも立たない。言われた事さえできないのだから。申し訳ない気持ちと、自分が情けないと思って蹲った。その瞬間、今度は私の頭の上を何かが飛んだ。周囲の草が刈られる。


 何が起きたの? 目を向けると、手に大鎌を持ったバニーガールの姿をした私が、こちらに向けてその鎌を振っていた。



「テトラ、セシリア!! 気を引き締めろ!! 私達がこの者達を倒す分には問題ないだろうが、逆に私達がやられた場合、問題があるのだろ?」



 アローに目を向けるも、彼はそこにはいなかった。彼は今、大空を羽ばたいて、そこから術を使える隙を伺っている。もしくは、準備に移っている。



「ならば、尚更やられないようにしないと。本気で戦うんだ。セシリアは、私の後ろへ下がれ!」



 ローザの言葉を聞いて、セシリアはその通りにした。するとボンテージ姿の私と、きわどい水着姿を着用した私が、2人してローザに襲い掛かった。ボンテージの方は、棘付きメイス。きわどい水着は、戦混……クオータースタッフを手に持っていた。

 

 1対2の接近戦で、ローザがメイスとクオータースタッフの私と打ち合いを始める。私にも大きな鎌を持った、私の顔をしたバニーガールが容赦なく襲い掛かってくる。


 でも私は武器がない。大鎌。前転。転がって、相手が振ってくる鎌から逃げる。何か武器になるものを探さないと……周囲をきょろきょろと見るも、草原が広がっているだけ。そして目を他に向けると、その隙をついてバニーガール姿の私は、休む暇もなく襲い掛かって来た。


 どうすれば……どうすればいいの……


 攻撃を避け続けてはいるけれど、いつまで通用するかも解らない。涯角槍もなく、私は私に勝つ事なんてできるのだろうか。打開策が見つからなくて、途方に暮れているとセシリアの叫ぶ声がした。



「しっかりしなさい! あなたが今、闘っているのもローザが相手をしているのも、あなたじゃないのよ!!」


「え?」


「姿形は、テトラ。あなた以外の何者でもないわ。あの胸を強調したきわどい水着を着ているテトラの存在は許せないけれど、バニーやボンテージなんて普段のテトラそのものでしょ!!」


「ちちち、違います!! 違いますよ!! わ、私はそんな恰好をしたこともないです!!」


「ほら、やっぱりそうでしょ?」


「え?」


「だから、あなたの目の前にいるあなたそっくりなバニーちゃんは、あなたではないのよ。もっと正確に言うと、十三商人ミルト・クオーンが妄想で作り出した幻影……と言えば一番的確かしら」


「幻影……」


「だからそれは、あなたそっくりでもあなたじゃない。惑わされないで」


「……はい」



 セシリアの言葉に耳を傾けながらも、バニーガール姿の私の攻撃を、私はかわしていた。


 確かにもしこの相手が私自信であれば、武器を持っていない私はもうその大鎌で斬りつけられているかもしれない。それにいくら私の実力が、ローザの洗練された剣術にとても及ばないとしても、彼女が2人の私を同時に相手して互角以上に渡りあっているのを見ても、セシリアの言っている事の正しさが解った。


 セシリアは『ワスプショット』を構えると、狙いをつける。私が戦っているバニーガール姿の私に向けて、引き金を引く。矢を放った。小さな矢が、右肩に刺さる。バニーガール姿の私は、矢を受けると痛みに顔を歪めた。けれどなぜかそれが、空虚のような……偽りの表情にも感じられた。セシリアの言った幻影という言葉が脳裏に浮かぶ。



「何をしているの、テトラ!! 今よ!!」


「え? あ、はい!!」



 怯んだ隙を狙って、私はバニーガール姿の私に向かって膝蹴りを放った。膝が相手の腹部にめり込む。するとバニーガール姿の私は、手に持っていた大鎌を地に落として両膝をつき蹲った。


 ローザの方も決着がついたようだった。



「待ってくれ!! テトラちゃん、行かないでくれ!! ここなら、この世界なら君の願いなんて、全てなんでもかなえる事ができるよ! ずっと、僕と一緒にここで永遠にいようよ!!」


「ごめんなさい、ミルト。私には、やるべき事があるから」



 いつも、おどおどしていた私。今もそうじゃないのって言われれば、決して否定はできない。でも今は、しっかりとミルトの目を見てはっきりとそう言えた。


 そして辺りに広がる草原地帯に、空から大量の光が降り注いだ。アローが術を放ったのだと解った。

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