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第1272話 『ミルト・クオーンの心 その1』



 交易都市リベラルの最高権力者である十三商人。その中には、私達が追っている『闇夜の群狼』の幹部がいる。その幹部の事を私達は、『狼』と呼んでいた。


 『狼』は、メルクト共和国とこの交易都市リベラルを盗賊達の楽園にしようとして、この国一帯に大勢の盗賊達を放った。それにより、メルクトの首都グーリエは、既に陥落してしまった。


 その情報に間違いがないとすると、メルクトは今も尚、刻一刻と賊に侵食され続けている。私達はそれを食い止める為、この国に盗賊達を呼び込んで操っている、張本人である『狼』をいち早く探し出して叩かなくてはならなかった。


 一つの都市が、盗賊達の襲撃を受けて陥落してしまうなんて、未だに信じられないけれど、首都グーリエは確かに陥落して盗賊達の巣窟になっているという。


 今もそこにいるはずのコルネウス執政官やボーゲン、ミリスさん達は、無事なのだろうか。心配でたまらない。もしも苦しい思いをしているのだとすれば、ここであまり時間をかけてはいられない。私達が、助けに行かないと。


 レティシアさんから預けられている地の精霊ラビッドリームを使えば、十三商人それぞれの心と記憶に入る事ができる。時間をあまりかけたくはないけれど、ラビッドリームとアローが協力してくれれば、このやり方が『狼』を見つけ出す手段として、一番信頼できて確実な方法だった。


 私達は、この方法に望みを賭けるべく、交易都市リベラルのデプス市長に協力を依頼した。シェルミーが、デプス市長に協力依頼をする事を思い付いて頼んでくれたので、スムーズに計画を進める事ができた。


 シェルミーの正体は、ガンロック王国の第一王女だった。他国とはいえど、一国の王女様の頼みであれば、デプス市長がそれを断る理由もなかった。それに彼自身も内心は、交易都市を脅かす、『狼』を倒したいと思っている。


 それで早速デプス市長には、十三商人に招集をかけてもらった。上手く行けばいいけど、全員が集まるなんて奇跡に近い。


 市役所に集まってくれたのは、約半数。それでもここで、調査対象の半分を調べられるというのは、とても大きな事だと思った。


 なぜ私達は、こんな事をしているのか。それを全員に説明して納得してもらえれば、ミルトやイーサン・ローグ、ダニエルさんにアバン・ベルティエのように、もっと全面的に協力してもらえるだろう。それも狙いだった。



「それでは、始めてもらおうか。僕はどうすればいい? このままでいいかい?」



 目前の椅子に腰かけているミルトは、私の目をじっと見つめてそう言った。私は急に恥ずかしくなって、横を向く。


 本当にこの人は、私の事を……でもそんなはずがない。だって今まで生きてきて思うのは、私はどちらかというと人から嫌われる事が多かった。いつも俯いているような性格だし、おどおどだってしているし……


 ひょっとしたら、ミルトは私をからかっているのかもしれない……でももしも、本当にこんな私の事をいい風に思ってくれているのなら、からかっているだなんて言ったら気を悪くさせてしまうかもしれない。


 ブンブンと頭を左右に振る。


 いけない!! 今はそういう邪念を取り払わないと。セシリアと目が合う。まるで私が何を考えていたか、見透かしているような無表情の目。こんな時に何を考えているんだって、軽蔑の眼差し。



「は、はうう……」


「なにかしら、テトラ。何か言いたい事があるなら聞くわよ。でも今は、やるべきことがあるでしょ。だから今、あなたが悩んで唸り声をあげている事も、もちろんそれに関する事なのよね」


「え? えっと……まあ……その」



 違う、ミルトのことだった。誤魔化そうとしても、彼女には全て見透かされている。セシリアは、小さな溜息を吐くと、私が座っている隣の椅子に腰をかけた。彼女もミルトと向かい合っている。



「それじゃ、ダニエル・コマネフの次は、あなたが協力をしてくれるのよね。ミルト・クオーン」


「ああ、そうだ。次は、この僕だ」


「それじゃ……また私が一緒についていくわ。さあ、テトラ、始めてちょうだい」



 シェルミーとローザに目を向けた。これからミルトに対して、術を発動するという確認。するとシェルミーが何かを察して、ローザに言った。



「ここにはデプス市長もいるし、大丈夫だよ」


「え? どういう事だ?」


「どういう事だ? じゃないでしょ、ローザ。さっきテトラとセシリアが、ダニエル・コマネフの心と記憶の世界に入った時に、凄く心配している顔をしていたよ。もちろん私だって心配はしていたけど、ローザはもっとだった……」


「それを言うなら、ミシェル様……ではなくて、シェルミーも一緒ではないのか?」


「そうだけど、私の場合は目的の一致で協力関係にあるって感じだからね。もちろん内心は、ローザと同じように仲間以上の関係になれたらって思っている。だけど今は、君達の結びつきの方が圧倒的に深いように感じたからね」



 シェルミーに、私達とローザの結びつきが深いと言われて嬉しかった。


 確かにローザとは、このメルクト共和国の旅の最初から行動している仲間であり……それから色々な事があって、ここまで様々な困難を一緒に乗り越えてきた。シェルミーが言う通り、結びつきは深いのかもしれない。


 でもそう思っていても、彼女との旅の最初は、心のどこかで彼女との身分の差を感じていたのも事実だった。彼女と私では、身分が違いすぎて、最初はローザに対して緊張しかなかった。彼女は『青い薔薇の騎士団』という、セシル陛下直轄の騎士団の団長様だったし、アテナ様とも深い親交を結んでいたのだ。


 対して下級メイドの私とでは、ぜんぜん家柄も立場もそもそもが違う。本来ならば、私は彼女に対してローザ様と呼ばなければならない。


 でもローザは、私やセシリアに対しても凄く友好的に接してくれて、言葉や行動も普通にしてくれていいって言ってくれた。気が付けば、私の大切な……ローザもそう思ってくれているのだとすれば、これ以上ない位にとても嬉しいけれど……大切な友達になれたと思っている。


 一国の王女様に対して、こんな事をいうなんて恐れ多いかもしれないけれど、シェルミーやファーレに対してもそういう同じ気持ちが溢れてきている……


 無礼で恐れ多い事だって……普通はあり得ない事だって理解しているけれど、私にとってローザやシェルミーやファーレは、今や大切な仲間……以上の存在になってしまっていた。



「ほら、こっちの椅子にローザも座って。私はここで、皆を見守っているからね。そういう訳だから、テトラ。ローザも一緒に連れて行って欲しいんだけど、大丈夫だよね?」


「えっと……はい! 大丈夫です! それじゃ、始めますね」



 私を真ん中に挟んで、セシリアとローザが座った。両手をミルトの方へ差し出すと、掌を上に向ける。それから私の中にいるラビッドリームに呼びかけた。するとまた掌から光が溢れ出す。ダニエルさんの次は、ミルトの心と記憶の世界へ入る。


 ミルトは、全く余裕のない顔をしているだろう私の顔を見て呟いた。



「こんな綺麗な女の子が、3人も僕の中に入ってきてくれるなんて光栄だ。内なる僕が、何か粗相をしでかさないように気をつけないとね、ははは。でもなんと言っても一番嬉しいのは、テトラ……やはり君が僕の中へ来てくれる事だ」


「え?」


「君が僕の中へ入ってきてくれる理由は、ちゃんと解っている。僕が『狼』であるかどうか、確かめる為だ。そして僕は、君に自分の潔白を証明する事ができる。でも僕はそれに加えて、僕の中にある君に対しての真剣な気持を、解ってもらいたいと思っている。テトラ。僕は君に初めて会った時から、君の事がす……」



 目の前が真っ白になった。光――――部屋の中に眩いばかりの光が広がった。

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