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第1270話 『ダニエルの闇 その14』



 ――――目を覚ますと、市役所のあの部屋にいた。倉庫に使用している部屋。椅子に座っている。そして私の両目からは、なぜか涙がとめどなく溢れていて、対面していたダニエルさんを戸惑わせていた。



「大丈夫、テトラ! ダニエルさんの心と記憶の中で、何かあったの?」



 シェルミーの言葉に、私は俯いた。思い出す。そしてダニエルさんの顔を見る。



「私……ダニエルさんの家族に会いました」


「な、なんだと⁉」



 ダニエルさんは、驚くも直ぐに平静を取り戻した。私が会ってきたのは、ダニエルさんの記憶。でも偽物でもないと思った。



「そうか……スザンヌやトマス、シェレイにも会ったのだな」


「はい……私とセシリアが入った世界は……ダニエルさん達が……盗賊達に襲われた、その日でした」


「……そうか……それは、つらい思いをさせたな」


「つらい思いだなんて!! つらいのは、ダニエルさんなのに!!」



 スザンヌさん、トマス君、シェレイちゃん。ダニエルさんの家族の事を思い出すと、涙がまた溢れた。止まらない。そんな私の涙を、ダニエルさんがハンカチを取り出し、拭ってくれた。



「テトラ、君も見てきたのだろう」


「何をですか?」


「スザンヌ、トマス、シェレイだよ。私の何よりも大切な家族は、慈悲も無い盗賊共によって皆……殺されてしまった。今でもあの時の事は悪夢として見る。しかし私の家族は今も尚、生き続けているのだよ。私の心の中でな」


「…………」


「心を落ち着かせて、聞かせてくれ。それで……私は白だったと証明されたのかな?」



 ダニエルさんがそう言うと、シェルミーとローザ、デプス市長も私とセシリアに注目した。



「そ、そうなんです!! ダニエルさんは、『狼』ではありません!! そう証明できる根拠がちゃんとありましたから。実は、ダニエルさんの心と記憶の世界へ入った時に、そこでアローが助けに来てくれて……」


「アロー? アローと会ったって、それはおかしくないか?」



 私とセシリアがアローに会った事を知り、ローザが怪訝な顔をした。



「おかしいですか?」


「だって、そうだろ? アローは今、リッカーの用心棒をしているんじゃなかったのか? 奴の住処では、この私もそれを見た。ならアローは、リッカーの住処からどうやってダニエルさんの心の中へ入ったのだ?」


「それは解りません。でもリッカーは、そこにいるデプス市長の呼びかけで今、この市役所内にいます。この部屋を出て直ぐの会議室。そこで他の集まってくれた十三商人の人達と、調査を受けるのを待ってくれているはずです。それなら、リッカーの用心棒をしているアローは、彼の警護だと言ってここに来ているのかもしれませんし」


「私はアローを見ていない。テトラもそうじゃないのか?」


「それは……そうですけど……」



 セシリアは椅子から立ち上がると、私とローザの会話に対して言った。



「私の目にも、アローに見えたわ。でも彼はなぜか私達と同じようにここには、戻らなかったみたい。それならそれで、今はいいんじゃないかしら。きっと彼にも考えがあるだろうから。それよりも私達はまず、ここに集まっている十三商人を調査していく事を優先するべきなんじゃないかしら。アローの事なんて、後で彼自身に聞いてみればいいだけの事だと思うのだけれど」



 確かにセシリアの言う通り。ローザも納得したようだった。シェルミーも頷いている。そして再び、ダニエルさんとデプス市長に向き合う。



「ダニエルさん、ご協力ありがとうございました」


「疑いが晴れて良かった。私が商売で取り扱っているアーマーもそうだ。信用無くしては、ならないものだからな」


「ええ、まさにその通りです。それじゃ、市長。次の方を、ここへ呼んできてもらえますか?」


「解りました。それでは……」



 次はいったい誰を呼んで来ればいいのか。デプス市長はそれを聞こうとしたので、シェルミーはその判断を私に求めた。私は迷う事無く、ダニエルさんの次にここへ呼ぶべき人物の名をあげた。



「それじゃ、ミルトさんかイーサンを呼んでください。お2人は、私によくしてくれました。だからやっぱり、ダニエルさんの次に信用できる人と言えば、そのお2人の名が思い浮かびました」


「解りました。それじゃ、呼んできます」


「デプス市長。私も共に会議室へ参りましょう。全員の調査が終わるまで、私はそこで待機しています」



 そう言って、デプス市長と共に部屋を出て行こうとするダニエルさんを呼び留めた。



「ま、待ってください、ダニエルさん! その……」


「解っているよ、任せてくれ。もう……知っての通り、私は盗賊という盗賊を恨んでいる。根絶やしにしてやりたいとまで思っているよ。だからこそ、私は私の取り扱うアーマーに賭けて、君達に全面協力すると誓おう。私はデプス市長と共に会議室へ行き、今日ここへ集まった十三商人全てのチェックが終わるまで、可能な限り全員を留めておこう。勝手に帰らないようにな」



 ダニエルさんは、そう言って笑うとデプス市長と部屋を出て行った。


 ダニエルさんの協力は、とてもありがたい事だと思った。でも私が彼を呼び止めたのは、彼が今言った事ではなくて、スザンヌさん、トマス君、シェレイちゃんの事だった。


 例え現実世界ではないとしても、半日だけだったとしても、私とセシリアはダニエルさんの家族と共に、幌馬車で旅をしてキャンプをした。そして親切にされて……とても楽しかった。


 スザンヌさんは、優しくて……トマス君もシェレイちゃんもとても可愛くて好奇心旺盛で……それを伝えたかった。でもそれを口に出してしまうと、ダニエルさんの心を逆に傷つけてしまうんじゃないかって……


 そう思って、これ以上彼を引き止める事はできなかった。

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