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第1264話 『ダニエルの闇 その8』



 私とセシリアとアローは、ダニエルさん一家と一緒にキャンプをしていた場所からこっそりと抜け出して、少し離れた場所へ移動した。ここなら、普通に大きな声を出しても気づかれない。周囲を見回す。森とまでは言わないけれど、辺りは緑が多い。



「はい、この辺でいいでしょう」



 移動する時に、セシリアがダニエルさん達のいるキャンプから、これ程まで距離を取る必要があるのかとアローに尋ねた。アローは、あると答えた。


 今、この世界で術を使っているのはアローだけど、その術を使う為の魔力は私のものを使用しているらしい。それは、ラビッドリームが望んで選んだ事。


 だからアローは、術を使う時にできるだけ私に負担をかけない方がいいと言った。魔法などに専門知識の無い私には、それもよく解らない事だけど、術を発動する時に原動力になっている私の精神とか、そういうのが乱されたり、何か影響を受けたりしない方がいいって事だと思った。


 だからダニエルさん達と距離を取った。もし現実世界に戻る瞬間に、ダニエルさん一家に気づかれたりしたら、ダニエルさんの精神が私達にどう干渉してきて、この精神世界で何が起こるか解らないから。


 アローは多分問題はないと言ったけれど、石橋を叩いて渡るにこした事はないとも言ったので、私とセシリアもそれに賛成した。



「それじゃ、レディー達。僕と向かい合ってくれるかい。そう、円になって」



 セシリア、アローと共に円になる。アローが両羽を広げて、目を閉じた。



「2人共、準備はいいですか?」


「はい! お願いします!」


「ええ、お願い」



 アローの身体から何かが溢れ出した。まるで炎に包まれている。例えるなら不死鳥と言えばいいかもしれないけれど、アローはボタンインコなので、ちょっとそういうイメージではないと思って少しおかしくなってしまった。丸みのある、可愛いフェニックス。


 フフ……でもこれで、ローザやシェルミーの待つ、あの市役所にある倉庫部屋に戻れる。ダニエルさんは、やっぱり白だった。アローがいてくれるなら、このまま続けて集まってくれた十三商人達を調べる事ができるし、思っていたよりも結構順調に調査を進めていけると思った。



「では、2人も目を閉じてください。意識を集中して――」



 アローのその言葉に従う。意識が徐々に遠のいているかのように思えた。今いる場所は、森のような緑の多い場所で真夜中なのに、熱くなく寒くもない真っ白な空間にいるように思えた。


 …………


 もとの現実世界へ戻る。


 そう思った刹那、唐突に誰かの悲鳴が聞こえてきた。



「キャアアアア!!」



 なに? 誰? 誰の声!?


 目を開くと、辺りは真っ白な世界。もとの現実世界へ戻る為の術の途中、意識を集中しなくてはならないのに、いったい何をしているのかとアローに睨まれる。



「テトラ。意識を集中して!」


「え? でもアロー。今、誰かの悲鳴が!!」


「悲鳴? そんなものは、気にしなくてもいいんです」


「でも!!」


「忘れましたか、レディー。この世界は、ダニエル・コマネフの心と記憶の世界。現実世界ではないのです!」


「でも、さっきの悲鳴は女の子だった!!」



 そう、シェレイちゃんの声だ!! その事に気づくと、私はセシリアとアローと作っていた円を抜けた。すると徐々に辺りを包んでいた光は薄暗くなっていき、気が付くともとの緑が多い場所にいた。



「テトラ!! 君の残りの魔力は、僅かしかないんですよ!! 今のうちに、現実世界に戻るべきです!! そんな事は放っておいていい!!」


「放ってなんて、おけません!!」


「だが現実世界じゃない!! 行ったとして、何になる? 意味がない!!」


「意味はあります!!」



 気が付くと手には、棒が握られていた。この世界にやってきて最初に、セシリアが草場で見つけてくれた棒。


 私はその棒をぎゅっと握ると、セシリアとアローから目を背け、悲鳴のした方へと真っ直ぐに駆けた。



「ちょっとだけ、待っていてください!! 直ぐに戻ってきますから!!」


「テトラ!! まったく、何を考えているのやら」


「こうなってしまっては、仕方ないわね。とりあえず、私達もテトラの後を追いましょう」



 駆けた。急いで駆けた。悲鳴がした方向は、私達がこの場所へ歩いて来た方向だった。つまりダニエルさん一家がいるテントのある辺り。やっぱりさっきの悲鳴は、シェレイちゃんの悲鳴だったんだ。


 到着すると、そこには数十人の男達が立っていた。ダニエルさんは、引き裂かれたテントの上に倒れ込んでいて、スザンヌさんとトマス君とシェレイちゃんは、その男達に捕らえられていた。


 いきなりここへ飛び出してきた私と、男達の目が合う。男達は、私の姿を見ると舌なめずりをしてニタニタと笑い始めた。



「ひゃっへーー、狐のメイドちゃん発見!」


「どういう訳だ? 森からかわいこちゃんが飛び出してきたぞ!」


「こりゃー夢か? それとも俺らに贈り物か?」


「馬鹿言うな! いや、でもそうかもな。天が俺達にご褒美をくれたのさ!」



 雰囲気や言葉使い、顔つきなどからしても典型的な盗賊だった。間違いない、さっきのシェレイちゃんの悲鳴は、この盗賊達に襲われたからだ。


 そう思った次の瞬間、私の頭のてっぺんに雷が落ちたような感覚に襲われる。私は、ダニエルさんから聞いた話を思い出した。


 ダニエルさんには、愛する妻と2人の子供がいた。でも愛する家族は、盗賊の手にかかって死んでしまった……3人が眠っているダニエルさんの邸宅にあったお墓の前で、その話を聞いたのだ。


 ……もしかして!!


 もしかして、ダニエルさんはここで……この場所で最愛の家族を失ってしまったんじゃ……


 ゴロゴロゴロ……


 稲光。まだ夜も明けていないのに、雲行きは怪しくなり、雨がポツポツと振り始めた。

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