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第1263話 『ダニエルの闇 その7』



「テトラがそう感じるなら、きっと間違いはないわね。ラビッドリームは、今はアローの中にいて、アローがその力を使える。そしてその力を使って調べた結果、ダニエル・コマネフは白だった」


「はい、間違いなくアローからラビッドリームを感じます。アローは私達の味方ですし、ダニエルさんを調べたというのなら、そうなんだと思います」


「そう、なら彼はもうクリアって事ね。それでも……残りはまだ12人もいるのね。なら用が済んだのだから、さっさとここからおいとましましょう。後がつかえているわ」



 アローをあれほど疑っていたのに、セシリアは全く悪びれもなく言った。でもその通りだと思った。時は刻一刻と過ぎていく。



「解りました。それじゃ、脱出しましょう。市役所のあの部屋に戻って……他の皆さんがまだ残ってくれているのなら、その人達から同じように調べていきましょう」


「そうね、ダニエルさんだけでも、かなり時間がかかったような気がするし」



 セシリアの言葉に、アローがニヤリと笑う。



「レディー。それなら、さして問題はないと思いますよ」


「それは、どういう事かしら」


「時間は、それほど経っていないという事です」


「……意味が解らないわ。もっと簡潔に話してもらえるかしら」


「いいでしょう、それでは簡潔に。このダニエル・コマネフの世界と、僕達の本来いる現実世界とでは、経過している時間が違うのです」


「え? 経過している時間が違う!?」


「もっと正確に言うと、この僕の力でこの世界の時間の流れを緩めている……そう言えばいいですかね」



 え? どういう事? セシリアの顔を見ると、驚く事に理解しているようだった。対して理解していない私は、セシリアとアローの顔を忙しく交互に見た。



「ど、どういう事ですか?」


「つまりこういう事よ。アローは、ラビッドリームの力をあなたよりも上手に使える。だからその力を操作して、現実世界とこの世界の時間の経過を変化させているという事ね。魔法など全く知識のない私には、どうしてそんな事ができるかなんてとても解らないけれど、要はこの世界で半日も時間が経っていたとしても、私達の本当の身体があるあの市役所では、それほどの時間は経過していない。そういう事ね」


「ええええ!! そ、そうなんですか、アロー?」



 セシリアの驚くべき解説を聞いて、アローは自分の両羽を使って拍手をしてみせた。



「イグザクトリー! レディー、その通りです。よって、こちらでは半日経ってますが、そうですね……おそらく向こうでは30分位しか時間が経っていないでしょうね」


「さ、30分!!」



 よく解らないけれど、なんだか凄く得をしている気分になった。



「もしかしてテトラ、あなたは今ちょっと得をしたなって思いましたか?」


「え?」



 アローに心を読まれてしまっていると思って、ドキッとする。



「レディー、さては……この世界なら現実世界よりも、時間をたっぷりと使えるとか思って、得をするかもしれないと考えているのではないですか? もしそんな事を考えているのなら、大外れと言っておきましょう。この世界にはそれ程、長居はしていられませんよ」


「え? え? どうしてなんです?」



 アローの言葉に、私だけでなくセシリアも興味深い顔をする。



「忘れましたか。この世界には、ラビッドリームの能力を使って入り込んでいます。しかし正しくは、能力を使うというのは適切ではなく……力を借りてあなたが術を発動させていると言えば、より適切なのかもしれない。なぜなら、ラビッドリームの能力を使うのには、それなりの魔力が必要。その源はレディー、あなたなのですからね」



 アローはそう言って片羽で、私を指した。



「わ、私の魔力……」


「へえ、あなた魔法なんて使えたの?」


「ななな、何を言っているんですか、セシリア! 私、魔法なんてぜんぜん使えませんよ!」


「そう、テトラは魔法は使えません。でも僕に比べれば極めて僅かですが、体内に魔力はあります。大小問わなければ、誰だってある。それを使っているのです。因みにテトラの魔力量は、小。小の中でも小、極小です。よって、この世界には長居できないという訳ですね。この世界に入ったり出たり、居続けるのにももっと魔力という燃料が必要であり、その燃料がまもなく切れかかっているのです」


「そ、そんな!! でもそれ、おかしいですよ!!」


「おかしい? はて、何がおかしいのですか?」


「はい! だって今、ラビッドリームの力を使っているはアローですよね。それじゃ今、燃料を使用しているのは、アローなんじゃないですか?」


「すいません。実は今、ラビッドリームが燃料を使用しているのはレディー、あなたの魔力なんですよ」


「ええええええ!!!!」



 どうりで急に気持ち悪くなったり、いつもより身体が怠いような気がすると思っていた。



「ご存じの通り、僕の方がテトラよりも圧倒的に魔力に溢れている。だから僕から魔力を取ればいいとラビッドリームにそう言って、説得しようと試みたんですがね。残念ならがらラビッドリームは、テトラを気に入ったようでして……」


「フフフ、良かったわねテトラ。兎ちゃんに気にいられて」


「よくないですよ、っもうセシリアは!! それで、これからどうすればいいんですか?」


「セシリアがさっき言ったように、このダニエル・コマネフの心と記憶の世界での用は済みました。彼は白です。さっさと脱出しましょう。なにせこの世界に入る為に、それなりの力を使いましたが、更にダニエル・コマネフが『狼』でないかどうか、それを探ろうと彼の深層心理に侵入する為に重ねて力を使い、こうしてこの世界に半日居続けているのにも力を使い続けている。このままいくと、テトラの魔力は枯渇してしまう」


「こ、枯渇したらどうなるんですか?」


「僕らは、この世界で存在を保てなくなりますね。だからと言って、現実世界に戻る事もできない。この世界に精神は取り残されてしまい、ただ漂う」


「えええ!! そ、そんなの……」


「そうです。あなた方がやっている事は、生兵法では危険のつきまとう行為なんですよ。ですが速やかにやれば、問題はありませんし……幸い僕は、ラビッドリームの使い方を心得ています。今直ぐにここから脱出すれば、それでいい話なのですよ」



 この世界に私達の精神が取り残されて、漂う……それがどういう事なのか説明しなさいと言われれば難しくてとてもできないけれど、大変な事になるという事は、ハッキリと解った。


 セシリアとアロー、2人と顔を見合わせる。


 ダニエルさんやスザンヌさん。トマス君にシェレイちゃん。皆で一緒にリベラルの街に行きたかった。このまま別れも告げずに去らなくてはならないのは、現実世界ではないといえども寂しいものを感じる。


 だけど今すぐ戻らないと――

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