表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1261/1351

第1261話 『ダニエルの闇 その5』



 ダニエルさんが馬車から持ち出してきた木箱。その中に収められていた何本もの宝剣を見て、セシリアは声をあげた。



「まあ、素晴らしい。とても素晴らしい宝剣だわ。こういうのよ、こういう商品を私達の主様は買い付けてこいとおっしゃっていたの」


「おお、この宝剣の価値が解るのか!」


「ええ、解るわ。だってこんなに見事な剣は、見た事がないから。これほどの品、いったい何処で手に入れたのかしら」


「それは……商売上、あまり答えるべきではないのだが、まあいいだろう。こういう宝は、手のつけられていないダンジョンで見つかったりする。そうだとも、冒険者にトレージャーハントを依頼して手に入れるのだよ。私は冒険者が手に入れた品を……っと言ってもウェポン専門ではあるが、村や街にある店よりも高値で買い取ってやる。そして、更に高い値段で珍しく良い品を売る。そういう事を長く続けているから、私の名は遠くへ知れ渡り、遠くからもわざわざ私のもとへ商品を買い付けにきてくれる客がいるのだ。そうして信頼を得て、商売をしている」


「なるほど、信頼こそがいい商人になる条件なのね」


「はっはっは、そうだな。信頼こそ、商売をする決め手だと私は信じている」


「私の主様も、そういう信頼を大切にするお方だから、きっといい取引ができると思うわ」


「ほう、それは楽しみだ」



 ダニエルさんは、上機嫌に笑って飲みかけの珈琲を飲みほした。トマス君とシェレイちゃんが、うとうととし始めるとスザンヌさんがダニエルさんに向かって言った。



「あなた、そろそろ……」


「ああ、そうだったな。それじゃセシリア、テトラ、君達も休むといい。向こうにもう一つテントがあるだろう。あれは、君達が使ってくれていい。私達はこっちの大きなテントで、親子水入らずで仲良く眠る事にしよう。取引に関する事は、また明日起きてからリベラルの街に向かいがてら話をする事にしよう」


「解ったわ。それじゃ、休ませてもらうわね」


「ありがとうございます、ダニエルさん」


「…………あれ? お姉ちゃん……おやすみなさい」


「はい、トマス君もシェレイちゃんもおやすみなさい」



 急に眼を覚ました2人。でも凄く眠そうで、私達におやすみと言って手を振ると、ダニエルさん達が寝るテントの方へ、スザンヌさんに手を引かれて歩いて行った。ダニエルさんも、にこりと笑うと子供達に続く。


 私の肩には、アローがとまっている。そのアローとセシリアに言った。



「それじゃ、私達も寝ましょうか。明日もきっと早いかもですし」



 先程までダニエルさんと和やかに商売の話をしていたセシリアの顔が、恐ろしいものへと変わっていく。



「へ?」


「寝ましょうかって、あなた……もしかして、本当にそんな事を考えている訳ではないわよね。まさかここまで来て、わざわざキャンプをしにやってきたなんて、思ってないわよね」


「え? はっ!!」



 セシリアの言わんとしている事に気づく。アローの呆れた顔。



「そ、そそそ、そんなの思ってないですよ!! でももう夜ですし、起きてから行動した方がきっと効率的かなと思って」



 セシリアの明らかに怒ってる顔は、私の言葉でアローと同じように、呆れたものへと更に変化してしまった。怒りを通り越してしまったという事なのだろうかと、恐る恐る彼女の顔を覗き込んだ。



「あの……セシリア?」


「ちゃんと理解していると思っていたのだけれど、私達の身体はここにあるように見えて、実は本当の世界にある交易都市リベラルの市役所にあるのよ。そこの倉庫みたいな部屋で、椅子に座ってる。このままここでキャンプを続けてなんてしまったら、どれ程時間が経っているか解らないかしら」


「え? どれ程経っていますか?」


「そんなの、かなり経っているに決まっているでしょ!!」


「あひい!!」


「私達はこの世界に入って、それから少し彷徨った。そしてこの世界のダニエル・コマネフと彼の家族に出会い、一緒に馬車に乗って移動をしてきたわ。更に今、キャンプをしてしまっているのだけれど、あれから半日は経っているでしょうね」


「は、はい」


「まだ解らない? もしも、現実の世界と経過する時間もリンクしていたら、私達の身体はあの市役所で半日、椅子に座って過ごしている事になるのよ」



 え? ええええ!! セシリアに言われて、やっと事の重大さに気づいた。



「そ、そそ、そんな!! もしそうだったら、おトイレとか私、きっと我慢できてないかもしれない。そしたら無意識のうちに……」


「そんな事はどうでもいいのよ!!」


「どどど、どうでもよくないですよ!」


「私達の目的を忘れたの? 私達はいち早く首都グーリエに向かわなくてはいけないのよ。きっと苦しい事になっている、ボーゲン達の応援に向かわなくちゃならない。でもその前にこのリベラルを救っていなければ、グーリエには向かえない。ボーゲン達を助ける事ができたとしても、この交易都市リベラルが賊の手に渡れば、私達のやってきた事はまた一からの振り出しに戻るのだから! だからこそ、少しでも早く『狼』を見つけ出さなくてならないのよ!!」


「わ、解ってますよ。でももう半日も経ってしまっていますし……」


「はあ……もういいわ。それでどうなの? ダニエル・コマネフは、『狼』だと感じた?」


「えっと……そうですね。私的には、彼は悪い人には見えません。『闇夜の群狼』とも全く関係がないように見えますし……」


「確証は?」


「え? あの、その……それは、はっきりとは解りません。ラビッドリームの力を使えば、きっともっとはっきりとダニエルさんから何か感じ取る事はできると思うのですが……」


「じゃあ、ラビッドリームの力を……」



 途中まで言って、セシリアは言葉を止めた。このダニエルさんの心と記憶の世界には、ラビッドリームの力を使って入った。でも今、ラビッドリームは私の中にはいない。セシリアは、その事に気づいたから、私にその力を使えばいいと言いかけてやめたのだ。


 最初にラビッドリームの能力で入った世界、あの時のフォクス村でもラビッドリームは、その世界の中を勝手に動いて徘徊していた。今、あの子が何処にいるのか、私には解らない。ただ解るのは、私達と同じようにこのダニエルさんの心と記憶の世界の何処かには、存在しているということ。


 どうすればいい……


 これからどうすれば……


 こうしている間にも、あの市役所にある一室で、シェルミーとローザが私達の帰りを待ってくれているのかな。会議室には、ファーレ、メイベル、ディストルもいて待っていてくれている。本当にあれから半日も経ってしまっているのなら、ダニエルさんの他に集まってくれている十三商人は、もう時間がかかりすぎてしまっているので、うんざりして解散してしまっているかもしれない。


 どうしよう……どうしよう!!


 ボーゲン、ミリス、アレアス、ダルカン、ビルグリーノさん、マルゼレータさん……コルネウス執政官……首都グーリエできっと苦しい状況に陥っていると思われる、皆の顔が次々と浮かんだ。


 早く向かわなきゃいけないのに、どんどん泥濘にハマって動けなくなる。抜け出せなくなる。十三商人に『狼』が隠れ潜んでいると言っても、未だに1人も白なのか黒なのか解らないでいる。


 どうすれば……どうすればいいの!!



「ふう……言っておきますが、ダニエル・コマネフは、白ですよ」


『え!?』



 ずっと黙っていたアローが、いきなりそう呟いた。私とセシリアは、驚いてアローに目を向けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ