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第1260話 『ダニエルの闇 その4』



 辺りは暗くなった。そして私とセシリアとアローは、ダニエルさんとその家族と共に焚火を囲って晩御飯を頂いていた。


 美味しそうな角食パンを、スザンヌさんが1センチ位の厚みにスライスしていく。そして予め、村か街、もしくは行商人から購入していた肉や野菜などの具材を入れて、とてもリッチなサンドイッチを作ってくれた。かなりのボリュームな上に豊富な具材で、私は驚いて大きな声をあげてしまった。スザンヌさんとトマス君、そしてシェレイちゃんはそんな大人げない私を見て笑ってくれた。


 そして不思議だと思ったこと。ここはダニエルさんの心と記憶の世界。現実世界ではないはずなのに、ちゃんと焚火の暖かさや、サンドイッチの味も美味しいと感じていた。更に不思議な事に、何かを食べれば満腹感だってあるし、全てが本物に感じて見えた。


 セシリアも私と同じふうに思っているはず。平然としているようには見えても、その表情の陰には困惑しているような気配が見てとれた。



「こら、トマス! 食事の時は、ちゃんと食べる事に集中しなきゃでしょ! ほら、口にものが入っている時は、喋らない」



 スザンヌさんに注意されているトマス。怒られないように気をつけようとしても、外でこうやってキャンプするのが楽しいのか、また食べながらも喋ってしまう。口から何かが飛んで、またスザンヌさんに怒られる。それを見て大笑いするダニエルさんと、シェレイちゃん。


 幸せそうに見える家族……だけどこの先の運命を知ってしまっている私は、心からこの安らぎの時間を楽しむ事ができなかった。これは現実じゃない。どうなるかは、もう決まってしまっている。私には、変えられない。どうしようもない。


 だから今は、ダニエルさんが『狼』でないという確証を得る事だけを考えるようにした。一番大事な事は、それだから。



「どうした? もっと食べてくれ。スザンヌの作るサンドイッチは、私の取り扱う数々のウェポンよりも上等だぞ」


「ありがとうございます。でもお腹がもういっぱい……はうう!」



 脇をつつかれる。見るとセシリアが、私を睨んでいた。



「え?」


「折角のご厚意よ。頂きなさい」


「え? で、でももうお腹が……」


「この世界の事は解っているでしょ。あなたが食べられると思えば、食べられるのよ。だから食べなさい」


「そそ、そんな事言っても、もうお腹が……」



 そう言って、膨れた自分のお腹を見た。この世界は現実ではないけれど、食べ物の味はしっかりと感じるし満腹感もある。実際の私の身体はそうではないかもしれないけれど、今の私はもうお腹いっぱいで動くのもしんどいと思う位になってしまっていた。


 別の言い方をすれば、スザンヌさんの作ってくれたサンドイッチは、ダニエルさんが言ったように驚く程に美味しかったのだ。



「ほら、いいから食べなさい」


「あうう……」



 セシリアは、とても厳しい目で私を叱った。こうなると駄目だ。馬車の移動中に、具合が悪くなって横になってしまった私を気遣ってくれていた彼女はもういない。うううーー。


 唸りながらも私は、残っているサンドイッチに手を伸ばした。このまま食べ続けたら、風船みたいになって弾けてしまいそう。


 そんな私とセシリアのコソコソとしたやり取りを見て、ダニエルさんやスザンヌさんは、微笑ましいという感じで笑っていた。本当は、私がセシリアに脅されているのに……


 スザンヌさんは、シェレイちゃんと一緒に珈琲も淹れてくれた。それがまたサンドイッチととても合う。でもあまり珈琲を飲むと、眠れなくなってしまいそうだと思った。


 あれ? 眠るって……私はこの世界にいったい何をしに来たのだろう。ダニエルさんとその家族に癒されて、ついゆっくりとしてしまっているけれど、早くダニエルさんが『狼』ではないという間違えのない確証を掴んで、もとの世界へ戻らなければならないのに――


 この世界があまりにもリアリティがありすぎて、自分がダニエルさんの心に入り込んでいる事を時折忘れてしまう。



「それで――」


「はい」


「君達は、どういった物を求めて、私に会いに来たのかね?」


「え?」


「ご所望の商品だよ。私の噂を聞いて、クラインベルトから遙々と会いに来てくれた。君達は、メイドのようだから察するに君達の雇い主に言われて、買い付けにやってきたのだろう。しかし私の取り扱う商品は、知っての通りウェポンだ。もしかして君達の雇い主は、領主か何かで戦でもしようとしているのかな?」


「あの……それは……」



 返答に困っていると、セシリアが代わりに答えてくれた。



「いえ、戦なんてしようとしてはいないわ」


「ほう、ならばなぜ私のウェポンを?」


「それは……私達の主様は、貴族なのだけれど、とても幅広い趣味をお持ちなの。その一つが、武器集め。かなりのコレクターで、自分の屋敷に専用の展示部屋をお造りになられている位よ」


「ほう、なるほど。ウェポンのコレクションを……それなら、確かにいい取引ができそうだ。平和的だしな、わははは。因みに私の取り扱うウェポンは、手軽に購入できるものが少ない。その代わり、珍しいものやレア級の素材で作られたもの、名の売れたドワーフの職人が作ったものなど、ちょっとやそっとでは手に入らないものばかりだ。そういう品揃えにかけては、かなりの自信がある」



 相変わらず、そういう話を直ぐに思いつけるセシリアに関心していると、ダニエルさんは立ち上がって馬車の方へと歩いていった。そして木箱をひとつ手に取り、戻ってくるとその中身を私達に見せてくれた。


 木箱の中に入っていたもの。それは、宝剣だった。私はこれまでの人生で宝石など触れる事もなかったので詳しくは解らないけれど、輝きからして本物に思えた。そんな青、赤、黄、色々な色の光を放つ宝石の装飾を施された宝剣が、何本も木箱には収められていた。

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