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第126話 『ヘリオス・フリート その2』





 ティアナは、テントに寝かせた。毛布を貸してやったのでマントは返してもらった。


 アテナには、ティアナを暫く休ませてやりたいから、起きるまでそっとしといてやれと伝えた。するとアテナは、やる事がないのか、落ち着かないのかずっと俺に付きまとってきた。


 焚火の準備をするのにも、アテナは興味津々で物凄く顔を近づけてくるし、色々質問してくるわでかなり困った。はっきり言って邪魔だ。



「ねえねえ、なぜ火属性の魔法を使わないで、マッチで火を付けたの?」


「あー、俺は魔法が使えないんだよ。典型的な剣士だからな。まあ魔法が使えたとしても、焚火には使わねーけどな」


「え? え? なんで?」


「だってそんなの情緒がねーだろ? そんな魔法なんかで火を付けたら、焚火の醍醐味なんてありゃしねーだろ?」



 アテナは、よく解らないといったふうな顔をした。



「じゃあよ、例えばだぜ。美味しいジュースがあるだろ? そのジュースを、バケツで飲みたいと思うか? 味は一緒なんだぜ? グラスとかコップで飲むから美味いだろ? つまり、これもそういう事だ! わかるか?」



 どうせ、4歳のガキにこんな事を言っても解る訳がない。フンッ。そう思ってアテナの顔を見た。すると、予想とは違って凄まじく目をキラキラさせて俺の話を聞いていた。



「凄い!! 凄いよ!! ヘリオス!! 凄く面白い! お父様が言っていたやつだ。こだわりってやつでしょ? もっと色々教えてよ!! そーいうの」


「お……おう。じゃあよ、一応教えてやるからよ、俺に敬意を払え」


「敬意?」


「だってそうだろ? 俺はおまえより、遥かに年上だ。おまえが王女か何かは知らんが、俺はおまえの人生の先輩だぞ。しかも、俺から教わりたいんだろ? じゃあ、それは当然じゃないか?」


「た……確かに……」


「それに、俺は無償でおまえやおまえの母親を助けてやった。今もそうだろ? 持てる力全てを使って助けてやっている。だから、敬意を払えよ。そうすれば、色々教えてやるよ」


「ほんと? じゃあ、ヘリオスの事はこれから、師匠って呼ぶから色々教えてね! このキャンプの事についても色々詳しく知りたいし、帝国軍相手が束になっても全然敵わないその剣術とかも教えてほしい」


「えーーー? 剣術までだと? め、面倒くさい……」



 剣術までって……こいつ、王女だろ? マジで面倒くさい事になりそう。明らかに嫌な顔をして見せると、アテナはものともせずに更に詰め寄って来た。



「押忍! お願いします!! 色々教えてくれるっていったでしょー? 師匠! ねえ、師匠ったら!! ちゃんと、聞いてる? もしもーーし」


「うるさい、うるさい!! おまえ、うるさいよーー!!」


「じゃあ、教えてください!」



 俺は溜め息をつくと、ザックから煙草を取り出して、焚火で着火すると吸い始めた。そして、アテナに手招きすると、焚火の作り方を丁寧に教えてやった。



「そうそう。上手い上手い。周りに石を置いてちゃんと円を作って、その中に枯れた枝を組んで焚火を作るんだ。なかなかいいぞー」


「うんうん! それで、どうやって火を付けるの? マッチでしょ?」



 俺はマッチと、木の皮をアテナに手渡した。



「なにこれ?」


「白樺の木の皮だ。いきなりマッチでその辺で拾ってきた枝に、着火しようとしても苦戦する。だから着火剤だよ。それを枝を組んだ所に、突っ込んで火を付けるんだ。やってみー!」



 アテナは、俺の作った焚火のすぐ横に、小さな自分用の焚火を作ってみせた。パチパチと木の燃える音と、ゆらゆらと踊る炎の動きがアテナの心を豊かにしている感じがした。


 それから小川へ行き、鍋に水を汲んで火にかけた。湯が沸くと、俺は珈琲を2杯分作ってその片方には砂糖を多めにいれてやった。



 ごくごくごく……



「美味しい!! こういう森の中で焚火して、その周りで珈琲を飲むとこんなにも美味しいなんて。これは凄い発見だよ」


「そうだろう。じゃあちょっと俺は出かけてくるから、おまえはここで大人しくその珈琲を飲みながら、火の番と母親を見てろ。それでもしも、ティアナが起きたらこれを飲ませてやれ」



 俺はアテナに回復ポーションと、ティアナが持っていた剣を手渡した。



「ど……何処にいくの? すぐに帰ってくる?」



 焚火の前に座っていたアテナは立ち上がると、不安そうな表情でスカートの端を握りしめ縋るように言った。


 俺は急にしおらしくなったアテナを見て笑うと、アテナはバカにされていると顔を赤くして怒った。



「すぐに帰ってくるつもりだが、何があるかは解らんからな。その剣はもってろ」


「私、剣なんて使えないんだけど」


「使えなきゃ使えるようになれよ。お前、俺にさっき剣を教わりたいって言ってたじゃねーかよ。それに、俺が帰ってくるまで暇だろ? 珈琲飲んだら、剣を振って練習してみろ? そしたら、後で特別に俺が剣術を教えてやる」



 アテナは、その言葉を聞いて嬉しそうに飛び跳ねた。そして、アテナが焚火の横で剣を振り出したのを確認すると、二人をおいてキャンプを離れた。


 森の中でも俺は素早く動ける。しかも一人なら、短時間で広範囲を見て回れる。まず俺は、帝国軍の追手が迫ってきていないかキャンプしている周辺を調べて回った。


 できるだけ広範囲、入念に注意深く調べた。――――どうやら追手の心配はなさそうだ。


 途中ビッグボアに遭遇した。ビッグボアは俺を見るなり、その牙を武器に突進してきた。俺はその突進を軽くひらりとかわして、ビッグボアの心臓を剣で突き刺す。ビッグボアは最後の力を振り絞って己の鋭利な牙で、俺を貫こうと身を捩って来た。まあそうするだろう事は、これまで何十匹とビッグボアを狩ってきている俺にはお見通しだ。通用しない。もう一度、獲物の首元に剣を捩じ込むと決着はついた。



「運よく食糧も確保できた事だし、こいつをさっさと解体して戻るか」



 鞘に剣を収め、手を剣の柄に添える。重心を落とし、集中。瞬時に抜刀してビッグボアの首を一刀のもとに斬り飛ばした。【居合】という技だ。


 そして、ホルスターからナイフを抜きビッグボアの腹を裂いて、内臓を取り出して肉を切り出した。


 獲物を解体していると、血と内臓のニオイにつられて3匹の森林ウルフが現れた。3匹のうち、1匹は子供のウルフ。なるほど、親子か。


 襲ってくる気配はなく、こちらを見ている。


 俺は、切り取ったビッグの肉を、いくらかその森林ウルフの方へ放ってやった。









――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄


〇ビッグボア 種類:魔物

猪の魔物。森に生息している事が多い。その肉は、とても美味しいが猪同様に豚よりも脂身が多い。焼いて食べてもいいけど、野菜と一緒に鍋にしても最高。その後に、雑炊にしたらもうたまらん。大きい個体もいて、気性は激しく、手馴れている冒険者でも狩るのに注意が必要。


〇森林ウルフ 種別:魔物

狼の魔物。通常のウルフと違って、森林に生息している。ウルフは雑食だが、基本的に肉を喰う。森林ウルフも雑食で肉も喰らうのだが、通常種と違うところはキノコや山菜なども好んで食べるようで、その肉は弾力があってとても美味しいと噂されている。毛が少し白く、綺麗。


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