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第1257話 『ダニエルの闇 その1』



 セシリアは、私の顔をチラリと見た。さっきセシリアは、『ワスプショット』をダニエルさんに向けて放とうとした。ここは現実世界ではないけれど、咄嗟にセシリアを止めた。


 その事について怒られる。そう思ったけれど、実はそうじゃなかった。セシリアは、目の前にいる男がダニエル・コマネフ。その人で間違いないか、私に確認を求めていたのだった。この顔つき、凛々しく太い眉毛、このダンディーな太い声。間違えない。私はすぐさま、頷いて見せた。



「わ、私が新開発したウエポンを、この距離でこんなあっさりかわすなんて……いや、見た所、獣人だ。狐の獣人。獣人ならば、ヒュームなど多種賊に比べてとても高い身体能力を持っていると言われている。ならばこの新開発のボウガンの矢を、いとも容易く簡単に弾き落とす事も可能なのか」


「あの……ダニ……あぐ……」



 ダニエルさんと言いかけた所で、セシリアに口を塞がれた。いきなり名前を知っていたら、警戒される。そう思ったからだった。でも遅かった。私がダニエルさんと言いかけたというのは、彼に完全に悟られてしまった。



「今、ダニエルと……私の名を言おうとしたな。なぜだ? なぜ、私の名を知っている? しかもとんでもなく、腕も立つようだ。まさか、盗賊か⁉ 私のウエポンを狙っているのか!? 目的はウエポン!!」



 と、盗賊!? 驚いてまた何か言ってしまいそうになったけれど、セシリアの手はずっと私の口を塞いでいた。代わりにセシリアがダニエルさんに言った。



「いえ、私達は盗賊ではないわ。この姿を見れば一目瞭然でしょ」



 ダニエルさんは、私とセシリアの服装に目を向けジロジロと観察する。



「た、確かにお前達の身に着けている服はメイド服だ。だがそれは、お前達がメイドを殺して奪ったものではないのか?」


「そんな訳はないしょ。私達が盗賊なら、いちいちメイドの服を奪ってそれを身につけるかしら? 油断させる為にとしても、2人揃ってって必要ないし、おかしいと思わないかしら。私だったら、もう一方はお嬢様とか演じるわ。その方が警戒もされにくいし、人を騙しやすそうだから」



 シェルミーの案だったけど、私達は実際にそういう事をリッカーの住処から演じてやっていたと思った。でも今は余計な事は言わない方がいいと思い、口を塞いでいた。



「なるほど、何処かのメイドか。なら、私の名をなぜ会ったばかりのお前達が知っていたのだ? まずはそれをしっかりと明確に答えてもらおう。そう、私が自分の取り扱うウェポンの素晴らしさの性能の高さを、今この場で立証してみせる事ができるようにだ!」



 ウエポンがウェポンになっていた。でも余計な事は言わないし、それは今……それほど重要でもないから。



「あら、そんなの簡単よ。明確に答えるも、立証するのも何も、ダニエル・コマネフさん。あなたはこのメルクト共和国では、商人として有名人でしょ。私達はあなたの噂を耳にして、遥々とクラインベルト王国からあなたに会いにここまでやってきたのよ」


「私に?」



 ――まさか!! 私は、はっとした。慌てて私の口を塞いでいた、セシリアの手を売り払う。そして彼女に耳打ちする。



「セシリア! 私、思い出しました!」


「今、私はアーマー屋、ダニエル・コマネフとお話をしているのよ。何かあるなら、少し待ってくれるかしら」


「違うんです! おそらくですけど、さっきダニエルさんはウェポンって言っていました。いつもは、口癖のようにアーマーっていうのに」


「……それってもしかして」


「はい。ダニエルさんが言っていた事を思い出したんですけど、彼は昔はアーマー屋じゃなくて武器商人だったらしいんです。しかも奥さんと子供さんがいて……」


「パパーー!! 大丈夫なの? 怖い人達なの?」


「パパーー、怖いよ!!」


「あなたーー、お願いだから抵抗しないで。言う事を聞いて従っていれば、きっと命まではとられないから」


「いいから、ここは私に任せておけ! お前達は、絶対にそこから出てくるんじゃない!!」 



 馬車の中から、幼い2人の子供の声、そして女の人の声も聞こえて来た。間違えなく、女の人は、ダニエルさんの奥さんの声だと思った。セシリアは、私の顔を見てこれはどういう事かと、目で訴えかけてきた。



「ダニエルさんには、奥さんと2人の子供さんがいるんです。息子さんと娘さん……でも私は、彼の家に招かれた時に……3人のお墓を見ました。ダニエルさんは、その時に怒りと悲しみで満ちていました。愛する家族の命を奪ったのは賊だって。だから『狼』を探していた私に、証明してくれたんです。これほど賊を憎んでいる自分自身が、今や盗賊達の一番上にいる巨大犯罪組織、『闇夜の群狼』の幹部である訳がないと。ダニエルさんは、盗賊という盗賊を心底憎んでいるんです」


「そう……だったの……」



 馬車から聞こえてきた3人の声。それらを理解したセシリアは、悲し気な表情を見せた。その間も、馬車からはダニエルさんを心配する声が鳴りやまない。ダニエルさんは、警戒心を消してしまえないという顔で私に言った。



「ほ、本当にお前達は、賊ではないんだな?」


「はい、そうでないと誓います。本当に私達は、クラインベルト王国からやってきたメイドなんです。多少、武の心得えがあるのも私だけなんです。私はいつも、主様の護衛を務めていましたので」



 偽りではなかった。アテナ様が、お城の外へ出たいと言った時、私は何度がお供をさせて頂いた事があったから。



「わ、解った。嘘を言う必要も無さそうだし、いいだろう。このまま見合っていても仕方がない。この場はひとまず、君達を信じる事にしよう」



 ダニエルさんは、そう言ってボウガンを置いた。そして御者席から飛び降りると、私達の前に来た。



「私はダニエル・コマネフ。武器商人だ。もう君達は、私の名を知っているんだったな、ハハハ。それで私達は、商売でいくつか村に立ち寄ってきた帰りで、これからリベラルの街に戻る所なんだ。君達は、私に用があるのだろ? 商談なら街に戻ってからにしたいのだが、一緒に街に戻るかな?」



 間違いない。少し様子が違うけれど、今目の前にいる彼は、紛れもなくもっと若い時のダニエルさん。ここは、ダニエルさんの心と記憶の世界。


 このまま彼についていけば、彼が『狼』でないと断言できる確証を得る事ができるに違いない。私達にそれを突きとめる事ができるかは解らないけれど、デプス市長の時みたいに、既にこの世界にもアローも来ていて、探ってくれているかもしれない。


 どちらにしても、ダニエルさんと行動を共にする以外に他はない。この場で彼に『狼』かどうか聞いて確かめる事もできるけれど、確かめた上でこの世界から脱出もしなければならないので、まずは彼についていくのが一番に思えた。



「是非、お願いします。私達も一緒に、街に行きます」


「そうか。なら馬車に乗り込んでくれ。馬車には私の家族がいるが、君達若い娘2人と鳥の1羽位なら、十分乗る事ができるからな」


「え? 鳥?」



 ダニエルさんの言葉を聞いて、まさかと思う。そして辺りを確かめようとした刹那、1羽のボタンインコが空から舞い降りてきて私の肩にとまった。



「ふう、やれやれ。やあ、レディー達。どうにか、追いつけたよ」


「ア、アロー!!」

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