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第125話 『ヘリオス・フリート その1』 (▼ヘリオスpart)





 向かって来る敵は、俺のこの二振りの剣『ツインブレイド』で、片っ端から刻んでやったが、逃げるやつらは放っておいた。雑魚なんかいくら倒しても、少しの経験値も詰めやしねーからな。



「お母様――!!」



 少女が倒れている女に、駆け寄った。女に目をやると、その身体は傷だらけで、血に塗れていた。服も来ておらず下着のみの状態で、靴も履いていない。ドルガンド帝国というのは、なんとも酷いことをするもんだ。


 髪と瞳の色が、傍らに寄り添っている少女と同じ青色。お母様と呼んだ事を含めて親子だという事は間違えなさそうだ。



「た……助けてくださって……ありがとうございます……」



「ただ事じゃないな。……あんた、名前は?」



 俺も一応は男だ。目のやり場に困るので、とりあえず自分のマントを女に羽織らせた。ついでに怪我の状態も見てやろうとした。すると娘が剣を持って、母親の前に立ちはだかった。それがどういう事なのか理解したが、説明するのも面倒なので指で鼻を弾いてやった。少女は、「ぎゃっ!」という悲鳴と共に、鼻を押さえてひっくり返った。その娘の滑稽な姿が、俺のツボに入り吹き出しそうになったが堪えた。今はそんな場合じゃねえ。


 母親の身体を見てやると、とても酷い状態だった。この細い華奢な身体に4カ所の矢傷。それに刀傷や打撲痕。腕も切断はされていないが、骨の辺りまで斬られている。血も流しすぎているな。――――極めて危険な状態だ。よくもまあ、大の男どもが恥ずかしげもなくよってたかって、こんなか弱い母子をここまで虐め倒せるものだ。まったく反吐がでる。



「私は、クラインベルト王国の王妃……ティアナと申します。この子は、私の娘……アテナ」


「なんだ? あんた、王妃様だったのか。なるほど、それで帝国軍があんたらに群がっていたという訳か。合点がいった」


「あなたのお名前を教えて頂けませんか?」


「あん? 俺? 俺は。ヘリオスだ。ヘリオス・フリート。生活の為に冒険者を生業にしているが、実はキャンパーだ」


「キャンパー?」



 聞きなれない言葉なのか、娘の方の声がした。だから、その娘の方へ振り向いて、続けて言ってやった。



「旅や冒険する事が趣味で、その際にテントを張って寝泊まりして、自然と調和して楽しむ奴らをキャンパーって言うんだよ。要は、キャンプする人の事だ。解っただろ? お嬢ちゃん?」


「私はお嬢ちゃんじゃない!! アテナって名前があるし、私は王女よ。だからアテナ王女って言いなさい! そうよ! アテナ王女殿下っていいなさい!!」


「はっ! 生意気なガキだ!! そんな生意気な事を言うやつには、お転婆姫って呼んでやる。これからよろしくな! お転婆姫!」


「ムッキーーー!! 何よ! あなた!! なんて失礼な人なの!!」



 顔を真っ赤にし、その場で飛び跳ねて怒るアテナ。そのやりとり見て、ティアナは微笑んだ。

 


「ヘリオス、私は助かるのかしら……?」


「わかんねー。俺はプリーストでもクレリックでも医者でもないからな。率直に言っちまうと、全くわかんねー。だがとりあえず、ここで会ったのも何かの縁だ。安全な所までは連れて行ってやる。王都までいけばいいのか?」


「いいの?」


「ああ、面倒だが仕方がない。それに、あんたの心配は娘なんだろ? それなら大丈夫だ。俺がちゃんと、助けてやるよ」



 そう言って俺は、持っていたポーションをティアナに飲ませた。正直、ティアナの状態はかなり危ない。顔も青白い。血を失っているからだ。早く何処か落ち着いて治療をできる場所を、探してやらねーとだめだ。



「こっちだーー!! 早く来てくれーー!! まだ奴は、いるはずだ!!」



 ――――遠くで声がした。いや、接近して来ている。



「ヘリオス……セシルかもしれない?」


「違うね。恐らく帝国軍だ。仲間を呼んで戻ってきやがったな」



 ここへ来る前に、物騒なやつらが集団で伏せていた。試しにその近くを通ると問答無用で攻撃されたもんだから、その辺りにいる伏兵を皆、のしてやった。なのにまだこんなに兵がいるなんて、全く骨が折れる。


 俺はティアナを背負うと、アテナの手を引いて森の中を駆けた。追手とは逆方向に。



「大丈夫か?」


「はあ……はあ……だ……大丈夫よ。ぜんぜん問題無いわ……」


「この子、まだ4歳なのよ……」



 しょうがない。俺は溜息を吐くと、アテナを小脇に抱えて森の中を走った。ティアナを背負い、右手にザックとテント。左腕にお転婆姫。流石にしんどい……俺はもう、60だぞ……まったく……はあ……



「離してよ! 後ろから、パンツが見えちゃうでしょ!! 自分で歩けるから!!」


「うっせーぞ! お転婆姫!! ちょっと、黙ってろ!!」


「ムキーーー!! なんですってー!!」



 ――――かなり森の中を進んだ。これだけ行けば追っ手もそう簡単に俺達を見つけ出す事はできないはずだ。まあ、見つけ出されたとしても、全員始末すれば問題ないがな。だが、こっちは満身創痍の王妃様とわずか4歳のお転婆姫がいる。俺だけならいいが、そんな二人を守りながら多人数相手に戦うのは得策ではない。敵を避ける事ができるのなら、避けるべきだな。



「そろそろおろしてよー」


「はいはい、じゃあ自分の足で歩け」



 アテナを地面に降ろした。


 周囲を見回して、耳に意識を集中する。すると、微かに水の流れる音がする。あっちだな。



「ちょちょ……ちょっと、何処にいくのよ!! お母様を勝手に連れていかないでったら!」


「はいはい、ちゃんとついて来いよーーっと」



 少し先へ進むと、やはり小川があった。振り返ると、背負っているティアナは気を失っていた。このまま王都まで行くにしても、ティアナの身体がとてもじゃないが、もたないだろう。ならここで一旦休んだほうがいいな。


 俺は、なるべく平らで大きな岩を探しそこへ、ティアナを寝かせた。アテナが心配して駆け寄ってきたので、まずアテナに川で水を飲ませた後、「しっかり母さんを見ているんだぞ!」と言ってティアナについているように言った。


 その間に、俺は川の横にテントを設営し焚火を作った。







――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄


〇ヘリオス・フリート 種別:ヒューム

ツインブレイドという二振りでワンセットの剣を装備する、60歳のSSランク冒険者。キャンプが趣味で、キャンパーとも名乗っている。ただならぬ気配に誘われて、ティアナとアテナを助けにやってきた。好奇心旺盛で落ち着きのないアテナの事をお転婆姫と呼んでいる。


〇ツインブレイド 種別:武器

ヘリオス・フリートが所持する一級品以上と思われる武器。二振りの剣で、それで雌雄一対となっている。この剣は、やがてヘリオスの手からアテナへと受け継がれる。

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