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第1248話 『テストダイブ その3』



 街というか、都市。私達のいる場所はとても大きな都市だった。そしてデプス市長の心の中にある場所だけあって、交易都市リベラルに物凄く似ていた。


 そう、似ていると言ったのは訳があった。明らかに交易都市リベラルなんだけど、注意深く眼を凝らしてよく観察してみると、何処かが違う。現実のものとは、微妙に何かが違って見えるのだ。


 街を行きかう大勢の人。人人人。その中には、かなりの割合でデプス市長に似た顔の人が紛れ込んでいる。



「テトラ、ちょっといいかしら」


「え? あ、はい」


「あの人を見て。あの人、とてもデプス市長に似ていないかしら」


「デプス市長に似ている人なら、その辺にも沢山いますよ」


「そうね、全部が全部ではないけれど、街の人達の中に、かなりの割合でデプス市長が混ざり込んでいるわね。これが、市長の心の中なのね」


「どうでしょうか。フォクス村の時は、私自身の心と記憶の中でしたけど、ここはデプス市長の心と記憶ですから。私やラビッドリームとの相性もありますし、世界が安定していないのかもしれないです。それにラビッドリームを使用している術者である、私の心と記憶も混ざり込んでいるかもしれませんし」


「あら、そうなの」



 セシリアは、驚いた顔で私を見てそう言った。なんだか私には珍しく専門的な事を言っちゃったから、急に恥ずかしくなってしまった。マリンなら、こういう事に関しては専門だし、もっと上手く説明してくれるのにと思った。


 この街には、川があった。レンガ道が両サイドに続く街の中を流れる川。現実世界じゃ、私がシャノンを見かけてミルトと一緒に彼女を追いかけた道。バズ・バッカスという異常な強さを持つ盗賊や、あの覆面女剣士……


 唐突にあの時の事を思い出してしまい、頭から振り払う。駄目駄目。今は、市長の事を考えないと。シャノンの事も気にはなるけど、それは後でイーサンに聞けばいい。


 川に近づいて橋から見下ろしてみると、川の水が金色に輝いていた。以前、ラビッドリームに、ここと同じ心と記憶の世界に連れて行かれた時の記憶が蘇る。もしかしたら、川の水が虹色とかそういうメルヘンな感じになっている事もあるかもしれないと思ったのだけれど……眩しい位の金色の流水。黄金。



「これは、なんというか……凄いわね」


「どういう事なんですかね。川の色が金色……まるで、大量の砂金が流れているみたいです」


「そうね。でも案外それで、的を得ているかもしれないわね」


「どういう事ですか?」


「この世界は安定していない。記憶は兎も角、人の心なんて常にそういうものでしょ」


「そ、そうかもしれないです……」


「それにデプス市長だけでなく、術者であるあなたの心や記憶、それにラビッドリームが何かしら作用しているのかもしれないわ。でもベースは、市長なのよね」


「は、はい。そうですね」


「ならこの砂金の川は、デプス市長の心なのよ、きっと」


「心?」



 セシリアの言っている意味が解らなかった。だけど彼女が次に言った言葉でようやくピンときた。



「解らない? きっとデプス市長は、お金が大好きなのね。だからこんな砂金に溢れた川が、街の中に流れているんだわ」


「た、確かにそうかもしれません。でも、こういうのって、何か他人の心の中を覗いているみたいで、あんまりいい気分にはなれないです」


「はあ? 今頃あなたは何を言っているのかしら。私達は他人の心を覗いているのよ。そうするつもりで、ここにいるのよ」


「でもそれは、デプス市長が『狼』かどうか確かめるっていう……」


「テトラ、あなたの言っている意味は解るけれど、それでも私達は他人の心を覗き見る行為をしているのよ。でもこの黄金色の川が物語っているように、これを見れば一目瞭然でデプス市長がお金が大好きだと解るわね、フフフ」


「だから、駄目ですよ! そんなふうに……」


「冷静に考えなさいテトラ。つまり私が言いたいのは、こういう感じでサインは現れるという事なのよ」


「え? サイン!」



 はっとする! そうだ、その通りだと思った。もしもデプス市長が『狼』であった場合、そのサインのようなものがこの世界の何処かに見えるはず。そんな重要な事に、やっと気づく。セシリアは、人の心を覗き見ているとか言ってはいたけれど、そう言っているだけで、しっかりと物事の本質を探していた。


 ただただ好奇心で人の心と記憶の中に入り込んで、戸惑い見回していた私は、自分が恥ずかしくなった。やっぱりセシリアは、頼りになる。



「セシリア、ありがとうございます。セシリアはいつも私に、正しい道を示してくれますね」



 ちょっと恥ずかしいとは思ったけれど、彼女の事を凄いと思った事は事実だし、その気持ちを伝えた。でもセシリアは、私の言葉なんて聞いていなかった。あうー。何処かへ歩いて行く。



「え? ちょっとセシリア! 何処へ行くんですか?」



 黄金色の川。その橋の中央に行き、そこでセシリアは誰かに話しかけた。相手の顔を見ると、さっきセシリアがデプス市長に似ていると言った人だった。確かに他のデプス市長よりも、更に似ている感じがする。ううん、ほぼ同じ顔といってもいいような気がした。


 いったいセシリアが、デプス市長に何を話しかけているのかと思って近づいて会話を聞いてみると、その内容に私はズッコケてしまった。



「ちょっとお聞きしたい事がありまして」


「ほお、私に。なんのご用でしょうか?」


「あなたが本物のデプス市長ですか?」


「は?」


 ズルリ!


「ちょ、ちょとセシリアー!!」



 いくらなんでも単刀直入すぎると思った。


 私は慌てて2人の間に入ると、私達がジャーニー・デプスという人を探していると伝えた。そして、あなたによく似た人なので声をかけさせてもらったと丁寧に説明した。

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