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第1243話 『リベラル市役所 その4』



 デプス市長が会議室のドアノブを掴んだ。捻る。


 ガチャッ!



「皆さん、お待たせしました。そのままお座り頂いて結構です」



 ぞろぞろと中に入る。


 会議室に入ると、中央には普段会議で使用していると思われる、大きな丸いテーブルが置かれていた。別に縦長のテーブルでもいいのではと思ったけれど、少し考えてこれは市長の配慮だと気づいた。


 この交易都市リベラルで一番偉い人は、デプス市長。だけどそれは表向きであって、実際は十三商人と呼ばれる商人達だった。その十三商人は、全員が同列。そして全員で、一丸となってこの交易都市を陰から支えている。だから優劣を決めないように、敢えて丸テーブル……つまり円卓にしているのだと思った。


 室内を見渡すと、市長の招集に応じてくれた十三商人達が集まってくれている。私は十三商人の名前の入ったリストを取り出すと、それを再度目で読み上げた。




 <リベラル十三商人>


・ダニエル・コマネフ【アーマー屋】

・ミルト・クオーン【コンサルタント商】

・リッカー【情報屋】

・ゴケイ【交換屋】

・ゴーギャン・レイモンド【美術商】

・ババン・バレンバン【武器屋】

・イーサン・ローグ【薬屋】

・ボム・キング【興行師】

・キラウ【魔獣商】

・ロレント・ロッソ【嗜好品専門家】

・デューティー・ヘレント【フルーツディーラー】

・アバン・ベルティエ【宝石商】




 市長の招集に応じてくれた十三商人は、ダニエルさんとイーサン。良かった、ミルトも、やっぱりここへ来てくれていた。更にアバン・ベルティエと、デューティー・ヘレント。


 驚く事に、デューティー・ヘレントの隣には、あのリッカーも座っていた。そして知らないおじさんが一人……ううん、ここに座っているという事は、あの人も十三商人の誰かである事は解る。しかも既にここへ7人も集まってくれている。その数は、十三商人の半分――ここで全員の協力が得られれば、それで一気に十三人商人の半分は調べてしまう事ができる。『狼』であるか、そうでないのかが判明する。


 デプス市長は、十三商人と共に丸テーブルに座ると、私達にも座るように言ってくれた。招集に応じなかった者もいるし、ここにいる者全員が座っても椅子には余裕があった。


 でもメイベルとディストルは、椅子には座らずに会議室の出入口に移動すると、ドアを塞ぐ形で立った。明らかに調べが終わるまで、ここからは逃がさないといった態度。


 これからこの場所で、全員に協力をお願いする。招集して応じてくれた十三商人の中に、もしも『狼』がいたらその人は、この場から逃走するかもしれない。もしくは、戦闘になる可能性もある。逃がしてしまい、ローグウォリアーやビーストウォリアーのような腕の立つ者と合流されると、とても厄介な事になる。


 だからこそ……言い方はちょっと良くないかもしれないけれど、メイベルとディストルは全員の取り調べが終わるまで、会議室のドアを塞いで逃げ道を断ったのだった。


 デプス市長は、ドアの前に立つ冒険者2人以外の全員が、椅子に着席した事を確かめると話を切り出した。



「それでは、今日ここに集まって頂きました十三商人の方々には、まずお礼を申し上げたい」


「市長直々の頼みだ、構わない。でも私達は多忙な身でな。差支えがなければ、さっさと本題に移っていただきたい」



 市長に対して厳しい発言をする。やはり市長よりも十三商人の方が、権力がある事を目の当たりにした感じだった。初めて見るその人の発言に対して、ファーレが言った。



「初めてお会いしますわね。私は……」


「既にベルティエ氏から聞いている。私の名は、ロレント・ロッソ。主に酒や煙草、珈琲などの嗜好品で生計を立てている身でね。来る日も来る日も仕事一筋に打ち込んでは来たが、気が付けばどういう訳かこの地位まで昇り詰めていた訳だ。まあ、私の事はいい。それよりも話を進めてもらいたい」



 十三商人の1人で嗜好品専門家の、ロレント・ロッソ。かなり時間に追われている忙しそうな印象のある人だけど、一癖も二癖のある十三商人の中では、今まであった中で一番商人らしい人だと思えた。


 でもまだ見えているのは、外見だけ。もしかしたら、この人が『狼』だって可能性もある。シェルミーが、自分の隣に座っているアバン・ベルティエに示し合わせたように視線を送ると、彼は頷いて皆に言った。



「それじゃ、皆アチシに注目してくれるーう。はーい、注目よーーん! 先に話した通り、これからちょっとしたチェックをするから、協力してちょーだい」


「協力ーーーだと?」


「リッカーちゃん、アチシさっきちゃんと説明したでしょ? このリベラルで一番の情報を持っているあなたが、『狼』の正体を知らないっていうのは、ちょっと怪しいと思うんだけどー」


「言いがかりだーー。全ての情報をーー俺が知っている訳ねーーだろーー。俺はーー知らねーー」


「やっぱり怪しいわねん。本当に知らないって言うなら、はっきりと証拠を見せて欲しいのよね」


「怪しーーい? 怪しーーいってなんだーー!! 俺は、賊じゃねーーーぞ」


「どうかしら」


「舐めてんじゃーーねーーぞ、アバン!! てめーーあんまり調子ぶっこいてるとーー、後悔するハメになんぞーー」



 リッカーは長い舌をアバン・ベルティエに見せつけ、怖がらせようとした。だけどアバン・ベルティエは、いつもの事だからとばかりに、うんざりした表情でシェルミーに視線を変えた。



「まあいいわ。どーせこれからリッカーちゃんの本性なんて、ぜーんぶ丸裸にされちゃうんだから、アヒャヒャ。それじゃ、シェルミー様。皆尻込みしてるみたいだから、アチシから始めてくれるかしら?」


「え? でも説明がまだ……」


「それならもうアチシ、さっき待っている間に皆に話して、了解をもらっているわよ。市長にも、そうするように頼まれていたし。でもそこにいるリッカーちゃんは、まだぜーんぜん納得がいかないみたいだけど」


「いかねーに決まってーーんじゃねーーか!! だいたい、俺達はどーーいうチェックをーー、お前らに受けるのかーー、それを知らねーー。それにーーー、そこの狐の女ーー!! お前らには、確か借りがあるよなーーー」


「ひ、ひい!」



 リッカーは長い舌をべろべろとさせて、私を睨みつけた。怖くて思わず悲鳴をあげてしまった私だったけど、セシリアが話に割り込んできて言った。



「そうだったわ。そう言えば、あなたをヘレントさんの果樹園で見たわ。あなたのあの時の印象から、あなたが『狼』だという可能性は私は極めて低いと思っていたのだけれど……」


「眼鏡メイドーー、何がいいたいーー」


「協力してくれないと、あなたが一番怪しいって事にもなるのよね。だって、この都市で一番情報に詳しくて、それで十三商人の座にまで昇り詰めた人なのでしょ。この都市に『闇夜の群狼』の幹部が入り込んでいて、しかも十三商人の1人に紛れているとすれば、それを知らないなんて、ちょっと普通は考えられないんじゃないかしらと思って」


「セシリアーーって言ったなーーー」


「セシリア・ベルベットよ。あなた達には、貴族令嬢と偽って会っていたけれど、それは大義の為だから理解して欲しいわね。だからここで、改めて自己紹介させてもらうわ。私とここにいるテトラとローザは、悪い『狼』を退治する為にクラインベルトからやってきた正義の味方よ。そう言えば、一番解りやすいでしょ」



 セシリアは、とても冷めた目でリッカーを見て言い放った。リッカーは、最初に私達に騙された上に、自分の根城で暴れた私達に良い印象を持っていないのは明らかだった。


 だけどこの場に来たのなら、協力してもらう他はない。私は自分の中にいるラビッドリームに、力を貸して欲しいと優しく呼びかけた。

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