第1237話 『グランドリベラル21階にて その7』
これからの計画について話し合っていると、女盗賊団『アスラ』の三姉妹は、自分達には関係がない事だからといった様子で、またウォータースライダーで遊び始めた。その無邪気な様子を見ていると、同じ盗賊でも本当にソアラ達は、『闇夜の群狼』とは繋がりがないのだろうと思った。
「わ、解りました。それじゃ、私……上手くできるかどうか解りませんが、精一杯頑張ってみます。レティシアさんが一緒に来て、手伝ってくれれば百人力ですし」
レティシアさんは、明らかに悲しい顔をした。その訳を、アローが代わりに答えた。
「僕もレティシアも、テトラと共にはいけない」
「え!?」
「テトラには今一度、十三商人に1人1人会ってもらって、彼らの心の内側に入り込み調べてもらう必要があります。でもそれには、十三商人にまず接触できなければ、お話にならない」
「せ、接触ができるように、頑張るつもりです!」
「僕も、テトラが必ず作戦を成功させてくれるものだと、期待していますよ。だからこそ、本来ならばお手伝いはしてあげたい。ですが生憎、今はそれができません。僕は、情報屋リッカーのもとに潜入していますし、レティシアは興行師ボム・キングのもとに入り込んでいます。今のところ、怪しまれてもいないみたいですし、できる事ならこのまま潜入を続けたいと思っているんですよ。だからテトラはテトラで、彼らに接触して心の内を探って欲しい」
「で、でも!」
「レディー、心配はいらないよ。レティシアも言ったけれど、僕の目から見ても、君とラビッドリームはナイスコンビに見える。きっと大丈夫さ、上手くやれる。もし駄目ならその時はその時で、開き直って新たな策を考えればいい事さ」
私はいつまでたっても強くなれない。肝心なところで、弱くなってしまう。だけどアローは、そんな私をいつも優しく励ましてサポートしてくれた。
「テトラ。僕はね……駄目だとしても、とりあえずやってみてから考えればいいと思うよ。どうしようもなくなっても、常に何か手はあるものさ。無いって時は、たいがい見落としているだけだ。それに僕とセシリアは、君が必ずできるって方に賭けているけどね」
アローはそう言って、ウインクした。瞳の奥は、自信に満ち溢れている。
皆の注目が私に集まっている。レティシアさん、アロー、そしてセシリア。皆、私ができると言ってくれている。信じてくれている。
期待を裏切るかもしれないと考えると怖いけど……その方法が一番の良策なら、やってみるしかない。早く『狼』を見つけ出さないと、ボーゲンやミリス、皆が酷い目に合っているかもしれない。首都グーリエで、私達の助けを待っているかもしれないから。
「解りました。私、やります。どうやるか解らないけれど、頑張ってみます。でもまた1人1人、十三商人に会うんですか? それならミルトやイーサン、ダニエルさんには直ぐに会えると思います。凄く私達に、協力してくれているから。でも他の人には、直ぐに会えるかどうか……」
首都グーリエは、『闇夜の群狼』の攻撃によって陥落してしまった。そこへ向かっていたボーゲン達も、今はどうなったか解らない。最良なのは、できるだけ早くこの交易都市に潜んでいる『狼』を見つけ出し、倒してボーゲン達の救援に向かう事。
でも今から十三商人に1人1人会ってその人が『狼』であるかどうか調べるなんて、時間がかかりすぎると思った。それにミルトやイーサンやダニエルさんのように、他の全員が協力してくれるとは限らない。ただ会う事だって、難しいのに。
シェルミーが大きく手を挙げて、今一度皆の注目を集めた。
「それじゃ話を整理するけど、レティシアさんとアローには、引き続きリッカーとボム・キングのもとに入り込んでもらって探ってもらうとして……他の十三商人に順に掛け合って『狼』かどうか見破るって作戦は、テトラのラビッドリームに頼る方法でいいって事よね」
皆、理解し頷いたが、特にローザが強く頷いていた。
「首都グーリエが陥落したのだ。我々は、急がなければならない。こっちの問題を片付ける一番早い方法としては、今思い付く中では良策だろう。それに本当に心の中を覗けるのだとすれば、その相手が『狼』なのかどうか、確実性も期待できる」
「そうだね。私も、今考えつく中では一番いい手だと思う。それにもうこれ以上、他の手を考えるにしても、それ程時間もないし」
シェルミーの言った言葉――それ程時間もない。普通に考えれば、首都グーリエで苦しい戦いを強いられているかもしれない仲間を、早く助けにいかなければならないという事だろう。でもそれ以外にも、何か理由がある感じに聞こえたので、聞いてみた。
「それ程時間が無いというのは、どういう事ですか? ボーゲンや、他の仲間達もそうですが、首都グーリエが賊の手に落ちたとなったら、レジスタンスの人達が殺さるかもしれないからですか?」
「うん、確かにそれもあるね。コルネウス執政官だって、もし掴まってしまっていたら、既に殺されているかもしれない。そして首都グーリエが、完全に賊に乗っ取られてしまっていたら、賊達が徒党を組んで次に進行してくるのは、間違いなくこの交易都市リベラルだと思うから。だから、この地にいる全ての賊を操っている元凶を、必ず見つけ出して倒さないと」
「解りました。それじゃ、これから直ぐお風呂を出て、十三商人に会ってきます。ミルトやイーサンなら、直ぐに会ってくれると思いますから」
「待ってよ、テトラ。急ぐのと、焦るのは違うよ。ちゃんと計画を練って行動しないとね」
「うう、はい、そうでした」
ローザがシェルミーに言った。
「そう言うって事は……シェルミー。何かいい考えがあるのか」
シェルミーは、にっこりと笑ってブイサインを作ってみせた。ローザだけでなく、皆にも向かって。
彼女は、本当に明るい性格だと思う。私はどちらかというと、ネガティブな発想ばかりしてしまうので、彼女の事が羨ましく思えた。
「うん、もっちろんあるよー。実はこういう流れになるのは解っていたから、先にちょっと手を打っておいたのよね」
「手、ですか」
「うん。実は明日の朝、市役所に十三商人が招集される事になっているの。テトラには、そこに行ってもらって、集まってくれた十三商人に早速会ってもらう。そしたらラビッドリームの能力を使って、1人1人『狼』かどうか確かめていけば断然話が早いと思うんだけど、どうかな?」
え⁉ どういうこと!?
この場にいる全員が、シェルミーが既にこうなると予想して独自に進めていた計画を聞いて、驚きを隠せないでいた。
でもなぜ明日の朝、市役所に十三商人が集まる事を、シェルミーは知っているのだろうか? もし知っていたとしても、そんな場所に私達が平然と入って行く事ができるのだろうか。今度は、メイベルがその疑問について聞いてくれた。
「ちょいと疑問に思ったんで、失礼しやすよ」
「はい、どうぞ」
「ど、どうしてシェルミーが、明日市役所に十三商人が招集されているってご存知でやんすか? もしかして、十三商人の誰かから聞いたとかでやんすか?」
「えーーっとね、半分正解かな。招集をかけたのは、私自身なんだ。あははは」
『ええええ!!』
「まあ、皆驚くよね。それをアバちゃん……えっと、十三商人であり、宝石商のアバン・ベルティエ氏に協力してもらって、メンツを集めてもらったの」
「アバン・ベルティエ……そう言えば、彼はあっしらに対して、たいそう協力的になってくれていやしたね。でもそれで、なんで市役所に集まるように言ったんでやんすか。そもそも市役所で集まる意味なんて、あるでやんすか?」
「あるよー、あるある。十三商人を集合させるのには、やっぱりアバちゃんだけだと弱いと思って、この交易都市リベラルの市長にも手を回してお願いしたの」
ええええ!!!! し、市長まで!!
これには皆、シェルミーが冗談を言っているのだと思った。
「テトラのその顔、あはははは。因みに私、冗談で言ってないからね。本気だよ、本気。でもこの都市では、市長よりも十三商人の方が上だからね。果たしてそれで、何人集まってくれるかどうか。でもアバちゃんに加えて、市長にも協力してもらえれば、招集に応じてくれる人の確率は高くなるでしょ」
確かにそれは、そうだけど……
あまり時間をかけてはいられない。だから一気に集められるなら集めて、一挙に調べてしまおうっていうシェルミーの作戦は、かなり魅力的に感じた。本当に可能ならば、いいかもしれない。
でもこの場にいる者、全員がおそらく思った事。私達が今まで一度も接触していない、この交易都市リベラルの市長。そんな人に簡単に協力を求める事ができて、しかも私達の計画に参加してもらう事ができるなんて……ちょっと信じられない気持ちもある。
シェルミーとファーレは、もともと暮らしていたガンロック王国から、ここリベラルまでレジスタンス活動をするべくやってきた。その正体は、豪商の娘だというけれど……普通の商人の娘が、こんな巨大な交易都市のトップとも言うべき市長に、簡単に会って協力をお願いできるなんて……いったいどんな手を使ったのだろうか。
それが、気になって仕方がなかった。




