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第1233話 『グランドリベラル21階にて その3』



 高級ホテル、グランドリベラル21階に位置する完全会員制の大浴場。その数、20種類を超える様々なお風呂があり、その中心とも呼べる場所には、ウォータースライダー付きの一番大きなお風呂があった。私達はそのお風呂に浸かりながら、長々とこれからの計画について話し合っていた。


 十三商人の中に隠れ潜んでいる『狼』を、なんとしても見つけ出す。シェルミーは、その方法について一番いい案を、ここにいる全員の前で発表した。



「『狼』を見つけ出す方法、それなんだけど、実は最もいい方法を見つけたの。それをこれから発表します」



 皆がシェルミーに注目すると、彼女はすっくとその場で立ち上がった。勢いよく立ちあがったので、湯が飛沫となって舞い上がる。私の目は、シェルミーの身体に釘付けになってしまった。やや日に焼けた浅黒い綺麗な身体は、とても健康的。形も大きさも理想的な乳房にくびれた腰は、女である私の目から見ても、とても魅力的に見える。釘付け。


 じっと見つめていると、シェルミーと目が合って、慌てて顔を背けてしまった。するとシェルミーは、全裸である事を少しも恥ずかしがる素振りもなく、両手を広げてある方へ大きく振った。



「それでは、私達のこれからの作戦を発表するにあたりまして、とても頼りになる協力者をお呼びしたいと思います!! どうぞおおお!!」



 頼りになる協力者? それって……


 シェルミーがそう言って、両手で指した方にはウォータースライダーがあった。湯煙でよく見えないけれど、誰かが勢いよく滑りおりてくる。



 ザババーーーーーン!!!!


「ぶぱああっ!!」



 立ち上がっていてスライダーに背を向けていたシェルミーは、特に被害はなかったけれど、湯に肩の辺りまで浸かっていた私達は、顔面からお湯の大波を浴びてしまった。



「げほっ! げっほっ!」



 ちょっと飲んじゃったかもしれない。セシリアやローザも、まともに頭から湯を被ってしまっている。



「あははは、こりゃあ楽しいわ!! こんなもんが風呂にあるなんて、なかなかおもしれーじゃねーか!! なあ!」



 目を向けると、そこには女盗賊団『アスラ』の頭目が三姉妹である、次女のエイティーンが立っていた。彼女は、ディストルよりもガタイがよくて、筋肉質だった。そんな人がウォータースライダーを勢いよく滑り落ちてきたものだから、飛沫の波も物凄い。


 え? もしかして、シェルミーが頼りになる協力者と言っている人って、エイティーンの事!?


 セシリアやローザ、メイベルやディストルもそう思ったのかもしれない。


 ディストルは、エイティーンと敵として戦った事があり、エイティーンに飛沫をかけられてかなり怒っているようにも見える。だけどメイベルが、気持ちを抑えるように言ってくれているみたいで、なんとか我慢しているみたいだった。



「よっし!! いいぞ、続けて滑ってこーーーい!!」



 私達の注目をよそに、エイティーンはウォータースライダーのてっぺんの方へ向けて叫んだ。すると今度は2人続けて滑ってきた。



「ひゃあああああ、なにこれ、たーーのしーーー!! ソアラ、こんなの初めてーー!!」


「怖い怖い怖い!! こんなにスピード出るなんて、聞いてないわよーー!! 待って、ソアラお姉様ーー!!」



 エイティーンに続いてまたもスライダーを滑ってきたのは、長女のソアラと三女のハムレットだった。また飛沫の波が私達を襲う。


 でも今度は、ローザは警戒していたらしく、飛沫がかからないように予め十分な距離をとっていて、安全だった。逃げ遅れたセシリアは、私を盾にして飛沫を防ぐ。



「ぷああっ!! ちょ、ちょっとセシリア!! 私を盾にするなんて、ひどいじゃないですか!!」


「あら、ごめんなさい。また飛沫が飛んでくると思ったのだけれど、今からじゃとても逃げられないなーって思って。それでどうしようかと考えていたのだけれど、たまたまそこにいい感じの肉の壁があったから、使わせてもらったのよ」


「に、肉の壁じゃないですよ」


「あら、ごめんなさい。テトラだったのね。私、眼鏡がないと何も見えないから」


「ううーー、解っていた癖にーー。絶対に解っていた癖にーー」



 こんな事に気を取られていないで、目の前のウォータースライダーから立て続けに滑り降りて来た、アンパリロー三姉妹に注目しないと。


 でも三姉妹は、私達の事を全く気にする気配もなく、大浴場で仲良くスライダーについて語り合っていた。それでも注目をし続けていると、エイティーンがやっとこちらの視線に気づいてくれた。



「なんだ、お前ら。何見てんだ、このヤロー!!」



 え? この3人が私達の頼りになる協力者? 本当に? でもそうだとすれば、三姉妹は盗賊なのだから、もしかしたら『狼』に関する何か有力な情報を持っているかもしれない。


 ううん、でも女盗賊団『アスラ』は、『闇夜の群狼』とは通じてはいないはず。ローザが言っていたこと。メイベルやシェルミーも、リーティック村で目にしたという帝国軍人をこのリベラルで目にしている。


 彼は結局、この国に送り込まれたドルガンド帝国の間諜の者だったらしいけど、その人を追いかけている時に、またしてもローグウォリアーとビーストウォリアーが立ちはだかってきたという。その時にシェルミーに加勢したソアラ達は、『闇夜の群狼』である2人の刺客と敵対してくれた。その場にいたローザからも、その光景を見て三姉妹がとても『闇夜の群狼』と繋がっているようには見えなかったのだと聞いている。


 またソアラとハムレットは、ローザ達が帝国軍人を追って、途中立ち塞がってきた2人の刺客と戦闘になった時に、こちら側に手を貸してくれて敵と戦ってくれたのだ。


 報酬として、シェルミーから大金を受け取り、オマケにこのホテルの宿泊まで取り付けて……でもそれこそが、犯罪組織と関係の無い事を純粋に示していた。


 ……だけど……


 だけど、どう見てもやっぱり、この三姉妹が私達の頼りになる協力者とは思えなかった。ソアラに関しては、かなりの戦闘力を持っているし、数十人の子分まで従えている。だけど『狼』を見つけ出すのに、この3人がどういう分野で、私達の助けとして活躍できるのか考えても、とても想像がつかなかった。


 そんな私の心を読んだかのように、シェルミーは人差し指を立てて左右に揺すり、チッチッチと言った。



「テトラちゃん。私が名をあげたいのは、実はその3人の事じゃないんだなー」


「え? ええーー!! じゃ、じゃあいったい誰なんですか?」


「あなたよ!」


「私!? そ、そんな私!?」


「いい! あなたこそが、十三商人の中に隠れ潜む『狼』を、見つけ出せる鍵なのよ!!」


「え? ええええーーー!! わ、私ですかーーー!?」



 セシリアが首を傾げる。一番傾げているのは、私なのに。



「あら、そうなの、テトラ?」


「わわわ、解りません!! そんな、私には、そんな『狼』を見つける特別な力なんてないですよ!!」


「あるあるー、あるわよーー!! 実はあるのよー。テトラちゃん、あなたには、その力がちゃんと備わっているんだから、もっと自信を持ちなさーい」



 シェルミーやファーレの声じゃない。大浴場だというのに、湯煙の中を何か鳥のようなものがバサバサと羽ばたいて飛んで行った。シルエットから、とても丸い鳥だと解る。


 そしてウォータースライダーから楽しそうな声をあげて、また誰かが滑り降りてくる。しかも今度はかなりのスピード。あっという間にその人は、物凄いスピードで下にある私達の浸かっているお風呂にまで滑り落ちてくると、そこにいたアンパリロー三姉妹に激突した。


 ソアラは、咄嗟に避けたけれど、エイティーンとハムレットは、派手に飛んで行ってお湯の中に叩きつけられて沈んでいってしまった。

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