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第1232話 『グランドリベラル21階にて その2』



 大浴場――湯気の立ち昇る中から、2人の影。ゆらりと姿を現して、近づいてきた。それは、メイベル・ストーリとディストル・トゥイオーネだった。


 2人は、このメルクト共和国を中心に活動をしている冒険者であり、ファーレが今首都グーリエが盗賊達によって陥落したと言ったけれど、そこで盗賊達を相手に戦っているレジスタンスのリーダー、ビルグリーノさんの友人でもあった。そしてコルネウス執政官が雇った、冒険者でもある。


 2人は私達の直ぐ近くまで来ると、また湯に浸かる。メイベルが言った。



「実は、あっしらも首都グーリエが陥落した情報は、さっきつかみやした。ですから、確かな情報だと思いやすよ」


「え? さっきっていつですか?」



 ファーレは、驚いた様子だった。首都グーリエの陥落。きっと先程、入ってきたばかりの情報なのだろう。その情報の事を、メイベルも既に入手していた事については、改めてAランク冒険者の凄さを痛感する。


 ファーレとシェルミーの護衛をしている者達は、チギーやロドリゲスも含めて腕の立つ者が多く見られた。だからこそ、グーリエが陥落したという情報も、きっとそういう事に長けた人達がいて、いち早く手に入れた確実な情報をファーレやシェルミーに届けたに違いないのだ。


 それを考えると、メイベルも凄いと思った。シェルミーに匹敵する情報網を持っているという事だから。だからこそ、ファーレはメイベルの情報入手の手際の良さに驚いて、その情報をいつ入手したのか、気になったのだった。



「とやかく説明せずとも、ここにいる人達は、全員あっしらの事をご存じでしょ。あっしらは、このメルクト共和国を中心に活動をしている冒険者でござんす。この国に散らばっている冒険者は、そりゃ沢山いやすし、信頼できるツテってゆーとアレでやんすが、知り合いも多いでやすよ。まあそういった類いの冒険者ネットワークを使えば、その手の情報は手に入るでやんす」


「なるほど、そういう事ですか」



 ファーレは納得したようだった。考えてみればメイベルは、偶然出会ったレジスタンスのビルグリーノさんとも知り合いだった。


 ビルグリーノさんは、もともと盗賊だったという話は聞いたけれど、もしかしたらそういう人達にも顔が広いのかもしれない。



「ファーレ。話を戻そうか」


「え、あ、はい。そうですね」



 シェルミーが、ファーレを急かす。


 そう、私達は十三商人の中に隠れ潜んでいる『狼』を探し出して、決着をつけなくてはならない。首都グーリエが陥落したからって、これで終わりにできない。だって私達は、まだこのリベラルで戦っているのだから。


 決して、最後まであきらめない。ルーニ様やリアを、あんな酷い目にあわせていた賊を放置する事なんてできない。


 こうしている間にも、『闇夜の群狼』という組織は、子供達を奴隷にして売り飛ばしたり、他にも数々の悪事に手を染め続けているのだ。


 ファーレは、続けた。



「では、話を戻しましょう。首都グーリエは陥落。コルネウス執政官は、どうなったのか……まだ行方がつかめていません。ですが、私達は諦めません。当初の計画もこのまま進めるつもりです。コルネウス執政官の事は、とりあえず別の者に任せて、まず私達はこの街に潜む『狼』を見つけ出して叩くのです。そうすれば、敵の指揮は間違いなく落ちますし、『狼』が盗賊達の司令塔になっているのであれば、敵の混乱も生じて付け入る隙も多くなるでしょう。また自分達のボスを失ったと知れば、もしかしたら盗賊は、戦意喪失して散り散りになるかもしれません」



 シェルミーは、妹の話にじっと耳を傾けて、何度も頷いていた。



「実際、賊は所詮賊だしね。ファーレが言った通りになると、私もそう予想している。だとすれば、首都は陥落してしまったものの、きっとここから巻き返せるはずなの。だからやっぱりまず、私達がしなきゃなのは、十三商人と接触して、誰がジョーカーなのか見つけ出す事だと思う」



 メイベルとディストルも頷いた。ずっと黙って横で聞いていた、セシリアとローザ。セシリアが口を開いた。



「そうね、解ったわ。それでシェルミーとファーレは、何かいい考えがあるのかしら。なければ今すぐにでも、『狼』を炙り出す方法を考えなくてはいけないと思うのだけれど」



 セシリアに続いて、私もシェルミーに思った事を言った。



「それでしたら、ミルトやイーサン、ダニエルさんはとても協力的ですし、他の十三商人に近づく為の手助けもしてくれました。だからこそ彼らは、『狼』ではないと信じたいです。あとデューティーさんや、アバンさんもこれから協力してくれるみたいですし、信用してもいいのかなって私は思っています」


「そうだね。テトラが言った人達を、全員ターゲットから外せば、13人から更に絞れるかもしれない。でも『狼』は、凄く狡猾で、影に隠れ潜んでいる。だからこそ一度、ゼロにして一からその人が、『狼』なのかどうか調べて行くべきだと思う。ことわざでも、急がば回れっていうでしょ。早く『狼』を叩いて、グーリエに向かわなければならない時だからこそ、確実に一つ一つ潰して行った方がいいんじゃないかなって」



 シェルミーの言う事はもっともだと思った。もう一度、十三商人1人1人を疑ってみて、可能性のない人を除外していけば、最後に残った人がきっと『狼』なのだから……


 時間や手間はかかるかもしれないけれど、このリベラルにやってきた当初は、そもそも1人1人に会って調べるつもりだった訳だし、これが一番の上策だと思った。



「それじゃ、どうすればいいですか? ミルトやイーサンやダニエルさんなら、直ぐに会って頂けると思いますし、早速会って『狼』かどうか確かめましょうか。あれ? でもどうやってその人が『狼』であるかどうか、調べればいいんだろう」



 色々と喋ってみて、その人が隠している事などを探り出す。不穏な様子は無いかなど。それで『狼』だという何かヒントを見つければ……


 もしそういう作戦なら、私にできるかどうかが不安になってきてしまった。


 私はそういうのは特に苦手だし、上手くやれる自信が微塵もない。どうしてもそれしか手がないというのなら、セシリアに頼るしかないと思った。でもシェルミーには、別のもっといい考えがあるようだった。

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