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第1230話 『腐っている』



 パスキア王国、王宮。今日、私はずっと自分の部屋のベッドで寝転がっていた。フィリップ王が、用意してくれた部屋。朝起きて、暫くしてから朝食をとり、そのまままた自分の部屋で転がっていると、クロエとマリンが様子を見にきてくれた。そして一緒に仲良く、ベッドで転がる……


 でもそうなって少しして、今度はイーリスが訪ねてきてくれて、クロエを連れて行ってしまった。するとマリンも、まだ読みたい本が残っているからと王宮書庫の方へと行ってしまった。


 まだ読みたい本が残っているから…………


 マリンは、そういう言い方をした。恐らくそれは、そろそろ私がこの国から出てまた旅する生活に戻るかもしれないと、気づいたからかもしれない。


 モラッタさん達との対決、私の反則負けだとガスプーチンに言われた。テントウムシを通じてその中継を、王宮でずっと見ていたフィリップ王と王子達は、ガスプーチンの下した判定結果を認めた。


 参加人数は30人まで。その人数までなら、何人でもメンバーをエントリーする事ができる。だけどそれには、この対決を取り仕切るトリスタンに、最初に申し出なければならないらしい。それでトリスタンは、私達のメンツを全て把握していたらしいけど……


 だけど途中で私達のキャンプに、ロイ達が加わった。ロイ、トマス、ダンカン、ジェン……彼らは、ヘーデル荒野でたまたまサソリの魔物に襲われていた。それをルシエルが目撃して、救出した。


 だけど助ける事ができなかった人もいて、怪我人もいた。だから彼らを、助けた後に保護する為、私達のキャンプへ連れてきた。


 それをガスプーチンは、指摘したのだ。途中で参加者が増えていると言って、反則だと言い放った。更にロイ達を指差し、対決の参加者は、女性のみなのに男性がいると――


 彼らはこの対決の私達の援軍などではなくて、魔物に襲われていたので、やむなく怪我の治療と安全な場所へ保護する為に、一時的に私達のキャンプに避難させた。それを私もルシエルもルキアも……皆で言って説明した。だけど、無駄だった。もう結果は出たので、何を言おうと覆らないと。


 ルシエルは、モラッタさんの方にガスプーチンが参加していた事や、ロゴー・ハーオン達までいて、私達を強襲した事なども言って責めたけど、ガスプーチンはそもそもあれはガスプーコだからなどと言って、もう話にはならないし、それを聞いているフィリップ王は笑い転げてしまって、私達は抗議するのも馬鹿らしくなって諦めた。


 こうしてモラッタさん達との対決は、三本勝負にも至らずに私達の負け。カミュウとの縁談の話は、モラッタさん達に移ってしまったのだ。


 ふう……もともと縁談の話は断るつもりだったけれど、この対決には勝つつもりだったし、勝った上で断るつもりだった。


 王宮でご馳走やお酒を飲みながら、私達の対決を観戦していた人達に悪気がなくても、私達の事をなんだか小馬鹿にして軽視しているようなフィリップ王や、やたらと敵視してくるガスプーチンをぎゃふんと言わせてやりたかった。


 …………ロイ達の傷の治療が終わり、彼らを王都まで送ってあげる事にした。それで一旦私達のキャンプまで彼らを連れてきた時に、エスメラルダ王妃は烈火の如く怒った。それだけ怒りを露わにした理由は、この結果になる事を既に予想していたからだろう。


 結果は下され、私達は肩を落としてヘーデル荒野から、王都にまで戻ってきたのが昨日。


 ロイ達とは、王都まで一緒に行動し、別れた。別れ際には、皆何度もルシエルに御礼を言っていたっけ。フフフフ。あんなのを見ると、私をいきなり吹っ飛ばした上に置いてけぼりにしたルシエルに対して、溜飲を下げる他ない。お灸をすえてやろうと思っていたけど、とてもできなくなるよね。なんてったって、ルシエルはロイ達の命を救ったんだから。


 対決には負けた。おまけにガスプーチンにあんな人を見下した目で見られ、おちょくられて、フィリップ王や他の王子達、王宮にいる者達には、いい見世物にされて笑われた。私だけだったらいいけど、私以外の力を貸してくれたルキアやノエル、クロエ、ルシエル、カルビ……皆、とても悔しい思いをしたはず。


 だけど、もういい。むしろこれで、良かった。


 だって、ルシエルの行動のお陰で、ロイ、トマス、ダンカン、ジェンの4人の命は助かったんだもん。行動全てが正しかった。それに今は、この王都で美味しいものを食べてゆっくりとできて、やっと落ち着けた気分。これで用事も済んだし、これからどうするかって皆と話し合わないとね。


 …………


 クロエもマリンも出て行って、今は部屋に1人。ずっと1人……


 あれからエスメラルダ王妃が、私を呼びつけに来ると思った。だけど信じられない事に、未だに来ない。



「あはは……うーん、こりゃあれだな……相当怒っているなーー。どうしようかなーー」



 唸りながら、ゴロリと転がる。これで彼女がずっと進めていた、私とカミュウの縁談の件もご破算。対決の前に、彼女は言った。もう縁談なんていいって……このまま馬鹿にされているのが気に喰わないから、勝負に勝った上で、こちらから縁談の申し出を取り下げて、フィリップ王達に悔しがらせてやるような事を言っていた。


 でも本心は、やっぱりこの縁談を進めたかったはず。彼女の事だから、モラッタさんとの対決に勝利するように私にそういう風に言って焚きつけて、勝ったら結婚する方向で話を強引に進めようとしていたのかもしれない。


 ……ううん、もうよそう。対決も縁談も、終わったんだから。ドワーフの王国で、ドワーフ達を救う為に手を貸してもらった借りも、これで十分に果たしたと言えるだろう。だってそもそもその約束って、カミュウに会う事だけだったんだし……


 まあ、カミュウはとても優しくて女の子みたいに可愛くて、いい子だった。彼と会って、一緒にキャンプにも行けて凄く楽しかった。カミュウがおすすめのハンバーグ屋さんや、キャンプの専門店など行った事も楽しかった。


 カミュウと出会えた事は、素直に感謝したい。



「ふうーーー」



 ベッドの上を、ゴロンゴロンとあっちへこっちへと転がる。



「何はともあれ、これでゾルバとエスメラルダ王妃に対して、義理は完全に果たしたって言えると思うけれど……なんか、こんな感じになっちゃって気持ち悪いのよね。だからと言って、どうもしないけど……」



 今日は、こんな感じでずっと自分の部屋に籠ってずっと唸りっぱなし。


 いい加減部屋の中でくすぶっていないで、明日は王宮の外に出てみよう。そしてルシエル達と合流して、これからどうするかを考えなくちゃ。また、新たな楽しい旅が待っている。


 役目はこれで終わりだし、旅を再開してもいいけれど……パスキアはまだ王都とかヘーデル荒野位しかろくに見ていない。だから出国する前に何処か、他の場所も見て回ってもいいかもしれないよね。



「うん、そうだー! このまま腐っていてもしょうがない!! そうしよう! 何か美味しいものでも食べに行こう!」



 私はベッドから起き上がった。すると、そのタイミングで部屋のドアを誰かがノックした。

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