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第1229話 『反則だと?』



 キャンプまで戻ってくる事ができた。


 そしてそのままサヨナラーって訳にもいかんので、ロイとトマス、それにダンカンとジェンも連れてきてしまった。


 皆、大なり小なり怪我をしていたし、特にジェンはちゃんとした治療が必要だったので、あの避難していた岩場で、アテナが治療魔法を使って傷を癒した。その後に、キャンプまで連れてきて適切な処置をした。


 そんでこの想像もできなかった事態に、猛烈に反応したのは、やっぱりアテナの義理の母ちゃん、エスメラルダ王妃だった。



「これはどういう事なのですか⁉ アテナ!! この人達はいったい誰なのです!? 何処から連れてきたのですか!? 今、わたくし達は対決中なのですよ!! それなのにこんな人達を、ここへ招き入れるなんて!!」



 ロイ達は、アテナやエスメラルダが王族である事を一切知らなかった。でもパスキアの英雄であるトリスタンの事は、知っている。


 彼等にも一応こちらの事を説明しておかなければならないって事で、アテナがクラインベルトの王女である事や、今はこのパスキア王国のカミュウ王子との縁談で色々とあって、このヘーデル荒野でこの国の他のお姫様とキャンプ対決をしている事などを明かした。


 これには、ロイ達も驚いたみたいだったが、パスキアの英雄であるトリスタンがいたので、全て本当の話なのだろうと直ぐに納得してくれたようだった。



「うっしゃ、オレが説明してしんぜよう!」


「ルシエルは、いいの。ここは私が話すから」


「え? でもオレのせいでこうなったし……オレにはこの事態を説明する責任がー」


「ルシエルのせいで、こうなったって言ったら何か語弊があるでしょ。正しくは、こうよ。ルシエルがいなかったら、危険な目にあっていたロイ達を発見する事はできなかったかもしれないし、あのままあそこにいたら皆……サソリの魔物に食べられていた。それをあなたは、見つけて救ったんだから」


「え? でへへ、そうかー。オレが救ったかーー」


「そうよ。私を風の精霊魔法でぶっ飛ばして、そのまま謝りもせずにピューーーって荒野を走って逃げたでしょ。私を吹き飛ばして、置き去りにするルシエルの行動が無ければ、ロイ、トマス、ダンカン、ジェン……他に犠牲になってしまった人達はいるけれど、ここにいる4人も助からなかったと思う」


「ううーーー」



 アテナに向かって土下座をする。



「も、申し訳ございませんでしたあああ!! アテナちん、ごめんよーー、オラ、どうしても強くなりたくてー。そんであのパスキア四将軍とかいう奴らなら、丁度いい練習相手になるかもしんないって思ってよー」



 アテナに土下座していると、何か気配というか……視線を感じる。すると目の前に、ちびっ子ドワーフがいて、土下座するオレを見ていた。このままだと、なんだかオレがノエルなんかに頭を下げているみたいだから、直ぐに立ち上がってやった。



「おいおい、反省が足りないんじゃなか? アテナを吹っ飛ばして、荒野に置き去りにしてきたんだろ? この変なエルフは」


「ノエル。君には関係のない件だ。ほっといてくりたまえ」


「なんだ、そのキャラ。よくもまあ、コロコロコロコロと調子を変えられるな」


「君に言われたくないものだよ、ノエル君」



 アテナに謝っていると、そこになんでかノエルが突っかかってくる。更にその中に、今度はエスメラルダが割って入って来た。



「どうでもいいです!! そんな事より、なぜこの者達を、ここへつれてなんて来たのですかと言っているのです!! これがどういう事か解っているのですか、あなたは!!」



 え? どういう事って、あれじゃないのか?


 あのまま、あの場所にロイ達を置いてはこれなかった。回復魔法も完全じゃない。傷の手当も必要だったし、何よりあれだけサソリの魔物がいたんだから、他にもまだいるかもしれなかった。だからいったん、ロイ達を安全なオレ達のキャンプまで連れて来たんだ。それの何が悪いんだ?


 アテナを見ると、明らかに顔を曇らせている。肩も落としているし、エスメラルダが言いたい事をアテナは理解しているようだった。なんだ、オレには解らんぞ。何か問題なんてあるのか?


 空から一頭のペガサスが降りて来た。トリスタン・ストラム。周囲には、王宮へこの対決の様子を、映像として送っているテントウムシ。


 トリスタンは、ペガサスから下馬するとアテナとエスメラルダの前に立った。



「アテナ王女とモラッタ嬢達との対決。この二回戦は、アテナ王女の反則負けとする!!」


 !!!!


 トリスタンの言葉に、ルキアやノエル、クロエも驚きの表情を見せる。ロイ達は何が起きているのさえ、解らないといった感じで戸惑っていて、アテナとエスメラルダはこうなる事を解っていたかのように沈んだ顔をしていた。



「ど、どういうこった!? オレ達の反則負けだと? んな、バカなことがあるか!!」



 キャンプの中央にも目をやる。そこに突き刺さっているオレ達の旗は、無傷だ。じゃあ、なんで……



「おい、答えろよおっさん!! なんで、いきなりオレ達の反則負けになんだよ!! どういう事か説明しろよ、納得いかねーーぞ!!」


「やめなさい、ルシエル!!」


「だって、納得いかねーだろ!! 少なくとも、その理由をここで言ってくれ!! でないと、こんなの認められない!!」



 なんだそりゃ! ぜんぜんこんなの受け入れられないオレは、トリスタンの胸倉を掴んだ。するとトリスタンは、抵抗もせずに俯いた。悔しそうな顔をしている。なんだよ? だから、なんでだよ。ちゃんと説明しろってば!! 



「オッホッホッホッホッホーーー!!」



 身の毛もよだつ、気持ちの悪い笑い声が辺りに響き渡る。見上げると、空からまた別のペガサスが降りて来た。乗っていたのは、ガスプーチンだった。



「現れやがったな!! ガスプーコ!!」


「はてさて、それは誰の事ですかな。拙僧は、ガスプーチンである。ストラム卿は、パスキア王家に仕える身でありながら、アテナ王女に肩入れしているようなので……」



 ガスプーチンはじろりとトリスタンを見ると、トリスタンも何か言いたげにガスプーチンを睨み返した。



「この結果を、拙僧自ら伝えに参りましたぞ。この対決は、アテナ王女側の反則負けとなり、これで2連敗。フォフォーーウ。失礼、と言う事で、カミュウ殿下との縁談を賭けての勝負の行方は、モラッタ嬢達の勝利となりましたゆえ。この結果は、既にハイレディーバグを通じて、王宮にも放送されておりますぞ」



 またこいつのせいか!! このガスプーチンが何か悪さをしやがって、無理矢理オレ達の負けにしたんだ。くっそーー!! これで、いいのかアテナ!!


 でもアテナは、いやらしいガスプーチンの視線とエスメラルダの怒りの眼差しに、挟まれながらも静かに……まるでガスプーチンの言っている、でまかせな結果を受け入れているかのように佇んでいた。

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