第1228話 『VS二匹のサソリ』
下の方で、トリスタンのおっさんが何かオレに向けて叫んでいた。アテナと共に、地面から突き出てくるドリル攻撃を次々とかわしながらも何か言っている。なんだよ? 聞こえないよ。もっと、ハッキリと大きな声でいいなさい。
「ルシエル!! 奴のだいたいの場所が解ったら、『フェイルノート』に矢を添えて、狙いをつけたまま探知するのだ!! そうすれば、『フェイルノート』が自動的に敵を探してくれる。そしてターゲットを見つけたと感じたら、力いっぱいに矢を引き絞りそのまま放てばいい!! その弓で射られた矢は、目標目がけて自動追尾するーー!!」
ほほう、そうだ!! そうだった!!
この弓は、とんでもない能力を兼ね備えている弓だった。
「サンキューー、おっさーーん!! 任せてくれーーーい!!」
大空――ペガサスに乗って手を振るも、トリスタンとアテナは地中に潜ったまま、3つのドリルで頻繁に攻撃をしかけてくるドリルスコルピオンに大忙しだった。
さてと、オレもさっさともう一方を仕留めてやんねーとな。周囲を見回す。
ブオオッ!!
「うわああっ!! あぶねえええ!!」
手綱を横にきってペガサスに身体を傾けさせた。刹那、岩が真横をかすめて飛んでいく。これは、スコルピオンロックシューターの攻撃だ。
あいつ、アテナとトリスタンと戦っている仲間のドリルスコルピオンを援護していたけど、オレがペガサスに乗って空にあがったらこっちを攻撃し始めやがった。
どうみても、遠距離攻撃に特化した奴だもんな。弓や精霊魔法が得意なオレにも、なんとなく気持ちは解るけど、敵を近づけたくはないわなー。
バヒュウッ!! バヒュウッ!!
今度は二連打で岩が飛んできた。回避。なるほど、あそこの大きな岩の陰、何か動いている奴がいる。今飛んできた岩も、そこから飛んできたのを見た。つまりそこに敵がいる。
「よーーし、仕留めてやるぜえええ!! その首、洗って待ってろおおお!!」
バヒュウッ!! バヒュウッ!!
また岩が飛んできた。出所は、間違いない。飛んできた岩を避けつつ急降下すると、そのまま大きな岩の方へ飛ぶ。同時に『フェイルノート』を構えて、それに矢を添えた。狙いは岩!! すると不思議な事に、弓と矢の先端が光り始め、狙っている岩の辺りも薄っすらと光って見えた。
ああ、解る、解るぞ。あの岩の後ろに、岩をポンポンとこっちへ放ってきているサソリ野郎がいる。
トリスタンの「今だ!! 放て!!」と言っている声が、聞こえた気がした。
「おらあああ、喰らえ!! フェイルノートじゃいやあああ!!」
バシュッ!! バシュッ!!
二本の矢を重ね持ちして連続で放つ。フェイルノートを包む光が矢に移り、放つと光の線を残して真っすぐに一閃。同時に放ったニ本の矢が狙った岩へ飛んでいく。そして岩に突き刺さる直前で、それぞれ左右に急カーブを描いて、岩を避けその後ろに隠れているサソリに命中した。
ギャアアアアス!!
二本の矢が命中して、悲鳴をあげるサソリ。隠れるのは無駄だと悟ってか、岩の陰からのそりと出てくると、オレの方へ鋏を向けた。岩を放ってくるな。だが、そうはさせない。
「早撃ちで、このオレに勝てると思ってんのか!! いっけーー、あいつを貫けフェイルノート!!」
今度はさっきの攻撃よりも素早く矢を撃つ。真っ直ぐ一気に飛んで行って、矢はサソリの腕を射抜いた。
ギシャアアアアア!!
ちらりとアテナとトリスタンの方を見ると、そっちももうケリがつきそうな感じになっていた。地面から突き出してきたドリルに対して、トリスタンがランスで凄まじい一撃を入れる。どれほど凄まじいかというと、その一撃は地面を穿ち、地中にいるサソリにまで届いていた。ドリルスコルピオンは、たまらずに地中から外へ飛び出してくる。それに合わせて、アテナが『ツインブレイド』を抜いてサソリ野郎目がけて跳んだ。
「さて、それじゃ、こっちもいつまでも楽しんでいられないし、そろそろ終わらせるとするか。この戦いが終わったら、ペガサスも弓も、おっさんに返さなくちゃならないだろーけどな。それ考えると名残惜しいが、しゃあなしかー」
手綱を強く握り、ペガサスの腹を軽く蹴る。腕に矢が刺さったまま、逃げ出そうとしているスコルピオンロックシューターの真上に位置取り、空から『フェイルノート』で矢の雨を降らせた。その1本1本の矢が生き物のように動いて、スコルピオンロックシューターの身体の関節部など、特に装甲の弱い場所に突き刺さった。
ギャアアアアアアウウ!!
「可哀そうだけど、人間を狩ろうとしているような凶悪な魔物は、そのままにはしていられないからな。ここで出会ったのも運命だ。悪く思わんでくれよ」
逃げ去ろうとしていたスコルピオンロックシューターから、その力を完全に奪い取る。最後の一撃を放ち、頭を射抜いた。ドサリと崩れるスコルピオンロックシューター。続いてアテナの方も決着がついた。
高く跳躍したアテナが、ドリルスコルピオンの腕と尻尾を二刀で跳ね飛ばすと、トリスタンはその隙をついて素早く踏み込む。奴の胴体を、愛用のランスで串刺しにした。
荒野には、こういう荒々しい魔物が多く生息している事は、とうぜんの知識として知っていたけど、こんな特殊なサソリの魔物がいきなり襲ってきたことには正直驚いた。
でもまあロイ達は、無事に助ける事が出来た訳だし、オレも思いがけずペガサスに乗れて、こんなアルテミスの弓にも劣らないような弓も握れてラッキーだった。
「ルシエルーーー!! おりてきなさーーい!!」
地上でアテナが腕を振って叫んでいる。
ふう、後はアレだな。アテナを吹っ飛ば
しちまったからなー。ちゃんと謝らないとな。そーしないと、ルキア達が待つキャンプにも戻れないだろうし……観念するしかないかー、ふいー。




