第1225話 『全部、先に言っちゃうじゃん』
「ロ、ロロロ、ロイーーーー!!!!」
トマスの悲鳴!! それでもダンカンとジェンは、必死にトマスが息子のもとへ行かないように抑えてくれている。だがそれでいい。親父までこっちに来たら、流石のオレも初めて見るこんなの相手に2人は守りきれんからな!
「ル、ルシエル……僕……」
震えている。大丈夫だ、絶対に守ってやるからな!
「ロイ、じっとしていろ。そのままじっとして、できるだけサソリを刺激するな。お前は、オレがこの身に替えても絶対に守ってやっからよ!! だから、ちょい待ってろ!! うおおおおおお!!」
あれこれ考えている暇は無い! ドリルスコルピオンに向けて猛ダッシュ!!
ギシャアアアアア!!
ドリルスコルピオンの、ドリルによる一撃。前進しながらそれをスライディングでかわす!!
「ヒャッヒャッヒャ!! 確かにおっかねえ破壊力のある攻撃だけどな、喰らっちゃいけないのは鋏と一緒だよな。なら、当たらなければどうってことはないって訳だ!」
ギシャアアア!!
ドリルスコルピオンの目は更に赤くなった。こいつ、相当頭にきてやがるぞ、これは。でも怒れ怒れ。奴の敵意を、オレだけに向けさせるんだ。その方が、都合がいい。
しかし考えが甘かった。ドリルスコルピオンは、ドリルのついた尻尾を大きく振りかぶると、その真下にいるロイに向かって勢いよく振り下ろした。まずい!!
「うわあああ!!」
「ちくしょ、こいつ!!」
両腕についたドリルでオレを攻撃しながら、尻尾でロイを叩くという方法を選んできやがった。なんて奴だ。でも今からじゃ、とてもロイの所まではいけない。
やむおえん!! こうなったら、方法は一つ!! 多少荒っぽいけど、あの尻尾でロイが叩き潰される前に、オレの得意精霊魔法【突風魔法】で、ロイを遥か向こうまで吹き飛ばす。
そうすれば、助けられる。だがもう1匹の岩を飛ばしてくるサソリが厄介だ。って悩んでいる暇はねえ!!
ギシャアアア!!
「ルシエルーーー!!」
「大丈夫、そのまま動くなよ!! ちゃんと助けてやるから!! 風よ、我がもとへ集い、力となれ!! ウインド……」
【突風魔法】をロイに対して放つ前に、上空から何かが勢いよく振ってきた。うわっ!
またあのスコルピオンロックシューターの岩か⁉ そう思ったが、違う!! デカいし、そいつは真っすぐにロイの方へ飛んでいくと、そのままロイを掴んで大空へ連れ去った。
ドドーーーン!!
ドリルスコルピオンのロイを狙った尻尾攻撃は、ロイがいた場所の地面をえぐるだけで不発に終わる。オレもドリルスコルピオンも、いったいなにがあったのかと空を見上げる。するとそこには、純白の翼の生えた天馬がいた。
「ペ、ペガサスか⁉」
ペガサスは、トマス達がいる岩場の方へ行くと地上に降りた。そしてロイを降ろして、父トマスのもとへ送り届ける。
「ルシエル、大丈夫だった?」
「ア、アテナーーー!!」
ペガサスに騎乗していたのは、トリスタン。そしてその後ろには、アテナが乗っていたのだ。そしてトリスタンが巧みな馬術でドリルスコルピオンの尻尾攻撃をかわして接近すると、アテナがロイの腕を掴んで見事に救出したのだ。
オレは、ピンチに颯爽と現れたヒーローを見て何度も飛び跳ねた。
「うおーー、うおおーーー!! アテナーー!! さっすが、アテナだぜ、助けに来てくれたんだな!! オレは嬉しいぜーー」
「まったくもう、あんたはー。この国では、ヘーデル荒野ってそれ程広くない荒野って言われているらしいけど、探すのにかなり手間取っちゃった」
「それでもよく見つけられたな。多分だけど、ここってオレ達のキャンプからちょい離れているよな。なんとなくだけど、モラッタ達のキャンプから間違った方向へ、突き進んじゃったなーって薄々は気づいていたんだよね。わはは」
「わはは、じゃないわよ。私を【突風魔法】で吹き飛ばしておいて、しかも謝りもせずに全力で逃げ出したりするからでしょ。そういうことするから、こういう事になるのよ。反省してください」
「わかった、わかったー。悪かったよーう。もう、反省しているからー」
「ならばよし。それで、あのサソリはどうするの?」
そりゃ凶悪な魔物をこのままにしては、おけないだろがよ……て言おうとしたら、トリスタンが先に言った。
「人を襲った魔物は、そのままにしてはおけぬな。それにルシエルが助けた人達……少年もいるようだが、全員をつれてドリルスコルピオンからこのまま逃げきるのは流石に無理というものだ」
「だからと言って、まかり間違ってもオレ達だけ逃げるなんて選択はねーぜ」
「そんなの当たり前でしょ!!」
「もちろんだとも!! この天馬騎士団団長トリスタン・ストラム!! パスキア王国の平和を守る為なら、一切の力を惜しまない所存!!」
「よーーし、それじゃサソリ共に反撃開始だ!! ここからは、オレ達が狩る番だな!!」
「サソリ共? ルシエル、それってもしかして……」
「避けろ!!」
ドドーーン!!
トリスタンがアテナを突き飛ばした。アテナの先程立っていた場所に、何処からか跳んできた岩が命中して砕け散った。
「な、なんなのこの岩!! 何処からか飛んできたけど……」
ああ、この岩は……って説明しようとしたら、トリスタンがまた先に言った。
「スコルピオンロックシューター。土や砂を体内に取り込んで、岩を生成して飛ばしてくる厄介なサソリの魔物だ。察する所、敵は目前のドリルスコルピオンと、何処か遠距離で拙者らを狙うスコルピオンロックシューターの2匹のようだな」
オレは、勢いよくペガサスに跨るトリスタンのもとへ走って行くと、ルキアよろしくトリスタンをポカポカと何度も叩いた。
「な、何だ⁉ いったい、どうしたというのだ、ルシエル!?」
「あーーーん、もうもうもう!! オレが珍しく知識をひけらかそうとしているのに、おっさんが先に全部説明するーーーう!!」
「はあ? え? ああ、それはすまなかった、ルシエルよ!」
「もう、遅いよーー!! ぜーーんぶ、美味しい所をおっさんがもってくんだもんなーー。たまんねーよなーー!!」
「ちょっとーー、ルシエル。ドリルスコルピオンが、こっちに向かってくるわよ」
「あっ、そう。じゃあ、そろそろ真面目に戦わなきゃなー」
ずりずりと、迫ってくるドリルスコルピオン。そしてこの広い荒野の何処かで、オレ達を狙うスコルピオンロックシューター。
トマス達のいる岩場を背に、オレとアテナとトリスタンの最強トリオは、ドリルスコルピオンと向き合った。
形勢逆転!! さあ、こっちも増援が到着した事だし……そろそろ決着を着けてやるぜ!!




