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第1224話 『共存関係』



 ドリルスコルピオン――本来、サソリの腕についている鋏、それがドリルになっていて、尻尾の先端もそうなっている。合計3つのドリルを持つ、迫力満点のサソリ。


 そいつは、オレの為に水をとりに行ってくれたロイの目前に現れると、人間に対して明らかに殺気を放った。



「ロイーー!! 固まってんじゃねーーー!! さっさと逃げるんだ!! ボヤボヤしてねーで、さっさとこっちへ走ってこい!!」


「…………」



 さっきまで戦っていたジャイアントスコルピオンもかなり狂暴な奴だったが、新たに現れたドリルスコルピオンは、また独特なヤバい雰囲気を身に纏っていた。


 それが何かと聞かれたら、上手くは説明できないけれど、兎に角ヤバイ感じってあるだろ? たまにヤバそうな魔物を見かけた時に、そういうのを感じる時がある。それをこいつにも感じた。


 ロイもオレと同じで、そういうのを少なからず感じている。だから恐怖で身体が固まり、動けないでいる。



「ロイーーー!! 逃げろ!! 逃げるんだ!! 私の言う事を聞け!! 聞こえているんだろ!! お、おい! 腕を離してくれ、私は息子を助けるんだ!!」



 岩場の方から大声が聞こえてきた。振り向くと、トマスが自分の息子ロイに向かって叫んでいる。今にもロイに全力で駆けて行きそうになっていて、ダンカンとジェンが必死にトマスを止めていた。


 しかしオレの声にも反応しなかったロイが、父親の必死な大声には反応を見せた。よっしゃ、いいぞ! これならなんとかなる! 全力でロイの方へ走る。ドリルスコルピオンもオレがそこへ向かってくる事に気づいて、僅かに動いた。



「ロイ!! こっちへ駆けろ!!」


「でも荷物が!!」



 言葉を返してきた。よし、どうにも固まっていた身体の硬直は、解けた。



「そんなの、捨てておけ!!」


「でも、旅の……」


「うるさい!! 四の五のいわずに、助かりたければ言う通りにしろ!! 命あっての物種だろーが!!」



 ロイは、荷物に腕を突っ込むと何かをつかみ取る。そして一直線にこちらに向かって駆けた。ドリルスコルピオンは、そのロイの動きに反応をして、両腕を向けて追いかけてくる。身体がデカいし、動きもそこそこ早い。



「うわああああ!!」


「いいぞ、ロイ!!」



 奴が追いつくより先に、オレがロイを捕まえた。抱きかかえて素早く横へ飛ぶ。その後にすかさず、ドリルが飛んでくる。凄まじい音と共に、さっきまでいた場所がえぐられる。なるほど、確かにドリルだ。


 ギシャアアアアア!!


 ドリルスコルピオンの目の色が、赤く変色した。なんだ、こりゃ。もしかして、獲物をオレに横取りされてキレたって事か? 


 ドリルスコルピオンは、オレに突進してきた。ドリルを前に突き出してくる。オレはロイを抱いたまま、素早く避けてみせた。これがトマスだったらキツいけど、身体の小さなロイならなんとか回避できるな。


 ダンカンの叫び声。



「ねーーちゃん!! 避けろ、避けるんだあああああ!!」


「ほへ?」


「いいから、身を隠すか跳んで避けろ!!」



 サッと周囲を見たが、ドリル野郎以外の危険が迫っているように思えない。すると上か!! 察したオレは、頭上に目を向けずに直感だけで、ロイを抱いたまま大きく跳んだ。地面に転がり倒れ込むと、直ぐに起き上がりロイを立ち上がらせる。


 ドガーーーン!!


 大砲が炸裂でもしたかのような音。まあ、大砲って言っても、それをオレはまだ見た事がないんだけどな。ははははは。振り返ってさっき自分のいた場所を見ると、なんと地面が陥没していた。



「な、なんだこりゃ」



 凹みの周辺には、無数の石みたいな破片が飛び散っている。どういうことだ? 上空を見上げる。もしかして、遠くの空から星が落ちてきたとかか……いや、それでもこのタイミングで、ピンポイントにオレ目がけて星が落ちてくるか、ふつー。いったいどうなってんだ?



「ねーーちゃん!! 気をつけろ!! きっとサソリはもう1匹いるんだ!!」


「もう1匹だと⁉ それがこの地面の凹みと、なんか関係あんのか⁉」



 ダンカンは、何かを知っているようだった。そう言えばトマスとロイは旅人で、ダンカンはヘーデル荒野をトマス親子に案内していた、案内人なんだっけか? だとすれば、この辺りにも詳しい訳だし、この陥没の正体も知っているはず。



「関係はありありだぞー!! ルシエル、よく聞け!! もう1匹のサソリの正体は、スコルピオンロックシューターだ!!」


「ス、スコルピオンロックシューター!! な、なんだそりゃ!! なんて、かっこいい名前なんだ!! この際、白状しちまうが、正直ドリルもカッコいいなって目が釘付けになってたんだ。なのに他にも、そんなかっこいい名前のサソリがいやがるのか!! まいったなー。で、そいつは、何処にいるんだよ?」


「スコルピオンロックシューターは、その名の如く土や砂を体内に取り込んで、固めて岩石にする。そしてそれを飛ばして攻撃してくるサソリの魔物だ!!」


「え? そりゃまたすげーな。でもどうやって? 仕組みはどうなっとるんだ?」


「両腕の鋏に穴があって、そこに土などを取り込む。そして体内で固めてボール状の岩の塊に生成すると、土を取り込んだ鋏の中にある穴から、弾丸さながらに撃ちだすんだ。その威力は、ざっと大砲みてーなもんだな。しかも遠距離攻撃が得意だから、近くにはいねーと思うぞ」


「なんだとー。じゃあ、つまりアレか。そいつは、ドリル野郎と組んで襲ってきているって訳か」


「組んでいる……そんな意識はないんじゃないか。共存って言った方が近いかもしれない。要は、利用し合ってんだよ……って、ねーちゃん!! そいつから、目を離すな!! そいつは……」



 ダンカンの慌てっぷりを見て、直ぐにドリルスコルピオンに目を向けた。いない!! 奴がいない!! そして大きな穴――そういや、ジャイアントスコルピオンも地中に潜っていやがったけど……


 ドドーーーーン!!


 直ぐ足元の地面が大きく盛り上がって、2本のドリルが突き出してきた。サソリ。オレは大きく衝撃で吹き飛ばされた。



「うわあああ、ちくしょ!! あの野郎……あれ、ロイは! おい、ロイ!!」



 ロイがいない!!


 慌てて探すとロイは、少し離れた場所に倒れていた。ロイ、無事か⁉ ロイは、よろよろとしながらも起き上がる。しかしそのロイの顔に、突如として地面から飛び出してきたドリルスコルピオンの尻尾が突きつけられていた。

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