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第1223話 『走れロイ その2』



 目前のジャイアントスコルピオンに、狙いを定めて思い切り弓を引き絞る。サソリ野郎の直ぐ後ろにいる、ロイとトマスに矢が当たらないように、しっかり狙いをつけて放たなければならない。



 キシャアアアア!!


「おんどりゃああああ!!」



 鋏で攻撃してきた。完全ではないが、麻痺からはもうかなり復活している。サソリ野郎の攻撃をサッと回避すると、すかさず連続で三本の矢を放った。しかしサソリは、両の鋏をクロスするようにして矢を防ぐ。やはり昆虫系の魔物の外骨格は、かなり強度があるな。手強い。



「風よ、吹け!! ≪突風魔法(ウインドショット)!!」



 ダンカンと一緒にさっき逃げた時のように、地面に精霊魔法で突風をぶつけて宙にあがる。丁度、サソリの頭上に舞い上がると、そこから両手を合わせて魔法を詠唱。魔力を集中させ、勢いよく同時に腕を突き出すと、両手から横殴りの竜巻を発射した。



「お前らみたいな凶悪な魔物を、馬鹿正直に3匹も同時に相手なんてしてらんねーからな!! そして特にお前!! お前には、麻痺にされた個人的恨みもあるし、おもっきしいかせてもらうぜ!! 行け!! ≪竜巻発射(ウインドバスター)!!」



 ギャアアアアア!!


 ゴゴゴゴゴ……ズバーーン!!



 両手から発射された横殴りの竜巻は、真下にいるサソリの身体に命中。その威力で胴体を一瞬にして引き千切った。ロイとトマスは、オレがやっつけたサソリを越えてこちらに駆けてくる。残る2匹のサソリが逃がしてなるものかと、一斉に2人に襲い掛かる。



「させるかってんだ!! 風よ、悪しき魔物を斬り刻んで、細切れにしてやれ!! ≪風の刃(ウインドカッター)」!!」



 飛んだ場所から下に落ちて、地面に着地するまでに、息もつかせぬ程の勢いでいくつもの、【風の刃(ウインドカッター)】を放ってやった。無数の風の刃が、サソリ共に襲いかかり、その身体に傷をつけた。2匹のサソリは、怯むだけでなく明らかに苦しんだ。



「ヒャッヒャッヒャ!! どうだ、参ったか!! 精霊魔法を使っていいってんなら、お前らなんてあっちゅー間よ!!」



 そんな事を言いながらも、既にサソリの目の前に移動している。太刀『土風(つちかぜ)』を両手で強く握ると、跳躍し1匹の頭部に深く突き刺した。


 ギャアアアアア!!


 頭部を串刺したサソリは、直ぐに吐血して絶命した。残るサソリは、仲間がやられてしまい、慌てて地面に潜って逃げようとする。



「あっ、こら!! お前この野郎、逃げる気だな!!」



 人間をあんなに残虐に殺したサソリを絶対に許さない!! って気持ちと、戦意喪失している相手を、追ってまで殺すのはよくないんじゃないかって気持ちに割れる。そうなると、追い詰めるにも爪が甘くなって結局逃がしてしまう。残る1匹のサソリは、地中深くに潜ってしまった。



「ふうーー、逃げてもーた。でも、とりあえず退治したって事でいいんかな」


「おねえちゃーーーん!!」


「うおっと!!」



 ロイがこっちへ全速力で走ってくるなり、抱き着いてきた。オレは、ロイの頭を撫でてやった。



「おう、大丈夫だったか? 怪我とかしてねーよな」


「うん、大丈夫。おねーちゃんも、もう動けるんだ」


「ああ、サソリの毒は、まともに受けた訳じゃないからな。この程度なら、これもんよー」



 そう言って力こぶを作って見せてやった。あるのかないのか解らない、力こぶ。でもこのルシエル様の本当の実力を知っている者達には、さぞやこの力こぶがノクタームエルドに連なる山脈にも見えているに違いないのだ。フハハ。



「ルシエルさん。先程……私は、あなたを見殺しにした。息子の為とはいえ、心の中にはそれと別に、己も助かりたいたいという気持ちや、この恐ろしい場から早く離れたいという恐怖があったのも事実。それなのに、あなたは自分を見殺しにした私と息子を救ってくださいました」


「は? 見殺し? なんのことだ?」


「え? いや、だからさっきあなたがサソリの毒で麻痺をしていたのに、私はそんな身動きのできないあなたや怪我をしているジェンを放って……」


「ははは、そんな事あったっけ? オレ、どうでもいい事は、直ぐに忘れちゃうんだよな。まあ、そんな事よりさ、実はオレ今お取込み中なんだよね」


「でも、それでは……もし、ルシエルさんの気が収まるなら、この私を気が済むまで殴りつけてください!!」


「嫌だよ、そんなめんどくせーのん。それにオレは、そんな人を殴りつけて興奮する特殊な性癖はないっつーの。そんな事より、実はオレ、今このヘーデル荒野でモラッタ・タラーってお姫さんと対決をしている最中なんだよ。キャンプ対決って変わった勝負してんだけど、意気揚々と相手のキャンプを確かめに出たのはいいが、自分のキャンプが何処にあるのか、解んなくなっちゃったんだよー」


「モラッタ・タラー……もしかして、それってタラー伯爵の娘さんですか?」


「そうそう。って、おー、やっぱ有名人だったんだ」


「タラー伯爵は、このパスキアでもかなりのお金持ちで、フィリップ王とも深い親交をお持ちとか。そうですか、そのモラッタ嬢と何かしら……キャンプ対決をしておられるのですか」


「そうなのよ、そうそう、話せばまた長いんだよ、これが。それより、オレは早く仲間のもとに戻りたいんだよな。あと、喉もカラカラだった」



 トマスはにこりと微笑むと、息子のロイに水を持ってくるように言った。サソリから逃げる時に、荷物は放り出してしまっている。そこへ荷物を回収する為に、ロイは向かった。



「解りました。私にできる事があれば、なんでも協力します。改めまして、私の名はトマス・サード。今向こうに走っていったのは、息子のロイ・サードです。色々とパスキア内を回っております、旅人です」


「そうか。じゃあ、オレと似たようなもんだな。オレは冒険者のルシエル・アルディノアだ。気軽にルシエルって呼んでくれ」


「ルシエルさん」



 トマスと握手を交わした瞬間だった。近くの地面が一瞬にして大きく盛り上がり、山のようになって弾けた。飛び散る土くれの中から姿を現したのは、2匹のでかいサソリだった。


 一方はさっき逃げたジャイアントスコルピオン。そしてもう一方は、そのジャイアントスコルピオンよりも更に一回り大きいサソリで、その腕には鋏ではなく、なんとドリルがついていた。


 ドリルのついたサソリは、さっきオレが戦っていたサソリを腕にあるドリルで串刺しにして、その勢いで地面にまであがってきたようだった。



「ロイーーー!!」



 トマスが叫ぶ。ロイは、荷物と水をとりに行き、今はドリルを持つサソリの近くにいる。おいおい、マジか!! ヤバいぞ!!


 トマスが慌てて息子の方へ駆けようとしたので、その腕を掴んで後ろへ引っ張る。代わりにオレが、ロイの方へと走った。

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