表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

122/1344

第122話 『小さなアテナ その2』





 部屋に入り二人だけになると、手を縛っていた縄を解かれ、そして服を脱がされた。下着だけの状態。そうして恥じらいを与える事によって、私がここから逃げ出せないと思ったのだろう。


 男は、私の身体を嘗め回すように見た。



「素晴らしい。まさに、女神だな。どうだ? いっそこの際、王妃など辞めて私の嫁にならないかね? ん、どうだ? そうすれば帝国でいい思いができるぞ」


「閣下……私は……」



 言葉を発しようとした瞬間、男は剣を抜いて私の喉に突き付けた。



「ヴァルター・ケッペリンだ! ヴァルターと呼んでくれていい。だがな、だが何か私に話すつもりならくれぐれも、よく言葉を選んで喋った方がいい。場合によっては私の気まぐれ一つで、あの青い髪の可愛らしい娘の命が儚く消えてしまうかもしれんぞ。フフフフ」



 ヴァルター・ケッペリン、この男は、自分の機嫌を損ねれば何時でも私の可愛い大切な娘、アテナと私を殺す事ができると脅しているのだ。恐ろしい帝国軍人。


 ドルガンド帝国との戦争になった時に、私もこの国の王妃としてある程度の覚悟はしているつもりだった。だけど、アテナやモニカ……私の大切な娘たちに危害が及ぶなんて事は、絶対に許さない。



「それで――それでどうする? ティアナ王妃。今宵、あなたは私を心行くまで楽しませてくれるのかな?」



 私はヴァルター・ケッペリンを睨み付けた。ヴァルターは、そんな私の目を見て呆れた表情をして見せた。



「そうか、残念だ。では、次はあの綺麗な青い髪の天使のような、あなたの娘――アテナ王女に私の力になって欲しいと、お話をしてみるかな」



 ヴァルター・ケッペリンがそう言ったと同時に小屋の外から子供の悲鳴が聞こえた。アテナの声!!



「アテナ!!」



 私は、取り乱した。気がおかしくなりそうだった。すぐにでも、アテナのもとへとんでいきたい。すると、それを見てヴァルター・ケッペリンが笑った。



「フッフッフ。私はあなたのような女性が好みでね、娘の方には特に興味はない。だからあなたの態度次第で、娘を自由にしてやってもいいとも考えている」



 再び、外からアテナ悲鳴がした。私は、ヴァルター・ケッペリンに両膝をついて、縋る様にして言った。



「お願い!! 娘を自由にして!! なんでもしますから!! お願い!!」


「なんでもか……なら早速私を喜ばせてくれ。早く決断しないと娘は、大変な事になるぞ。私にその趣味はないが、部下に幼女趣味の気持ち悪いやつがいてね。さっき窓からチラッと奴を見たが、その気持ち悪い奴が、あなたの娘を放り込んだテントに入っていったよ。今頃、どうなっているかー? フハハ」



 それを聞いて、気が遠のく。私は倒れそうになった。全身から血の気が引き、とても立っていられない。崩れ落ちかけた所を、ヴァルター・ケッペリンが私の身体を抱き留めた。



「おっと、これはいけない! 大丈夫かな。それにしても、雪のように白い綺麗な肌だ。そして、透き通るような青い髪と目。やはりあなたは、私の妻になるに相応しい女性だな」



 ――――アテナが!! アテナが!! 私があの子を守らないと! 


 私はすっかり油断しきっているヴァルター・ケッペリンの腰に差している剣を掴んで、その鞘から勢いよく抜いた。一瞬の出来事でヴァルター・ケッペリンは、呆然としている。そこへ剣を十字に斬りつけた。ヴァルターの顔に十字傷が刻まれ、血が流れ出る。



「ぎゃあああああ!!!! 女ああああ!!!! 許さん!! この私の顔に傷をつけるとは!! 絶対に許さんぞおおお!!」


「…………好きにはさせない! 何が何でも、娘は私が絶対に守ります!!」



 窓ガラスに椅子を投げつけて割ると、下着姿のままそこから外へ飛び出した。


 手には奪った剣。目前に男が二人。男達は私の姿を見て剣を抜こうとしたが、先に斬り伏せた。そのまま一直線に、アテナの悲鳴がしたテントへ走る。


 中へ入ると、肥った大きな男が、アテナの腕を掴み、服を引き裂こうとしていた。



「アテナーー!!」


「お母様!!」


「ゴラア!! 誰だ! オメーー!!」



 気づくと私は、その肥った男の背にヴァルターから奪った剣を、深々と突き立てていた。



「ぎゃああ!! いでええええ!!」



 剣を引き抜くと同時に男が倒れる。アテナの姿が目に入った。アテナは私の顔を見るなり、笑顔を見せた。…………良かった、間に合った。

 


「お母様!!」


「アテナ!! 大丈夫? 怪我はない?」


「服をちょっと破かれちゃったけど、他はなんともないよ!」


「そう。良かった!

 じゃあ、逃げるわよ!」


「お母様、裸? お洋服どうしちゃったの? 小屋の中で何かあったの?」



 私は年甲斐もなく顔を赤らめて娘に言い訳をした。



「ち……ちょっと、暑くて脱いじゃった。それに下着は着ているでしょ。裸ではないわ!」


「アハハハ。変なのーー」



 無邪気な笑顔に救われる。さて、何を犠牲にしてもどうやっても、ここから娘を無事に逃がさないとね! 心に強く誓う。



「女が逃げたーーー!! 何としても取り押さえろおおおお!! 急げええええ!!」



 刹那、ヴァルター・ケッペリンの怒号が聞こえた。私は、テントの中にあった数本のナイフを手に取り、倒した男から剣を剥ぎ取ると娘に渡した。



「わ……私、剣なんて怖くて使えないよ……」


「いいから持っていなさい」



 娘の手を引いて、テントから飛び出した。敵。出会い頭に、男の腹に剣を突き刺す。そのまま、走る。森に入ろうとしたところで4人が追いかけて来たので、手に入れていたナイフを2本投げた。命中。男達の手や足に突き刺さる。更に私は敵に手を翳して叫んだ。



「あまり魔法は得意ではないけれど!! そんな事を言ってられる状況じゃないわ。ファイヤーボール!!」



 翳した手が光に包まれ、そこから火球を放った。火球は敵が向かってくる方へ飛んで着弾し、その周囲を爆炎に包み込んだ。

 


「はあ……はあ……やっぱり、魔力を使うと凄く疲れる……でも、これで逃げ切れる。逃げるわよ! アテナ!」



 更に森の奥へ逃げ込もうとした。再び娘の腕を引いて走ろうとした瞬間、背中と足に痛みが走った。



「お母様――!!!!」



 見ると、背に矢が2本、足にも2本刺さっていた。私は、娘を絶対に助けてみせると、もう一度自分に言い聞かせて奮い立たせると、娘の手を引いて森の更に奥の方へ駆け込んだ。


  

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ