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第1217話 『ガシュウ・ガイツ』



 フォンフォンフォンフォンフォン!!


 手に持っていた槍を頭上で回し、次に左右で回し、巧みに操って見せつけるガシュウ。



「パスキア四将軍が1人、ガシュウ・ガイツ!! 参る!!」


「オカッパ四天王が1人、ルシエル・アルディノア!! いざ尋常に勝負!!」


「ちょ、ちょっとルシエル、まさかとは思うけど……そのオカッパ四天王っていうのは、私の事をディスってるんじゃないわよね。何度も言っているけど、この髪型はボブカットとかボブへアって言って……」


「わーーってる、わーーってるって! なんもそんな青筋立てて言わんでもええやねん」



 向こうでブンブンと腕を振ってなんか言っているアテナを、片手で追い払うような仕草で言った。一応勝負をしている最中だから、相手に舐められないようにそうしたけど、怖いからアテナの顔は見なかった。



「ルシエル・アルディノア。俺達パスキア四将軍を3人も連続して戦い、そのうちの2人をも倒して見せるとはな……その名は今後も忘れる事はないだろう」


「すまん、オレはお前の名前を忘れちゃうかもしれん。だから先に謝っておくな」


「…………」


「いや、嫌味じゃねーんだよ。人間ってほら、アレだからさ。あんま、どーでもいい事っていつまでも覚えてねーじゃん。そうやって、日々生きている生き物じゃん。だからさ」


「ならいいさ。今後、二度とこのガシュウ・ガイツの名を忘れられないようにしてやる」


「そこまで言うのなら、一応覚えておいてやる。カシュウ・ナッツよ」


 …………



 チラリと向こうで観戦しているアテナに目を向けると、笑っている。しかも実は姫だか王女だが知らんが、片手の甲を口に添えて上品に笑ってやがるぜ。なんてこった。いつもは、恥ずかしげもなく短いスカートでパンツ見せて歩いているクセによー。まったく、たまんねーぜ!! あのプリ尻を鷲掴みに……って、まあそれはいいや。


 兎に角、ちょっと機嫌が直って良かった。まあウケるとは思っていたけど、オカッパ四天王っつったら怖い顔したからなー。アテナは怒ると怖いんだよな、トホホー。


 黙って、じっと睨みつけてくるガシュウ。



「冗談、冗談。ガシュウだろ。ガシュウ・ガイツ。単なる茶目っ気だよ、そう怒んなって。それとも何か、お前も偉そうにズズッキーにアドバイスしていたくせに、直ぐに頭に血が昇って猪みたいにズドーーンいうて突進してくるタイプかー? それならやりやすくてありがたいけど、それじゃあオレの稽古にはならないんだよなー」


「稽古だと?」


「ああ、こっちの話。特に気にしないでくれ。ほれ、遠慮せんとかかってこい」


「なるほど、それでエルフだというのに得意の精霊魔法や弓矢を使わないのか。しかしあまり思いあがっていると、痛い目にあうぞ」


「思い上がり? ちげーっし! オレは、お前らがそれなりに強いと思ったから闘いたいと思ったんだよ。多少、縛りはもうけないといけないけど、丁度剣の腕も磨きたかったからな」


「精霊魔法や弓を使わぬエルフなど、大した相手ではないわ」


「なら、試してみろよ」


「言われなくても、試してやる!!」



 ガシュウが動いた。いきなり、激しい槍の連打。今度はズズッキーの時とは違い、回避だけに頼らない。初めから太刀『土風(つちかぜ)』を抜き、それで槍の突きを弾いたり受け流す。そして後ろには下がらず、ガシュウを中心に時計回りに動く。



 ギンギン! ガン! ギン!!


「やるな、ルシエル!! この俺の槍捌きにこれほどついて行ける者なんて、この国でもトリスタンかブラッドリー位のものだぞ!!」


「へえ、そうなんだ。パスキアって、意外とつえー奴がいねーのな。もしかして人材不足?」


「貴様、どこまでも人を舐める!!」


 ブオオオン!!



 連続突きからの薙ぎ払い。槍といえば、攻撃は突く事が一番であるというのは間違いないが、形状からも棒術に通ずるものがある。だから突くだけでなく、横薙ぎやらしゃくりあげたり、上から叩きつけたりなどの攻撃方法もとうぜんある訳で――ほら、来た!!


 タンタンターーン!!


 早速、槍で頭上から叩きつけてきた。


 槍捌きはなかなか見事なもんだが、精霊魔法や弓が専門のオレでも十分に対応できるレベル。攻撃に勢いや派手さはあるが、正直に言ってしまうと、ロゴーやズズッキーとさほど実力はかわらないというのが、実際に手合わせしてみた感想だった。


 『土風』で槍を受け止めると、そのまま滑らせて突進し、首の付け根に見事な一本を入れた。ガシュウは、信じられないという顔で「バカな……」っと言って倒れた。



「はいはい、終わった終わった」



 岩に腰かけていたアテナが立ち上がって、尻を払うとこちらに近づて来た。うっへー、たまんねーなあのプリケツ! もしかしてこのオレを、挑発してんのか? おうん?



「やっと終わったね。もっと早く決着をつけられたんじゃない?」


「そうだな。でもそれだと、アテナの獲物を奪ってまで、練習相手にした意味がねーだろ。しっかりほら、稽古をしねーと」


「そう言えばそうだった。ルシエルが割って入って来たんだった。しかも私を吹き飛ばして」



 にっこりと満面の笑みで、オレの顔を見つめるアテナの顔。とても見ていられない。めっちゃ、怖い。確かにどうしても派手な登場演出をしたくて、『突風魔法(ウインドショット)』でアテナをぶっ飛ばしたのはまずかった。アテナの事だから、絶対大丈夫とは思ってたけど……



「えっと……あのね、オレ……」


「ジュノーやジーク・フリートに触発されてたんでしょ。思いついたらやるのは、あなたの性格だから、それ位は解るわ」


「え? そう、じゃあ良かった。それじゃ、ルシエルちゃんの稽古も済んだし、急いでキャンプに戻るとしますかー。うははは」



 オレ達のキャンプ。ルキアやノエル達が待っているキャンプに戻ろうとすると、襟首をアテナに掴まれた。うぎゃんっ! オレは、シャっと素早く動いてアテナの手を振りほどくと、猛烈ダッシュで自分達のキャンプ目指して突っ走った。後ろは決して振り返らない。怖いから。



「こーーらーーー!! 待ちなさい、ルシエル!! 待ちなさいってば!!」


「やだよーー!! だって、待ったら怒るじゃん!! めっちゃ怒るだろーーがよおーー!!」


「そりゃ、怒るわよ!! この私を不意打ちでぶっとばしたんだから!!」


「ヒーーン!! ほれ見た事か!! じゃあ、待たないーー!!」


「待ちなさいってばーー!!」



 こうしてオレとアテナは、パスキア四将軍のうちの3人をぶっ倒し、そいつらをこの場に転がしたままにして荒野を駆けに駆けた。仲間の待つ、キャンプに戻る為に――

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