第1216話 『ズズッキー その2』
ズズッキーは、ウォーハンマーを下から上に救い上げるように放った。予想外の攻撃だったが、それをかわした。しかしズズッキーが放った一撃は、荒れた地面をもえぐった。重い一撃と共に、土や石などが礫となって襲い掛かってくる。
「うわああっ!! クソ、これは避けらんねーー!!」
「ハッハッハーー!! 一瞬でも立ち止まったが最後、お前のその小枝みたいに細っこい身体に、ウォーハンマーを打ち付けてやる!!」
「ヒイイイイ!! 助けておくんなせーーい……って、なーーんてな」
「あん⁉」
加速上昇!! 持ち前の反射神経とスピード、それに動体視力でズズッキーがえぐり上げた石はおろか、土までもを避けて見せる。とうぜん後に迫ってきたウォーハンマーの一撃も回避。こんな攻撃、あのジュノーに比べれば、ぜんぜんスローモーションに見えるぜ。
「くそおお!! 攻撃が当たんねー!! なんて、素早い奴だ、ちくしょーめ、ムカつく!!」
「ズズッキー、俺も手を貸してやる!!」
ズズッキーの相方、ガシュウがそう言って槍を手に前に出ようとした。オレとズズッキーの勝負を、近くにある岩に腰かけて眺めていたアテナは、ガシュウの言葉に「やっぱりね」というような……口には出さなかったが、軽蔑するまでとはいかないまでも、そんな目でズズッキーとガシュウに目をやった。
ズズッキーはそれに気づく。額に血管。
「いらねえええ!! さがってろ、ガシュウ!! こんな細っこいエルフの女、このパスキア四将軍が一の剛腕、ズズッキー様の敵じゃねえええ!! どりゃあああ!!」
ズズッキーは、完全に頭に来ていた。自分の攻撃が悉く当たらないから。一方オレは、かれこれ30分以上は、変わらず涼しい顔で一方的な攻撃を避けまくっている。
確かにパスキア王国でも武力を自慢している将軍というだけあって、普通の兵士よりかは遥かに強いようだけど、この分じゃこいつは……どんどんバテていきそうだしな。これ以上は続けても、いい練習にならなさそうだな。
「うおおおおお!! このクソエルフがああああ!!」
「クソエルフなんて、呼ぶんじゃねえ!! スーパーエルフ、ルシエルちゃんだ!!」
「ルシエルちゃんだとお!? ふざけんじゃねえ!!」
完全に我を見失っている。スタミナ切れだし、息も乱れているし攻撃もなんだか単調になってきた。こいつは、オレが完全回避に徹している事に気づかないのか? パスキア最強とか言ってたけど、実はパスキア最弱の間違いなんじゃねえのか。
「ルシエル、もうそろそろいいんじゃない?」
「おうん?」
「ノエル達も、私達が戻ってくるのを待ってくれているし」
「そうだな。解った、そんじゃそろそろトレーニング終了するかな」
アテナに言われて、オレはズズッキー達とのトレーニングをここらで終わらせる事にした。ここまで完全に逃げに徹していたが、太刀『土風』を抜く。構えはなく、ただ手に持っているだけ。
「どこまでも馬鹿にしやがって!! もう、容赦しねえぞ、このエルフ!!」
「熱くなるな、少しは冷静になれズズッキー!! その女は、舌を巻く程に逃げ上手のようだが、格闘戦は苦手とみた。そしてエルフである事からして、弓矢と精霊魔法による遠距離攻撃が得意に違いない!! 華奢な身体だ、距離さえ潰してしまえば、あっという間に前の勝ちだ!!」
ガシュウのアドバイス。ズズッキーは、ニタリと笑うと、ウォーハンマーを手に思い切り振ってきた。
ふむー。これは、アテナとモラッタ達がカミュウの縁談相手の座をかけた勝負のはずだろ? そのアテナのお友達であるこのオレを、完全に殺してしまう勢いなんだけど……
「うりゃあああああ!!」
「しゃーない。これで終わりにしようか」
ブウウウンッ!!
ズズッキーは、ウォーハンマーを横薙ぎに振ってきた……かに思えたが、違った。振ったのではなく、なんと投げていた。ズズッキーの放ったウォーハンマーが、オレに向かって飛んでくる。すかさず、サッとしゃがむ。頭すれすれをウォーハンマーが飛んで行った。あっぶねーーー!!
「ハハハーーー!! 馬鹿め、もらったあああ!! これで俺の勝ちだあああ!!」
砲丸投げのように勢いよく投げたウォーハンマーの後を追って、オレの目前にまで迫ってきていたズズッキー。両手を前に突き出して、組み付こうとしてきた。
ほほう、力任せだけのゴリラ君だと思っていたのに、どうしてなかなか。ガシュウって奴のアドバイスを受けたからの行動だろうけど、確かに組み付かれたらオレはヤバイ。オレは自慢じゃねーが、アテナのようなあんな組技を持ってもいないからな。ノエルのようなゴリラパワーも無い。掴まれて、力任せに叩きつけられでもしたらピンチだ。
しかし、そんな事はアテナと出会う前から、とうに自分で知っとるわ!!
「うがあああああ!!」
ズズッキーの攻撃。組み付いてこようと突進してきたので、オレも応じて向かう。捕まる直前に潜り抜けるように避けると同時に、太刀『土風』を放った。狙いは脇腹。一瞬、ズズッキーの動きが止まり、そこを狙って振り向きざまに、奴の首にももう一撃浴びせた。もちろん、血が吹いたりはしない。全部、峰打ちだ。
「あ……が……この、エルフ……が……」
ドサッ。
ロゴーに続けてズズッキーが前のめりに倒れる。すると直ぐにガシュウが、次は自分の出番だというように、手に持っていた槍を巧みに操りながら前に出てきた。
近くの岩に腰かけてゆっくりと観戦していたアテナが、少し前のめりになる。ほほう、って事はこいつは先の2人よりも、多少はできる子ちゃんって事だな。こりゃ楽しみだ。




