第1214話 『勝負、再び その3』
「ちょっと、ルシエル!!」
ルシエルは、私を見ると向こうを指した。指の先は、近くにあるちょこんとした岩を指している。ああ、なるほど、そこに座って見物していなさいって事ね。まったくもー、いつもそうやって勝手な事ばかりするんだから。
心の中でルシエルに対する不満をぶちまけながらも、彼女が指した岩の方へと歩く。そして座る。
ルシエルを相手に一斉に攻撃をしかけていた3人の男達は、手を止めて私の方を見た。3人共、パスキア四将軍と呼ばれている男達。残るもう1人は、ここには来ていないみたい。
まあ自分達の腕には自信があるみたいだし、私に仕返しするにしても3人いれば問題ないとでも思ったのかな。
「アテナ王女!!」
「はーーい、何かしら」
「こいつと……王宮の練習場で、このロゴーと試合をして、あんたが勝った。あの時に、言いましたよね。俺と勝負をして欲しいって」
「えっと、確か……」
「俺の名は、ズズッキー・ズッキーだ!! そしてこっちが!!」
「ガシュウ・ガイツ」
ウォーハンマーを持っている如何にもパワー型って感じの身体の大きい方が、ズズッキー。そして槍使いがガシュウね。ロゴーは、双剣使いだし……確か残るもう一人は腰にブロードソードをぶら下げていたかな。私やルシエルと同じように、それぞれ得意な武器があるって事ね。
「俺らはパスキア最強と呼ばれる、パスキア四将軍だ!!」
「そうなの? トリスタンとブラッドリーが、一番強いと思っていたわ」
「それが誤りであると、今すぐにでも証明してやる!! まずは、この俺、ズズッキーが相手だ!! 手合わせを願う!!」
そんな事を言われても、もう私はルシエルが指したお手頃サイズの岩の上に座ってしまっている。この人達はあなたにじゃなくて、私に用があるみたいだけど……どうするの、ルシエル?
ルシエルに目をやると、彼女は足元に落ちていた小石を手に取り、それをズズッキーの後頭部にぶつけた。
「あいたあああっ!! て、てめえ、なにすんだ!! ぶっ殺すぞおおお!!」
「て、てめーがなにすんだよ」
「はあ!? 何言ってやがんだよ、このエルフは!!」
「だからてめーが、なにをすんだっつーてんの」
ズズッキーとガシュウの視線が、私からルシエルに移動する。ルシエルは、大きく溜息を吐くと、2人に説教をするように言った。
「あのね、あんたらさっき言ったよね」
「え? 何が」
「このオレの事をアテナの護衛だと思ってたんだろ? アテナが護衛でなく仲間だって、訂正してくれたけどな。でも常日頃からアテナの親友だと思ってたオレにとって、他人に単なる護衛だと思われていたのは、心外なんだよなー。ちょっぴりだよ。ほんのちょっぴり、傷ついた。そんだけだけど、傷ついたねーそりゃーもーねー」
嘘ばっかり。ルシエルは、傷なんかついていない。目が笑っている。
「何が言いたいんだ、このエルフめ!!」
「だからちょっと、意地悪な気持になっちったのよ、オレは」
「意地悪!? なんだそりゃ!!」
ガシュウは、じっとルシエルを睨んでいるけど、ズズッキーはいいように気持ちを煽られている。戦闘能力は、同列位かもしれないけれど、こういうやり取りに関しては、ロゴーやズズッキーよりもガシュウが上手かもしれない。
「こんだけアピールしてんのに、まだ解んないかなー。そんなん、決まってんじゃん。お前らの邪魔をしてやるって言ってんだよ。オレは、アテナの護衛らしいからな。アテナに勝負を挑むお前らを、護衛らしく徹底的に追い返してやるぜ」
黙って聞いていたロゴーがキレた。
「ふざけるな、さっきから黙って聞いていれば!! 貴様に用はないし、アテナ王女のお気に入りみたいだから手加減してやっていたが、痛い目に合わんと解らんらしーな!!」
「またそれか。お前、そんな感じでもうアテナにもう2回もやられてんじゃん。それにさっき手合わせしてみたけど、3人がかりでもオレ1人倒せないじゃん。そんなお前らが、どうやったってアテナには、一生かかったって勝てやしないぜな。ヒャハハハハ」
ルシエルの事だから、急に自分も戦いたくなって、私とロゴー達の間に割って入ったのは解っている。それはいいんだけど、それにしても必要以上に挑発して、怒らせすぎじゃないって思った。ズズッキーなんて、もう怒りで額に浮き出た血管が、今にも弾け飛びそうになっていた。
『ぶっ殺す!!』
ロゴー、ズズッキー、ガシュウの3人が同時にルシエル目がけて襲い掛かった。ルシエルは、してやったりって顔で3人の攻撃をまた上手に回避して凌いでいる。避けに徹し、避けれない攻撃は、太刀『土風』を抜いて対応している。
そうなんだよね、ルシエルって弓矢と風属性の精霊魔法が得意ってイメージなんだけど、別に風属性以外の魔法もそれなりに使えるし、黒魔法だって使用できる。そしてナイフに至っては、かなりのものだし太刀だって最近は、かなり腕をあげてきている。
普段おちゃらけているから、そういう風にあんまり思わないけれど、かなりのスペックなんだよね。Aランク冒険者だし、当然と言えば当然かもしれないけれど。
「よっしゃーーー、はっはーーー!! こいつら、挑発にまんまとのってきやがったぜーーい!! うへへへへ!! おい、アテナ!! この3人は、オレがやっつける!! だからそこで、オレの凄さと活躍をだな、指を咥えて見ていなさい!!」
「はいはい、それじゃ完全に任せていいのね」
「あったぼーーーよ!!」
ロゴー達3人は、ルシエルを取り囲むと3方向から攻撃をしかけた。でもルシエルは、囲まれた瞬間に素早くズズッキーの股の間をすり抜けると、そこから転がって相手との距離をとった。
3人を睨みつけ、太刀をブンブンと振ると気合を入れて構える。
「アッチョーーーー!!!」
全てが我流。あの構えも、太刀の振り方も私は初めて見るものだった。だけどルシエルのスペックが高すぎて、あのパスキア四将軍に通用してしまっている。そしてあのルシエルの、相手を精一杯驚かしてやろうという、憎たらしい顔。面白くて、私は吹きだしてしまった。