第1213話 『勝負、再び! その2』
『ツインブレイド』は、まだ抜いてはいない。ロゴーの素早い連続攻撃を、よく見て全て綺麗に避ける。半身になった所からバックステップし、更に踏み込んできたロゴーの双剣をバク転でかわす。
ロゴーの表情は、更に厳しいものになり、この戦いを傍で見ていた他の2人は、明らかに驚いた顔をしている。
それもそのはず。王宮の練習場で試合をした時の私は、あれでも力をかなり抑えていた。パスキアに入国して直ぐに入った酒場で、彼と悶着になって闘いになった時に、彼はそれほどではないともう解っていた。力の差を見抜いていた。
確かに双剣を見事に扱うし、動きも素早い。身のこなしに関してもレベルが高いし、パスキア最強と自称しているだけあって、息もつかせない二刀による連続攻撃は凄い。
だけど……正直言って、この程度じゃ鎖鉄球騎士団のゾーイはもとより、団長のゾルバにもかなわないと思う。
思い出す。ノクタームエルドの大洞窟で友達になったリザードマン。ギーとの勝負は、とてもピリリとしたものがあったし、ミューリやファムと戦った時は、ひょっとしたら負けるかもしれないとかいう言葉が、頭の中を何度も掠めた。かなりの魔法の使い手だったし、私は魔法が使えても苦手だから、そこを上手くつかれたら危なかったかもって思っていた。
パスキアに入ってからもそう。私を追ってきたドルガンド帝国の2人の将軍。ジーク・フリートとジュノー・ヘラー。あの2人と向き合った時は、今までにない圧倒的な何かを感じた。その何かは、はっきりとはまだ解らないけれど、なんとなく本気にさせてはいけないようなそんな感じ。師匠とか、私の姉のモニカに似た独特な雰囲気。
つまり今、必死で私に向かって二刀のダガーで斬りつけようとしているロゴーなんて、その人達に比べれば……
「くそくそくそおおお!! 逃げてばかりでなく、戦え!! アテナーー!!」
ビュババ!!
ロゴーの攻撃速度が更に上昇する。でもまだ普通に対応できるレベル。このまま続けていても、仕方がないし……このままだと、モラッタさん達とキャンプ対決をしているっていう本分を忘れてしまいそうだし、さっさと決着をつけた方がいいかもしれない。力の差は歴然、いたずらに長引かせたくもない。
「うおおおお!!」
ロゴーは連続で左右のダガーを振った所から、コマのように回転して襲ってきた。反撃するなら、スウェーで後退せずにこのまましゃがむか跳んで、反撃につなげる。
ロゴーの回転攻撃をジャンプで避ける。ロゴーの顔の前、彼の身長よりも頭2つ分位の位置に跳躍した私がいた。
結局、ツインブレイドは抜かなくても、このまま蹴とばせば決着はつく。
そう思った刹那、私とロゴーの隣に誰かが踏み込んできた。
なるほどね、このままじゃ仲間がやられちゃうからっていうので、やっぱり1対3に切り替えたのね。彼らの目的が、正々堂々とした試合の再戦でもなく、単なる仕返しっていうのなら、当然かな。それなら私も一度に片付けたいし、願ったり叶ったりね。
よし、そういう事なら、ロゴーへの一撃はここでは入れられない。もしも飛び蹴りを入れたら、その瞬間を2人に狙われるから。
視線をロゴーから、その仲間達の方へ切り変える。すると目を疑う光景がそこにあった。
あれ⁉ 嘘!?!?
私とロゴーの間に割り込んできたのは、ロゴーの仲間ではなかったのだ。2人共、同じ位置にいて、こちらを見ている。じゃあ、割り込んできたのは――
「ルシエル!! どうして!?」
ルシエルはニヤリと笑うと、掌をロゴーではなく私の方へと翳した。
「どうしてじゃねーよ! アテナは、もうこいつと何度も戦ってんだろ?」
「何度もじゃないわよ、二回よ! っていうか、そんな事よりも……」
「わりーッス! オレもけっこー、アレじゃん? 熱くなるタイプじゃん? なのにずっと指くわえて見ているってのも、つまんねーじゃん?」
「あんた、まさか……ちょっと、やめて……!!」
「ちゃんと手加減とかすっから、平気平気!」
やめて、この子まさか!! ルシエルは満面の笑み。嫌な予感が駆け抜ける。翳している手を私に向けたまま叫んだ。
「アテナ選手! ここで颯爽と現れたスーパープリンセスエルフ、ルシエルちゃんに吹っ飛ばされてリングアウト!! よって、選手交代だあああ!! ≪突風魔法!!」
「うそー!! きゃあああああ!!」
ルシエルの放った風属性の精霊魔法。彼女の翳した掌から、突風が放たれ私を吹き飛ばした。しかも丁度ロゴーの攻撃を回避して跳躍していた時で、地面に着地寸前。抵抗もできず物凄い勢いで、ロゴー達がいる場所から飛ばされ離れて行く。
そしてだだっ広い荒野に激突――っは、しないように落下時のダメージを転がって殺す。それでも……
「ぎゃふんっ!!」
ゴロゴロゴロゴロ……
地面に叩きつけられた時に、変な声がでてしまった。私は、受け身から直ぐに起き上がると、ロゴーに負けない位の怒りの形相でルシエルを睨みつける。
「こーーーらーーー!!!! ルシエル、どういうつもりなの、あんた!!」
ギイン、ギン、ガン!!
いきなり問答無用で、しかも仲間である私をこんなところまで吹き飛ばしたルシエルにお灸をすえようと、先ほどまでいた場所まで猛ダッシュ。
しかしもとの位置に戻るも、そこではもうルシエルが、ロゴー達3人を相手に激しい闘いを繰り広げていた。
1人は双剣、そして残る2人はウォーハンマーと槍。3人共、パスキアが誇る四将軍。だけどルシエルは、満面の笑みで楽し気にそれぞれの攻撃を起用に避けて見せた。
あの楽しそうな顔を見ると、私の問答無用で吹っ飛ばされた痛みや恥ずかしさも、すーーーっと消え……
「って、消えるかあああああ!!!! ちょっと、ルシエル!! 仲間を攻撃するなんて、どういうつもりなのよ、っもう!!」
ロゴー達を相手に、たった1人で善戦してみせるルシエル。そんな彼女に腕を振りかざして怒る私の姿は、理由も知らず遠目に誰かが見れば、まるで応援しているようにも見えるかもなんて思ってしまった。
「まったくもう!」
……まあ、応援はしているんだけどね。




