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第1211話 『水補給』



 道は覚えていた。問題は、自分のキャンプへ戻るルートよりも、その距離だよね。


 私達やモラッタさん達のキャンプには、お互いの勝敗を決める為の旗がある訳で、本拠地と言っても良かった。だから当然その本拠地同士、お隣さんという訳もなく、それなりに離れている。馬ならそれほど気にするまでもない距離でも、徒歩になるとかなり大変。


 私とルシエルは、追っ手に追われながらも荒野を自分の足で駆けていた。


 馬蹄の響きが近づいてくる。私とルシエルは、それぞれ近くにあった岩の陰に身を隠した。



「アテナ王女は、こっちに行ったぞーー!!」


「どこですか?」


「あっちではありませんか?」


「ではそっちへ進むぞーー!!」



 モラッタさんが知っていた用兵術の知識には少し驚かされたけれど、どうも他の子達はやっぱり素人に見える。剣や槍や薙刀など持つ姿は、それなりにさまにはなっているけれど、はっきり言って印象はお嬢様のお稽古事で身に着けたような……そんな雰囲気がある。


 髪型や仕草から言っても、貴族とか王族みたいだし……そういう子達が武具を身に着けて、モラッタさんに従っている。ルシエルも、既にその事に気づいているみたいで、今も逃走中だというのに表情はいたって何時にも増して軽い。


 追ってきた人達の中に、モラッタさんやデカテリーナさんの姿はなかったけれど、指揮をしていた感じの子が、私達のいる方とは別の方を剣で指した。すると他の者は全員それに従って走り去っていった。私とルシエルは岩陰からひょこっと姿を現すと、再び自分達のキャンプを目指す。



「さてと、追手は、撒いたっと。それじゃ、ぼっちらぼっちら皆が待つキャンプに戻りましょうや」


「うん、そうね。でもこの荒野……この距離を歩いて帰るとなると結構大変かもね」

 


 いつの間にか太陽が、頭上に来ている。そして荒野をトボトボと歩いている私達を、日差しが容赦なく照り付けていた。暑い……



「結構、暑いね。干からびる前にキャンプに戻れると思うけど、結構な暑さだよね」



 時間は既にお昼を回っていて、一番暑い時間帯だった。もちろん荒野でも、陽が陰ったり雨が降る時もある。だけどめったにないし、今日は快晴のようだった。



「ねえ、ルシエル。もう少し歩いたら、ちょっと休憩しようか」



 隣を向くとルシエルの姿がない。えってなって、後ろを見ると遅れてヨロヨロとついてくるルシエルがいた。足元は覚束ない様子。



「ちょ、ちょっと大丈夫?」


「あついーーー! めっちゃ暑いよーーー!! 喉が渇いたけど、慌てて出てきたし水筒も持ってない。帰るまでちょっときついかもよー」


「えーー。そんなにー」



 お昼時を過ぎて、じりじりと照り付ける太陽。言われてみれば私も結構、喉が渇いているかもしれない。徒歩でキャンプまで、どれ位の時間になるんだろう。馬でモラッタさんのキャンプまでだいたい……



「アテナ!」


「なーに?」


「ちょ、ちょっとあそこで休憩しようぜ」



 ルシエルが指した先には、何本もの木が生えていた。どの木も青々としていて、元気な葉っぱがついている。あれ、もしかしてあの辺りに水があるかもしれない。



「いいわね。うん、それじゃちょっとそこで休もう」


「はあーー、助かった」



 ルシエルの助かったって意味は、休める場所を見つけて良かったって意味ではなくて、私がオッケーって言った事に対してだった。


 もうー、時折ルシエルは私の事を鬼みたいに扱う時があるのよね。私はもちろん鬼じゃないし、ルシエルを叱る時だってそれは、だいたいルシエルが何か悪戯的な事をした時くらいなのに。



「やった!! アテナ、あれ見ろ! 泉だぞ! 泉があるぞおお!!」



 やはり木々が生えている場所に、泉があった。小さな泉だけど、木々に囲まれていてとても透明な水。



「うひょーー!! もう喉がカラカラ。飲んでもいいかな」


「ちょっと待って……うん、大丈夫みたい。じゃあ、ちょっとここで水を補給して休憩してから、キャンプに戻りましょう」


「はーーい」



 ルシエルは、お腹を壊すんじゃないかって位に一気に水をガブガブと飲んだ。そして仰向けになって転がる。その光景を見て笑うと、私も水を飲んで少し休憩した。



「こんな荒れ果てた荒野でも、こういう水や草木のある場所はちゃんとあるから不思議だよね」


「言われてみれば、そうだな。砂漠でもオアシスってあるもんなー」


「へえ、ルシエルってば、そんな事よく知っているね」


「ああ、実は知っている。人の話す旅の話とかって結構面白いじゃん。そーゆーの聞いたりな」


「冒険者したり、キャンプする為にあちこち旅する私達にとっては、ためにもなるしね」


「そうなんだよ。それでオレは、本当の砂漠ってあるじゃんか。砂ばっかの世界のよ。そこに行った事がねーから、ある時に砂漠を旅した奴に色々聞いたのよ。そん時に、オアシスの話をそいつが話してくれてな」


「へえ、そうなんだ。砂漠と言えば、ヨルメニア大陸南の地だよね。私もそのうち、旅してみたい」


「それなら、このパスキアの件が片付いたらどっか砂漠を旅でもするか? ルキアやノエルだって、きっと面白そうだって賛成するよ」



 砂漠か……でも南の地もいいけれど、北の大地もいいなって思っていたりもする。一面砂の世界も、きっと美しいかもしれないけれど、そこが北なら一面雪に覆われる銀色の世界だろうから。きっと、凄く綺麗。



「ううーーん、悩む!!」


「え? いきなり、何を悩むんだ⁉」


「えっと、砂漠の世界でキャンプするか、それとも雪が降り積もる中でキャンプをするかって」


「雪!? って事は北の大地か。確かにそっちも行った事がないし、楽しそうだな」



 泉の傍で、そんななんでもない会話を続けて身体を休めていると、また何処からか馬蹄の激しい音が聞こえてきた。私とルシエルは、慌てて立ち上がって状況を確認した。

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