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第1210話 『いなくなった馬』



 ヘーデル荒野でのキャンプ対決3日目。そこから旗の奪い合いが解禁され、早速私達のキャンプに旗を奪いに来たモラッタさん達。


 こんなに直ぐに攻めてくるとは思ってはいなかったけれど、先手を取ってくる所までは予想していたせいか、見事に撃退。更に撤退するモラッタさん達の後を追って、私とルシエルは彼女達のキャンプ地を見つけた。


 モラッタさん達には、既に私達のキャンプ場所はバレてしまっていたんだけど、逆に私達は今まで彼女達のキャンプ場所を見つける事ができずにいた。だからこそバレずに、モラッタさん達のキャンプと旗がある場所を特定できたのは、大きかった。


 とりあえず有力情報を入手できたという事で、私達は一旦自分達のキャンプへ戻る事にした。それでモラッタさんの仲間から奪った馬に乗って来た道を戻ろうとしたんだけど、いざ馬を繋いだ場所まで戻ると馬がいない。


 私とルシエルは、辺りをキョロキョロと見回して調べる。



「どういうこった、こりゃ? ちゃんとここに、繋いだよな?」


「うん、ちゃんと繋いだよ。ルシエルだって、そうしたはずでしょ? 勝手には、外れないはず」


「ふーむ、じゃあなんでしっかりと繋いだはずの馬がいないんだ? 馬が自分で縄を外したなんて、考えられんしなー」



 ルシエルに言ったように私は馬の手綱を、この木にしっかりと巻き付けた。こんな短時間で、勝手に縄がほどけるはずもない。


 だとすると、真っ先に考えられるのは……



「ルシエル、警戒して。もしかしたら、誰かが馬をつれていったのかもしれない」


「ええ!? 馬をつれていったって、いったい誰がそんな事をするんだよ」



 ルシエルはそこまで言って、はっとした顔をする。そう……私達は、馬を自分達のものだと言う風に言っているけれど、実はこの馬は私達がモラッタさんの仲間から奪った馬。


 この近くをモラッタさんの仲間が通りがかっていれば、奪われた馬に気づいて連れていくのは当然。



「もしかして、あいつら追い付いてきて……それで、馬を見つけて奪い返しやがったのか」


「どうだろう。私達が馬を奪った、あの偵察をしていた女の子達だけど……奪い返したというのなら、どうやってこの短時間で、私達を追ってきたんだろう。馬だとそれ程な距離でも、徒歩で私達のキャンプからここまでだとそれなりに距離があるのよね」


「ふーむ、確かにそーだな。って事は、ここに居ない者の犯行だな」


「犯行って、一応突っ込んでおくけど、馬を奪ったのは私達の方だからね」


「解ってる、解ってるって。小さな事は気にしない、気にしなーい! ってそれなら、怪しいのはガスプーコだな。あいつ、髭面な上にペガサスに乗ってただろ。偉そうに」


「髭面と偉そうなのは、関係ないよね」


「それはそうなんだけど、まずオレの話を聞けって。気分よく話ているんだからよー」


「はいはい、ごめんごめん。はいどーぞ」


「うむ。それで……今、モラッタ達のキャンプを俺達も偵察していた訳だが、そこにガスプーコはいなかった。つまりそこから導き出される事だが、奴はまだ戻ってきていないって事だ。オレ達のキャンプを強襲した後に、あいつヤバくなって逃げたろ? それでここまで逃げ戻ってきて、その途中に馬を見つけて回収したって訳だ」


「それならなぜ、馬が仲間のものだって解ったの? しかもガスプーチンは、ペガサスに乗って飛行していたし、見つけたにしても馬まで距離もあるよね。逃げている最中に、そんなに注意深く辺りを見ていたって事かな?」


「そりゃ……あれだよ! そうだ、戻ってくる途中で、俺達に馬を奪われたあの2人を発見したんだよ。それで馬を奪われた話を聞いて、自分のペガサスに乗せてやった。ここまで戻ってきたら、なんと自分達のキャンプの近くに馬が繋がれていたという訳さ」


「うーーん、どうかな」


「え? まだ納得いかない? オレなりに頑張って推理したんだけど」


「だいたい、あのペガサスに3人なんて乗れないと思うよ。ガスプーチンの性格からしても、親切に乗せてあげたって考えにくいし……」


「それじゃ、何か。別の誰かに馬を奪われたというのか?」


「多分そうかもしれない。っていうか、その可能性の方が高いかも。だってそもそもここは、モラッタさん達のキャンプ地の周りだからね。考えてみれば、彼女達の誰かにっていうのなら、ぜんぜん不思議な事じゃないと思う」


「なんだと! じゃあ、さっきのオレの推理はどうなるんだ? 名探偵ルシエルちゃんだぞ!」


「そんなの私は知らないわよ。それよりも、戻る事を考えなくちゃ。徒歩で戻るとなると、なかなかの距離がありそうだし」



 近くで誰かの叫ぶ声がした。



「誰かーーー!! 誰か来てくれーーーい!! ここにアテナ王女がやってきているぞーーい!!」



 ルシエルと一緒に、その場で驚いて飛び上がる。振り返ると、大きな岩の上にあの胡散臭い宮廷魔導士が立ってこちらを見ていた。



「ガスプーチン!!」


「拙僧は、ガスプーコと名乗ったでありましょう、アテナ王女。それはそうと、拙僧らの馬を奪うとは、なんともはや王女とは思えぬ行い」


「そっくりそのまま返すわ。あなたこそ、ルールを破ってばかりでしょ。一国の宮廷魔導士にあるまじき行為を行っていると思うけれど、それは自分でどう思っているの?」


「ルール? はてさて、どんな内容でありましたかな? それと拙僧は、ガスプーチンではありませぬと申しておるでしょう。ガスプーチンは、拙僧の兄ゆえ……」


「うそつけーーーい!!」



 私が突っ込む前に、光の速度で突っ込むルシエル。


 ガヤガヤと、何人もの人の声が近づいてくる。ガスプーチンの声を聞きつけて、ここにモラッタさん達がやってきたんだ。上空から数匹のテントウムシも降下してくると、私達の姿の映像を捉える。



「アテナ」


「うん、テントウムシがやってきたって事は、この場の映像はきっと王宮に中継されている。だったら、このままモラッタさん達に囲まれてタコ殴り……って事にはならないと思うけれど、向こうは私達の武器を奪って拘束するつもりでくるでしょうね。ルール的には、オッケーだし」


「まあな。でもあいつらに、それできねーだろ。なんてったって、オレ達コンビを倒して拘束するなんて、ちょっとそれができるとは思えねーけど」


「そうね。でも多勢に無勢。その上、手加減して戦わないといけないなら、ちょっと面倒かも。ここは、一旦退きましょう」


「りょーかい!」



 モラッタさん達、大勢の姿が見えると私達は彼女達に背を向けて走り去った。後方から、ガスプーチンの「逃がすな、捕らえろ」という声が聞こえてくる。


 フフフ、私とルシエルを、そう簡単に捕まえるなんて事できるかな。

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