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第121話 『小さなアテナ その1』 (▼ティアナpart)






 ――――今より遡る事、約12年前。


 ドルガンド帝国が近隣の国々へ宣戦布告し、軍事侵攻を初めて1年目の年だった。クラインベルト王国の国王セシル王は、ドルガンド帝国の侵略行為を許すべくもなく、その進行を食い止める為に日々、その力を費やしていた。


 ある日、中立を保っていたヴァレスティナ公国のエゾンド・ヴァレスティナ公爵より、セシル王に同盟を組みたいとの要望が入った。互いに手を取り合ってドルガンド帝国の侵攻から、領土や国民を守ろうといったものだった。


 セシル王は喜んで、妻ティアナと娘のモニカとアテナを連れて、ヴァレスティナ公国のエゾンド公爵との早急な会談を行う事にした。


 一騎当千の猛将ゲラルド・イーニッヒ将軍は、ドルガンド帝国の進行を食い止める為、今も北の大地で戦っている。その為、会談には代わりに腕の立つものを連れて行く事になった。その他の一般兵や身の回りの事をするメイド達も合わせれば、総勢2000人程で向かう事になる。


 場所は、クラインベルト王国の国境付近の城。イザーク城。そこで会談は無事行われ、クラインベルト王国とヴァレスティナ公国は同盟を結ぶことになった。


 セシル王はエゾンド公爵と無事同盟を結び事が成ると、その胸を撫で下ろした。そして再び王都へ戻る為に、国境付近の城、イザーク城から進発した。


 途中、山間の道を通過しようとした時に、賊に襲撃された。賊はかなりの数で、500人はいた。襲撃された場所はクラインベルト王国国内であり、この兵の数――――王国軍は完全に油断しきっていた。2000人の大行列は大混乱に陥った。


 セシル王は、賊の狙いはヴァレスティナ公国との会談の際に、公国から頂いた宝物の数々だと思った。だから、宝の方へ重点的に守りの兵を送った。


 しかし暫くして、ひどく取り乱した騎士団長がセシル王の前に現れ凶報を告げた。


 ティアナとアテナが乗る馬車が賊に襲われ、二人が連れ去られたという。セシル王は取り乱した。すぐに、そのあとを追った王国軍だったが、待ち伏せしていた賊に襲われ皆殺しにされた。しかも、奇妙な事に、待ち伏せしていた賊は、賊というより十分に訓練された兵士のようだった。


 セシル王は、その知らせに顔面蒼白となり、臣下が止めるのも聞かず陣頭指揮を執って妻と娘の捜索に駆り出した。




 ――――それで、ティアナとその娘、アテナはどうなったのか。






「大人しくついてこい!! 抵抗するんじゃねーぞ!! 抵抗したら、腕を斬り落とすからな!!」


「待ってください! ちょっと待ってください! 娘はまだ4歳なんですよ! もう少しペースをおとしてもらわないと、とてもじゃないけどついて行けません!」


「やかましい!! ほら、歩け!!」


「きゃっ!!」


「お母様!!」



 私と娘のアテナは、乗っていた馬車が、賊の集団によって襲撃された。そのあと10人程の賊に囲まれ、拘束されて何処かへ連れ去られていた。手に縄をかけられて引っ張られる。所々で強く縄を引っ張られ、その勢いで地面に倒れては膝や肘などを擦り剥いた。



「早くしろって!! のろのろしてんじゃねーぞ!! 追手がくるだろーがよ!!」


「きゃあっ!!」



 男達に蹴られる。アテナも蹴り飛ばされた。その綺麗な青い髪と顔が汚れる。その度に私は、アテナの上に覆いかぶさって男達に蹴り飛ばされた。


 数時間、山の中を歩かされた。ここは、もうクラインベルト王国ではない。国境を越えている。場所にしてメルクト共和国だろうか。辺りに暗闇が広がり始めると、男達は周囲をきょろきょろと見渡しはじめた。



「あそこだ!! おい! あそこに移動するぞ!」



 山小屋だった。その周囲にテント。人も見える。そこまで歩いて行くと、山小屋にいる者達が、軍人だという事が解った。ドルガンド帝国の軍人。賊は、帝国の手の者だった。アテナは怯えた顔をした。私は、娘の手を強く握って微笑みかけた。



「大丈夫だから。すぐに、セシルが助けにくるわ」



 アテナは、青い瞳の中に涙をため込んでいたが、泣き出しはしなかった。モニカもそうだけど、本当にこの子達は強い。


 小屋の前には、マントを羽織った如何にも将軍というような男が立っていた。その男は、微笑を浮かべ近づいてきた。



「ごくろうだったな。流石は、ヨルメニア大陸最大の犯罪組織『闇夜の群狼』だ。この短期間で、これだけの人員と準備を整え、計画を遂行できるのだからな」


「ありがとうござます! 閣下! 多少の犠牲は払いましたが、そう言って頂けると、その者たちも報われます」


「それにしても、このご婦人がクラインベルト王国の王妃、ティアナか。美しい。とても美しい。そして、この娘が第二王女のアテナか。素晴らしいぞ! 本当に、貴様ら最高の仕事をしてくれたな。これからも、我がドルガンド帝国軍は、貴様ら『闇夜の群狼』との良好な関係を望むぞ。フハハハハ」


「ありがとうございます!! 閣下!! それで、このあとはどうしましょうか?」


「ティアナ王妃の美しさは、私の想像を遥かに上回っていた。帝都に届ける前に、このヴァルター・ケッペリンが少しその美貌を味わってみたい」



 男は、そう言うと私の顎を掴んで顔を近づけて来た。



「私はどうなってもいい。娘は……娘は、逃がしてもらえませんか!」



 目を真っ直ぐに見つめて懇願したが、ヴァルター・ケッペリンという男はすぐに目を背けて言った。



「小屋の中……ティアナ王妃を私の部屋へ連れて行け」


「ガキはどうしますか?」


「そんなもの、縄で縛って、何処かのテントへ放り込んでおけ!!」


「お母様!! お母様!!」



 必死になって私を呼ぶアテナの声! 私は、娘の方を振り向いて言った。



「私は大丈夫だから。絶対に助かるから、絶対に諦めないで!」



 そう言った所で、私は強引に小屋の中へ連れて行かれた。奥の部屋まで通されると、二人の男が立っていた。大柄のいかにも軍人といった男と、眼鏡の華奢な体格の男。眼鏡の男が口を開いた。



「閣下。また、女ですか? しかも、こちらはティアナ王妃ですよ。こういう悪ふざけは感心できませんな」



 そう言われると、私を連れ込んだ男は、あからさまに不機嫌な顔をして眼鏡の男を追い払うようなしぐさをした。



「ニーベル・ドットとラグ・ラングか。お前達は後方にやったはずだが……まったく勝手にここへついてきおって……」


「少し気になる事がございまして、ラグ・ラングと共に、駆けつけました」


「うるさい眼鏡め!! そんな事はお前たちで処理しろ! 私は忙しいのだ!」


「ですが別に配置していた伏兵と連絡がつかず、何か起きたのか、別部隊に見に行かせましたら4部隊とも全滅し……」


「うるさい! 出ていけ!! それは、お前たちの責任だろ! ニーベル! それはお前が解決しろ! そしてお前らはもう出ていけ!! 邪魔だ!! 私は忙しいのだ!」



 怒鳴られた二人は部屋を出ていく。他の部隊が全滅? もしかして、セシルが私達を助け出す為に追ってきているのかもしれない……



「邪魔者はいなくなった。それでは、これから夢のひと時を楽しもうじゃないか。ティアナ王妃。フハハハハハ」



 私は、ヴァルター・ケッペリンという男と、この部屋で二人だけになった。しかし、自分に対する不安よりも、今引き離されて連れて行かれたアテナが無事かどうかという事の方が遥かに気が気じゃなかった。








――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄


〇ティアナ 種別:ヒューム

クラインベルト王国、前王妃。アテナとモニカの母。


〇セシル・クラインベルト 種別:ヒューム

クラインベルト王国、国王。ティアナの夫であり、アテナとモニカの父


〇アテナ 種別:ヒューム

セシルとティアナの娘。この物語の主人公。本編から約12年前、彼女はまだ幼気な少女だった。しかし、誰よりも溢れる好奇心は、誰にも抑えられない。


〇モニカ 種別:ヒューム

セシルとティアナの娘で、アテナの姉。アテナよりもしっかりしているが、子供の頃から何処か大人びている。


〇ゲラルド;イーニッヒ 種別:ヒューム

クラインベルト王国の将軍。一騎当千として恐れられ、王国最強の男として知られている。王家に対する忠誠心は凄まじいが、その気性も激しい。


〇エゾンド・ヴァレスティナ 種別:ヒューム

ヴァレスティナ公国の公爵であり、国主。公国内の力を持った貴族たちをまとめ上げる程の器。エスメラルダは、彼の実の娘である。


〇ヴァルター・ケッペリン 種別:ヒューム

ドルガンドの帝国軍人。将軍。ティアナの美しさに魅了され、彼女を手中に収めようとする。冷酷残忍な性格。


〇ニーベル・ドット 種別:ヒューム

ドルガンドの帝国軍人。ヴァルターの補佐。眼鏡をかけているのでヴァルターに、眼鏡と言われた。


〇ラグ・ラング 種別:ヒューム

ドルガンドの帝国軍人。ヴァルターの護衛。明らかに強そうな筋肉男。


〇ドルガンド帝国 種別:ロケーション

クラインベルトよりも北西に位置する軍事国家。軍事力による世界征服を企む。歪んだナショナリズムに支配された国で、自国以外の民を下に見る傾向がある。


〇ヴァレスティナ公国 種別:ロケ―ション

クラインベルト王国の東方に位置する、貴族が支配する国。力を持った貴族が多く、大きな国。


〇イザーク城 種別:ロケーション

クラインベルトの東の国境にある城。現在は不在だが、かつてこの城には辺境伯がいた。

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