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第1209話 『さて、これからどうするか? その2』



 いくつかの大きな岩に囲まれた場所。そこがモラッタさん達のキャンプ地となっていて、その中央には勝負の行方を決める旗が突き刺さっていた。


 なんとなくだけど、私達のキャンプしている場所に似ている。それもそのはず。旗を配置したのは、トリスタン・ストラムだった。彼ならパスキアだとか、クラインベルトとか関係なく、できる限り公平に対決が行われるようにするだろう。旗のある場所は、互いのベースとなる。だからできるだけ、同じような場所を選んだのだ。


 フィリップ王の楽しめればいいって考え方や、ガスプーチンのルールを無視した行動などは、トリスタンにとってかなり不本意な結果になってしまっているに違いない。


 でも、まあこのモラッタさん達との勝負。気持ち的には複雑な部分も多かったけれど、なんだかガスプーチンの参戦を確認してから、私自身不思議な事に熱くなってきちゃっているし……正直、心の何処かでこの勝負が白熱してきて、とても面白くなってきたと感じているのかもしれない。


 岩陰からルシエルと2人で、敵陣地を覗き込んでいると知っている顔を見つける。



「おい、アテナ。ようようよう!」


「ちょ、とょっと痛い! そんな強く叩かないで!」


「あっ、わりい。それよりあれ、デリザじゃねーか」



 デリザ・ベール。パスキア王国教育大臣の娘で、さっき私達のキャンプを攻めてきたモラッタさんや、デカテリーナさんと並んで、カミュウとの縁談を進めたいと望んでいる人。


 モラッタさんもそうだけど、どう見てもデリザさんは、私やルシエル、デカテリーナさんのように戦いが得意なタイプには見えない。お姫様って言葉がとてもよく似合うような女の子。そして更に言うと、モラッタさんに比べて、その様子はとても気が小さいようにも見える。もしかしたら、こういう対決なんかは、あまり望んでいないのかもしれない。



「おいおい、なんだあの服は? モラッタだって、キャンプとかするアウトドアする格好をしてやがったのに、デリザってのは、なーんも解っちゃいないな。ドレスみてーなん、着てもーてんじゃん」


「それでも王宮で会った時みたいに、如何にもドレスを着てる訳じゃないでしょ。きっとデリザさんは、アウトドアの経験がないんじゃないかな」


「見るからにお姫様だもんなー。その点、オレなんてお姫様でありながら、アウトドアもキャンプ設営から狩りに至るまでなんでもこなせるスーパープリンセスだもんなー」


「え? もしかして、ルシエルってエルフの里でお姫様だったの?」


「え? 違いますけど……」


「でも今、お姫様とかスーパープリンセスって言ったよね」


「それは、エルフの里にいた頃に、皆がそういう目で、オレの事を見てそうって勝手に想像して思っただけだよーん。オレは、単なるハイエルフです。里に住んでいた、なんて事のない平民じゃよ」


「なんだ、紛らわしい。本当かなって思っちゃった」


「紛らわしいとはなんだ、紛らわしいとは!! 逆にこんなプリチーなルシエルちゃんが、プリンセスでない事の方がアンビリーバボーだろーがよ!」


「はいはい、そうですね」



 流石にあしらわれたのが解ったのか、ルシエルは怒りながらも、自分の頭の上で腕をブンブンと振り回す。そんな彼女を見て思う。


 ルシエルとの初めての出会いは、クラインベルト王国のギゼーフォの森でだった。それが、この先ずっと旅する仲間となる運命的な出会いとなったんだけど、その前の彼女の事を私は未だによく知らない。


 彼女がいうエルフの里っていうのは、このヨルメニア大陸にある、エルフの国にある里の事で、間違いないとは思っている。ドワーフにだってドワーフの国があるように、この大陸にはエルフの治めるエルフの国があるのだ。行った事は一度としてないけれど……


 エルフは、森の知恵者とか守護者と呼ばれ、普段は森で暮らしている。だからエルフの国には、大森林が広がっていて、あちらこちらに里が点在しているのだ。その里のひとつがルシエルの故郷なのだろう。


 しっかりと聞いた事がないから、はっきりとした場所は解らないけれど、その点在する里の1つがルシエルの生まれ育った地で、彼女は何かあってか、それともなんにもなかったのか解らないけれど、そこから旅をしてクラインベルト王国にまでやってきたのだ。


 ルシエル自身から、自分はクラインベルト出身ではない事も聞いているし、間違いはないと思う。そのうち、自分の事を色々と話してくれるといいな。


 モラッタさん達のキャンプ地を更に観察していると、デリザさんのもとに人が集まって来た。その中にはモラッタさんや、デカテリーナさんもいる。



「なんだ、なにやら話をしているな。もしかして、またオレ達のキャンプを攻める作戦を立てているんじゃねーか」


「私もそう思う。このヘーデル荒野で、トリスタンが言った3日目を迎えて、いよいよ旗の奪い合いが始まったしね。それに私達と違ってお姫様達は、きっとキャンプとか野宿とかそういうのに慣れていない人達も多いはずだから、カミュウとの縁談の件ももちろんそうなんだけど、さっさと勝負を決めて王都へ帰りたいはずよ」


「なるほどなー。しかしアレだな。ガスプーコは、まだ戻ってきていないみたいだな」



 ガスプーコ。この対決の参加条件は、女性であること。参加人数は、全員で30人までってルールがあるはずだけど、既に向こうにそのルールは適応されていないみたいだし……ガスプーコは、ガスプーチンがふざけて名乗っているだけだし……


 そもそも女性に見せているって言っても、髪を三つ編みに結っているだけで、髭もそのまま。どんなに無理があっても、この国(ホーム)ではそれがまかり通ると解っているから、変装ですらあんなにも雑なのよね。



「それで、アテナ。これからどうする? このままあの旗まで突撃してもオレはいいと思うけど、トラップが気になってんだよな。それじゃ、まあ敵の本拠地は判明した事だし、一旦オレ達のキャンプへ戻って作戦を練るか?」


「そうね。ノエル達も心配しているだろうし、一旦出直しましょう。それで計画を練って、ここへまた旗を取りにくる。次にここへ来る時は、その一度で決めちゃいたいしね」


「うむ。オレ達にはそれができる力があるしなー、ムフフフ」


「うん。それじゃ、戻ろう」



 モラッタさんの仲間から奪った馬。あれがあるから、ノエル達が待つキャンプまで戻るのはぜんぜん楽だと思った。


 私達は岩陰から後退して、近くの馬を繋いだ場所までコソコソと駆ける。そして馬に騎乗して、自分のキャンプへ帰ろうとしたその時。


 あれ?


 この辺りにあった大きな枯れた木。それは変わらずあるのに、そこに繋いでいた2頭の馬が忽然といなくなっていた。

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