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第1207話 『相手キャンプ地』(▼アテナpart)



 思った通り、モラッタさんは撤退すると見せかけて仲間を残していた。


 ひょっとすれば、彼女ならそういう行動にでるかもしれないと思った私は、ルシエルと共に彼女達を追わず、私達のキャンプを見張っていたモラッタさんの仲間を襲って、彼女達が所有していた馬を奪った。見張りの彼女達が慌てて戻るとしても、馬無しではどうにもだし、彼女達だって戻れば私達をキャンプへ連れて行くと解るはず。身動き出来ない状態。


 そんな訳で今私達は、その奪った馬に騎乗してモラッタさん達を追いかけていた。私達のキャンプの事は、ノエル達に任せて私とルシエルの2人だけで追いかける。



「おい、アテナ! このままじゃ見失っちまうぞ!! もう少し距離を縮めた方がいいんじゃないか?」


「ううん、これ位でいいの」


「ええ? 見失ったらどうするよ?」


「その時は、その時よ」


「えーーー、アテナって、そんなに楽観主義だっけ?」


「楽観主義も何も、モラッタさん達に私達が後をつけている事が気づかれたら、きっと彼女達のキャンプと別の方向へ私達を誘導するわよ」


「そこまでするかなー」


「デカテリーナさんは、将軍の娘って言っていたけど、モラッタさんとデリザさんは最初に会った時には綺麗なドレスを着こなしていて、普通のお姫様に見えた。だけどさっき私達のキャンプを強襲してきた時に思ったんだけど、旗の奪い合いが始まるやいなや迷わずに先手を打ってくる所や、撤退するにしても見張りをきちんと残していく所なんかは、とても用兵術に長けている風にも見えるわ」


「だったら、それを踏まえて警戒した方がいいって事か」


「そうね。私達の今の目的は、モラッタさん達のキャンプの場所を特定することだから。きっとそこに旗があるのは、間違えないし。相手の本拠地が何処にあるのか見つける事ができれば、こっちからも攻め込む事ができるし」


「そうだなー、そう言われるとそうだなー。しかしでもアレだな」


「なーに?」


「今更なんだけどさ、カミュウとの縁談をあれほど嫌がっていたのに、その縁談をする権利を賭けて、本気で勝ちにいくなんてなんだか矛盾しているよなー」


「確かに矛盾はしているかも。でも小馬鹿にされたまま笑って引き下がる程、私もエスメラルダ王妃も人間ができている訳じゃないからね」


「売られた喧嘩は買いますぞってか。なはは、なんかそれノエルみてーだな」



 ルシエルはそう言って、白い歯を見せて嬉しそうに笑った。


 ノエルみたいか……フフフ、ノエルと同じだったらいいかも。だってノエルの事は大好きだし、私達の大切な仲間だから。可愛いしね。


 馬に乗って、ひたすら走る。モラッタさん達を追跡しながらも、ルシエルとこんな会話を続けていたら、案の定いつの間にか彼女達を見失ってしまった。馬の速度を落とし、その場で止まった。



「あれ、あいつら何処に行っちまったんだ? おいおい、まさか本当に見失ったか」


「ううん、一定の距離を保ってはいたけれど、ちゃんと引き離されないように追っていたつもりだし……何より20頭位いる馬を、一瞬で見失うっていうのもおかしいでしょ。森とかなら解るけど、ここは見渡しのいい荒野なんだし」


「ふむ、確かに。じゃああの辺なんて、めっちゃ怪しいんじゃねーのか?」



 ルシエルは、キシシと笑い向こうを指さした。大きな岩山がいくつか見える。この辺りで20人以上の人間と馬が身を隠せる場所があるとすれば、確かにそこしかない。もしくは、地下に入れる場所があって……とかは想像できるけれど、やっぱりルシエルが指した場所が一番考えられるかな。



「それじゃ、ここで馬を降りて調べてみようか」


「このまま乗って行ったら、確実に見つかっちまうしな。折角ここまで追ってきたんだがら、こっちだって偵察させてもらわねーと、ちょっとフェアじゃねーよな」


「フフフ、もうガスプーチンが参加している時点で、フェアでもなんでもないけどね」


「あいつは、ズルっこい奴だよ、まったく。悪もんだ、悪もん! まあ、正直面白かったからオレはいいけどな」


「フフフ」


「あーー、なんで笑ったー?」


「ううん、ルシエルらしいなーって思って」


「あっ、そう? 兎に角あいつは、そのうちお灸をすえてやらなくちゃだけどな」



 近くの枯木に、私とルシエルが乗っていた馬2頭を繋いだ。そして岩山の方へと向かう。



「おい、アテナ」


「うん、当たりだったみたいね」



 ガヤガヤという世話しない人の声。岩山まで行くと、その陰に隠れて向こう側を覗き見た。するとそこには、キャンプ地があった。モラッタさんやデカテリーナさんもいるから、間違いない。それにキャンプ地中央の地面には、深々と相手側の旗が突き刺さっている。あの旗を奪えば、私達の勝ち。



「すげーなー。ルールじゃ、参加できる人数は30人までって言っていたけど、それより多くいるんじゃないか」



 ルシエルが驚いた顔で言った。確かに多く感じる。


 空を見上げて見ると、私達のキャンプ地の映像を、王宮に中継していたテントウムシがいない。まさか私達の方だけを映して、この対決を観戦している者達に見せていたのかと考えてしまう。もしそうだとすれば、モラッタさん達は、ルールを無視してやりたい放題できる。現にガスプーチンは、そうしてきた。


 ルシエルは、また驚きの声をあげる。



「あれ見ろよ、あれ!! 信じらんねー! オレ達よりも、めちゃくちゃリッチなキャンプじゃねーかよ。皆笑って食事したり、なんか優雅にお喋りしたりなんかしてやがるけど、テーブルに椅子まであるし……なんと、ご馳走と酒まであるんじゃねーか。対決しているっちゅーか、まるでキャンプ気分というかパーティー気分というか……」



 これもまた意外だった。


 参加人数は30人まで。そのルールを守るつもりがあるのかないのか、本当の所は解らない。今、キャンプにいる人数を数えていけば解るかもだけど、そういう気分にもなれなかった。


 私はそんな事よりも、彼女達のキャンプを目にして凄く気になった事があった。モラッタさん達は、このキャンプや戦いにおいて、当然プロを沢山雇うなりなんなりして連れてくると思っていたから。


 でもどうやら違うみたい。


 このキャンプ地にいる女の子達は、どの子も上品に笑うし……身なりこそ、戦士のような恰好をしているけれど、育ちの良さみたいなのを隠せないでいる。


 彼女達は、王宮で食べるような高級料理を楽しみつつ、ルシエルが言ったように優雅にお喋りを楽しんでいた。

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