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第1206話 『さて、これからどうするか その1』(▼ルシエルpart)



 すんげーー、盛り上がっていた。


 ルールは無視。ガスプーチンは、男なのに女だって言い張って、この対決に参加しよるし、アテナを目の敵にしてなーにか悪い事を考えていそうだし、悪人面は今更言うまでもない事だが……


 そんな仕方のないガスプーチンと、ド派手に攻撃魔法を打ち合っていた。だがこんな派手なバトルをやりあっているというのに、誰一人としてこちらを注目している奴らはいなかった。なぜだ? なぜ誰もルシエルちゃんの活躍に興奮したり、応援の声が聞こえてこない!!


 そう、そうなんだ。実はオレは、その答えを既に知っていた。言葉にすると、悲しーくなるから目を背けてきたけどもう限界だ。


 みーーんな、ここにいる全員がノエルとあのデカテリーナとかいう、筋肉ムキムキのオーガみたいなお姫さんとの勝負に白熱してしまっている。


 くっそーー、どう考えてもオレの方がおおものを相手しているし、魔法対決の方がド派手で目を奪われるに違いないと思っていたのにな……注目が集まれば、オレはパスキア一の悪の宮廷魔導士を倒した英雄ルシエルちゃんとして、超有名になるかもしれないと思ったのに。ちくしょーう!


 火球を放ったり、火炎魔法を使用したり、火属性魔法中心で攻撃を仕掛けてきていたガスプーチンの手が急に止まった。偉そうにペガサスに跨って、空からオレを見下ろしてやがる。あいつ、何様だ! おりてこーい!



「考えてみれば、エルフ……いや、ハイエルフであったわ。矢を放つしか能がないと思い込み、それのみ警戒していたが、精霊魔法をここまで巧みに使用してくるとはな」


「はあ? 何言ってんだおっさん! ハイエルフっていうのはな、基本的に魔力のある種族として有名なエルフの中でも、更にある奴だって言われているんだぞ。おっさん、いくら宮廷魔導士かなんか知らんけど、種族はヒュームだろ? なら、オレのが魔力に関しちゃ才能があるのは当たり前だろーが」


「おっさんでは、ない!!」


「アヒャヒャ、おっさんじゃん!!」


「拙僧は、いたいけな娘である!! その名は、ガスプーコ!!」


「もういいって、その設定!! 髪を三つ編みにしても、別に女装してきている訳でもねーし、何より髭生えてんじゃん!!」


(よこしま)な心を持つ者には、この髭が見えるのだ。よって、お前は悪しき存在なのだ」


「はい、ブーメラン!! 悪しき存在は、おめーだろーが!! ほら、かかってこいよ。こっち降りてこい!! このキュートなキュートなハイエルフのルシエルちゃんが、足腰立たんくらいにコテンパンにしてやっからよー! 悪いことばかりして、反省させてやる!」


「ふぬーー、なんとも憎たらしいハイエルフよ。だがしかし、そのような邪悪な者の策略に乗る拙僧ではないぞ!」



 ガスプーチンは、両手にそれぞれ魔法で火球を作ると、それを更に空高くに打ち上げた。大きく爆発する火球。オレ達のキャンプに攻め込んできたモラッタや、その子分。更にノエルと戦っているデカテリーナもそれを見上げた。



「皆の者、拙僧に耳を傾けよ!! アテナは、既に旗の辺りで守りを固めてしまった。ロゴー・ハーオンをあれだけ簡単に倒すほどの腕前から予想するに、これ以上力ずくで攻め立てたとて、まことに残念ではあるがとても旗に手は届かぬだろう。しからば、ここは一旦退くのだ。引いて、次の作戦に全てを賭けるのだ。さすれば拙僧が、必ず勝利へと導いてしんぜよう!!」



 ガスプーチンの言葉で、モラッタもデカテリーナも、他の奴らも頷いて引き始めた。ノエルはデカテリーナとこの場で決着をつけたかったのか、呼び止めたようだったが……デカテリーナは一瞬足を止めるも、他の仲間と共に馬に騎乗して去っていった。


 ガスプーチンも逃げる。ペガサスに乗って、飛行して――


 こうしてオレ達のキャンプから、奴らが去っていなくなってしまった。さて、これからどうすっかな。


 アテナがオレの方へ、慌てて駆けてきた。



「ルシエル、それじゃ急ぐわよ!! すぐに出発するから!!」


「ほえ? 出発? 出発って何処へ行くんだよ」



 アテナは、ニヤリと不敵に笑う。まさか……



「もしかして、奴らの後を追いかけるのか?」


「もっちろーん、追跡するわよ。ちょっと卑怯かもしれないけれど、このまま後をつけていけば、見失いさえしなければ確実にモラッタさん達のキャンプ場所が何処にあるのか、案内してもらえるもんね」


「おおーー、考えたな。それなら、このヘーデル荒野をあちこち駆けずり回って、奴らのキャンプを探し出さなくて済むって訳かー。確かにこの方が楽ちんだわ。でも奴らは、ここへ馬で襲撃してきたろ? 足の無いオレ達が果たして追いつくか?」


「いくら私とルシエルが自分の脚力に自信があっても、とても馬には追い付けない。だから急がないとね!! さあ、ついてきて」


「なんだかよく解んねーけど、解った!」



 アテナについて行く。するとアテナは、一度振り返ってノエルやルキア、ゾーイにこのキャンプの守りを頼んで、軽やかに出て行った。オレも後をついて行く。


 確かに身軽さや瞬発力はルキアもなかなかのもんだけど、走る持久力もっていうのなら、オレとアテナが適任かもしれない。


 荒野に出ると、遥か向こうに駆けていく馬の一群が見えた。きっとあれは、モラッタやデカテリーナだ。



「ルシエル、こっちに来て!!」



 アテナは、モラッタ達の一軍を追う訳でもなく、別の大きな岩がいくつかある場所へと近づいていく。慌てて後ろにつく。



「お、おい、アテナ!! 何処に行くんだよ、あっちだよあっち!! あっちに逃げて行ったんだぞ! 見えてたろ?」


「しっ! こら、大きな声を出さない! もう少し静かにしてくれる?」


「えーー、なんでだよー」



 アテナが近づいた大きな岩の陰から、怪しげな何者かが顔を出した。アテナは直ぐにそれを察知するとそっちへ駆けて行って、そこにいた女2人を素早く得意の投げ技で倒した。



「え? アテナ!! まさか、なぜこんな場所に!! ぎゃっ!!」


「ひ、ひいいい!! まいった!!」



 アテナが投げ飛ばした2人は、モラッタ達が連れてきた女戦士達だった。近くには、二頭の馬。それを見て、はっと気づくももうその一頭に跨っているアテナ。



「よく、ここに2人残っているって解ったな。いったいどうやって?」


「ああ、それね。さっきモラッタさん達が退却していく時に彼女が何か指示を出していて、それに従って別の方に駆ける馬がいたから。きっと何人か、ここへ残して見張りを続けると思ったの」


「そ、そんな所まで見てたんか! す、すげえな。なんというか、めざとい……」


「フフ、単なるお嬢様だと思っていたんだけど、モラッタさんって結構こういう戦術的な事にも、精通しているのかもしれないわ。だとしたら、油断しないようにしないとね」



 いや、そうじゃなくて、そんな所まで注意深く観察しているアテナが凄い……って言おうとしたけど、もういいやって思ってやめた。


 今は、そんな事よりもモラッタ達の後を追わないとだしな。


 そもそもアテナが凄いのは、みーーんな既に知ってることだしな。驚く程の事でもないかもしれん。

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