第1201話 『対決相手のキャンプは何処に?』
――――色々あって、いよいよ3日目の朝になってしまっていた。
これからこの対決の本番が始まる。皆でキャンプの中心に集まると、まずノエルが気づいた事があると言ったので全員で注目した。
「なあ、ちょっと思ったんだけどな。今日から、いよいよ本格的なモラッタ達との対決が始るんだよな」
ルシエルが腕をまくり上げて、高らかに吠える。
「ったぼーーよう!! 奴らきっと、今日でも攻め込んでくるぜ。30人マックスで参加しているだろーし、そん中には戦闘に特化した者も多く含んでいるだろうからな。それにあいつ、なんて言ったっけか? そうだ、ガスプーコ!! プシ、プシシシシ、ギャハハハ、あれガスプーチンの妹なんだろ? 妹で、なんであんなそっくりな上に、髭が生えているんだよなー。同一人物なんバレバレだっつーの!! それに最高のネーミングセンスだぜー。まったく、あいつ悪者だけどおもしれー奴だよなー。まあ攻め込んでくるなら、蹴散らしてやって、こっちもドシドシ攻め込んやるんだけどな」
ルシエルの興奮して跳び跳ねると、ノエルが含みを入れて聞く。
「ほう。お前、攻め込むのか?」
「ったぼーよう!! 斬り込み隊長は、オレとオマエでいくぜ!! なあ、いいよなアテナ!!」
「それは、いいけど……」
ここでようやく私も、ノエルが思っている事に気づく。うっかりしていたけれど、これは大問題だと思った。
「なんだ? まーだ、何か気になっている事があんのか? ノエル君、言ってみ?」
「ああ、思ったんだけどな。敵は、あたしらのいるこの場所を知っているだろ。ガスプーチンの野郎が、昨日ペガサスでやってきたって事はそういう事だよな。でもあたし達は、奴らのキャンプのある位置を知らない。これって、どうやってあたしらは敵の旗を奪いに行けるんだ? 何処に攻め込めばいい?」
「ど、何処ってそりゃおま……はっ!! おいおいおい、そう言えば敵の旗を奪いに行くっていっても、何処に行けばいいのか解んないよーー!! どうしよーー!! なあ、どうする? どうにかしないと、ノエルちゅわん!!」
「耳元でうるせー!! それに、いちいち引っ付くな!!」
ルシエルも、真っ青になる。横で聞いていたルキアも同じく、その事がぜんぜん頭になかったみたいで愕然としている。
ゾーイだけがまるで他人事のように静観しているけれど……彼女は、この事実を既に気づいていたのかどうか。表情からは、ちょっと読み取れない。
ルシエルが慌て戸惑った声で、ノエルと私の顔を忙しく交互に見る。端から見たら、はしゃいでるようにも見えていそう。
「おいおいおい!! じゃ、じゃあ、どうすんだよ? 敵の本拠地がわかんねーなら、この勝負、一方的にやられっぱなしになんじゃねーかよ!! いくらこっちは戦闘に自信があるって言っても、勝敗を決めるのは旗の奪いなんだからよ! これはまさにジリ貧って奴じゃねーのか⁉」
「今からこのヘーデル荒野を隅々まで歩き回って、敵のキャンプを探し出すなんてとてもやってられねえしな。方法として思いつくのは、ひとつしかないとあたしは思っている。アテナもそうじゃないのか?」
ノエルに聞かれて、唸り声をあげる私。うーーん、確かにこれしかない。っというか、この方法が真っ先に思いついたし、確実と言えば確実。ルシエルが物凄く顔を近づけてきたので、押し返す。もう、やめてよ。
「なんだよ、なんだよ! 唸ってないで、オレにも教えておくれよーーう」
「ちょっと、顔を近づけすぎ! 息がかかってるんだから、もう! もう少し離れて!」
「いいじゃねーかよー。女の子同士、もっとスキンシップしよーぜ、なあ。ムチュチュチューー」
「嫌! っもう、あっち行って!」
口を尖らせて迫ってくるルシエルを全力で押し返す。まったく、なんなのこの子は!!
「一番確実なのは、とりあえず待つことかな」
『待つ?』
ルシエルとルキアが、揃って首を傾げる。フフ、可愛い。そして、ノエルは私と同じ考え。
「うん、待つというか、待ち構えるって言った方が適切かな。とりあえず私達は、モラッタさん達がここへ攻めてくるまでひたすら待つの」
ルキアが言った。
「それで攻めてきたら、どうするんですか? 普通に旗を守って戦うんですか?」
「そうね、旗を守るには、攻めて来た相手を迎撃するしかない。だから戦う事になる。だけどこれは、別に殺し合いじゃない。言わば、カミュウ王子との、縁談を進められる権利を賭けた勝負。フィリップ王もそうだけど、王宮で今お酒を飲んだりご馳走を食べながら、この対決を観戦している人達からすれば、単なる余興に過ぎない。だから戦いになっても、命の奪い合いにはとうぜんならないし、向こうも私達にかなわないとなれば、無理せず逃げ帰るはず」
「あっ、なるほど! 私達はここで敵が来るのを待って、やってきたらやっつけるんですね。それで相手が逃げたら、こっそりと後を追って行って、敵のキャンプを見つける。こういう事ですね」
「さっすが、ルキア。そういうこと! だから……うん、もうすぐ旗の奪い合いが開始される朝10時になる訳だけど、私達はここでひたすらモラッタさん達が攻めてくるのを待つ。作戦として、これでいいと思うわ」
「はい、私もそれがいいと思います。じゃあ、その作戦でいくと、王妃様やクロエにも知らせてきますね」
「うん、お願い」
この場にいない、エスメラルダ王妃とクロエ。彼女達がいるテントへルキアがてててと小走りで駆けて行くと、ルシエルが遠くの方を見た。
「おい、アテナ。どうやら、敵が攻めてくるまで待つ必要はないみたいだぞ」
「え? どういう事?」
ルシエルが指す先、荒野の向こうから土煙をあげて何かが迫ってくる。そして上空からも、火の弾が私達目がけて落ちて来た。
「皆、気をつけて!! 『火球魔法』よ!!」
ドガーーーーーンッ!!
爆炎!! 狙いは旗ではなく、私達。でも私は防御魔法『全方位型魔法防壁』を瞬時に発動させて、敵が放ったであろう『火球魔法』を防いだ。
「ま、まさかもうここへ攻撃をしかけてくるなんて……」
攻撃されているのに、ルシエルはニヤリと不適に笑う。
「アテナは、殺し合いじゃないみたいな事を言ったが、どうやら向こうさんは違うみたいだぜ」
「うん、予想が外れちゃったみたい」
『火球魔法』をいきなり、私達のいるキャンプのど真ん中に放つなんて……私は咄嗟に防いだりできるけれど、もしこんなのをエスメラルダ王妃やクロエが直撃したら本当にただ事では済まない。
火の弾が飛んできた方へ見上げてみると、上空にはペガサスに騎乗するガスプーチンの姿があった。




