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第12話 『狩り友』 (▼ルシエルpart) 






 大物だ! 通常のグレイトディアーよりも一回り大きい。遠目に見ても、それがわかるサイズ。



「これは、いいものだ。――――こんな大物……きっと、アテナとローザも飛び跳ねて喜ぶぞ。くくく。今からもう、その姿が目に浮かぶ」



 身を屈めて岩陰から岩陰へ素早く移動し、グレイトディアーとの距離を詰めていく。気づかれてはいない。


 …………うん。ここから狙えるか…………


 正直、狙えるかどうか微妙な距離――――そのもう一つ先の岩に目をやる。



「確実に狙うなら、もう一つ……あそこまで、近づきたい。そこまでいけば、確実に仕留める自信がある」



 ただ……獲物に、今はまだ気づかれていないが、あそこまで近づくと流石に気づかれる可能性がある。…………いや、でもやつはきっと逃げない。まだあそこの距離じゃ、逃げないだろう。なぜなら、やつはまだその程度の距離では絶対的に逃げ切ってみせるという自信があるからだ。


 狩るものと、狩られるもの。自信と自信。それに駆け引き。それが、狩り。



「フッフッフ……大間違いだ、そう考えているのならば大間違いだ。グレイトディアーよ、オレはそこから矢を当てられるぞ」



 よし! 仕留めてやる。タイミングを見計らう。



「今だっ!!」



 身を乗り出し、その次の岩陰に素早く移動――――刹那、近くの岩陰から何者かが飛び出して来た。



「な……誰だ⁉」



 しかも、その何者かと同じタイミングで同じ岩陰に、入り込んでしまった。弓矢を装備した冒険者風の男――――隣にいるその男と顔を見合わせる。


 ――――ほんとに誰なんだ⁉ 睨みつける。すると、その男は喋りだした。



「オレッチは、アーチャーのヘルツ・グッソー。何処にでもいる冒険者だ。 すんげーべっぴんのねーちゃんだな。なるほど、エルフか。アンタは、なにもんだ?」


「オレ? オレは……いや、オレもアーチャーで冒険者だ。他に仲間がいるが、腹を減らして待っている。だからあのグレイトディアーを狩ろうとしている」



 それを聞いたヘルツは、吹き出しそうになって口を抑える。



「ぶふふふ!!」


「なんだ? なぜ笑う⁉ 獲物に気づかれるだろ」


「いや、失礼。あんたのような、華奢なからだつきの、エルフのおねーちゃんがあんなデカイ獲物を狩るって冗談をいきなり言うもんだからさ。不意を突かれて笑っちまったのさ。悪気はねーのよ。それに、アンタもウケを狙っていったんだろ?」



 ウケ? 冗談? 冗談ではない。この男は何か勘違いをしているのか?



「冗談ではないぞ。あれくらい、狩れるぞ。それにオレは114歳だ、おねーちゃんではないぞ」


「マジかよ、正気か? アンタみたいなおねーちゃんがどうやって、あんな通常よりもデカいグレイトディアーを一人で狩れるんだ? 魔法でも使うのか? エルフの得意技、精霊魔法とかをよ」



 言っても信じない男のようだが、持っていた弓を見せた。



「弓だと? 確かに立派ないい弓だが、これでどうやってあのデカイ獲物を狩るんだよ。アンタのその細っこい腕じゃ、あのデカい獲物を貫くほどに矢を引き絞る事もできねーだろ?」


「いや、できる! って、説明するのもめんどくさい。それに説明をしたとしても、信じないだろ? 証明して見せるからそこで、見ていろ」



 そう言って、弓を構えた。強く引き絞る。



「おいっ! よせって! 生半可なことして、怒らせると反撃されて殺されるぞ。おい! 聞いているのか? よせって!」



 矢じりの先を獲物に合わせると獲物と目が合った。身構える。だが、やつはまだこの距離なら矢が当たる事はないと思っている。



 ――――射るっ!!



 ――――――



 矢は命中。獲物はドサリとその場に倒れた。



「嘘だろ⁉ 夢みてーだ!! すっげーーーー!! 何処に当てりゃ、こんなでけーやつを一発で仕留められるんだ⁉ アンタ、マジ半端ねーな!」



 大型のグレイトディアーを1本の矢で仕留めたその光景に、興奮したヘルツが獲物目がけて飛び出していった。



「マジすげー! ほんとすげーー!! いったい、何処に矢を当てたんだ。……なるほど、前足の脇の辺り……心臓か!! この距離で心臓をピンポイントで射貫いたってーのか! こんなの神業だぞ!!」



 その時、一瞬グレイトディアーの目が動いたのが見えた。



「ヘルツ! 近づくな!! まだ息があるぞ!!」



 叫んだが、ヘルツはグレイトディアーの真横にいた。心臓に矢を受けながらもブルブルと立ち上がるグレイトディアー。やはりデカイだけあって、生命力がとんでもない。


 ヘルツに向かって、角を構えて威圧する。ターゲットを角で突き刺す為に、構えている。まさかの事態に呆然とするヘルツ。



「逃げろー!! 逃げるんだヘルツ!! …………駄目だ! 間に合わない!」



 急いで弓を構える。思いっきり矢を引き絞る。――――狙う。


 グレイトディアーがヘルツ目がけて突進した。まずい、目標は動いている上にこの距離だと狙いが定まらない。ヘルツが変に動いてヘルツに矢が当たる事だってあるかもしれない。しかし、これで矢を当てて倒さないとヘルツは確実に助からない。



「一か八かだ!! 当たれーー!!」



 放った! 放つしかなかった!


 グレイトディアーの眉間を狙った矢は、少しずれて頭部に刺さった。だが突進は止まらない。玉砕覚悟なのか、ものともしない。


 駄目だ!! ヘルツは助からない――――



「ちくしょおおおお!!!!」


「ヘルツーーー!!!!」



 ――――刹那、岩陰から人影!!



「あっ! アテナ!!」



 ヘルツの前に飛び出したアテナは、ヘルツ目がけて突進するグレイトディアーの眉間を剣で突き刺した。それでグレイトディアーは、絶命した。



「ふうっ! 間に合った! やーー、ローザと大丈夫だろって話は、してたんだけどね。ちょっと、ルシエル一人に食材確保させるのも悪いなーって思っちゃってね。アハハハ……それで様子を見に来ちゃった」



 アテナ……



「ありがとーー!! 助かったよー!! ねーちゃん達、びっくりするほど強いんだな。とんでもねー、剣さばきだ」


「あれ? こちらは? どちらさまですか?」



 アテナにそう聞かれたヘルツを見てみると、ヘルツは物凄くもじもじしていた。紹介して欲しいのだな。…………ついさっき殺されかけたっていうのに、呆れたもんだ。



「そうだなー。さっき知り合ったばかりなんだが…………友だ! 狩り友ってやつだな」


「へえー、そーなんだ。私は、アテナっていいます。冒険者です。ルシエルと……向こうにもう一人いるけど、一緒にパーティー組んでます。これから私達、この獲物で晩御飯にするんですが、一緒にどうですか?」


「うおおーー! オレッチは、ヘルツ・グッソーっていうケチな冒険者です!! 喜んで参加したいッス!!」

 


 鼻の下を伸ばして、アテナといつまでも握手しているヘルツを、引っ剥がした。それから、肩をポンと叩いて言った。



「このグレイトディアーは、半分はヘルツのものだ。半分は、持って行っていい。だけど、これから一緒に飯食べるだろ? だから、これから一緒に解体を手伝ってくれ。解体し終わったものを、キャンプへ運ぶ」



 それを聞いてヘルツは、喜んで頷いた。


 3人で一斉にグレイトディアーの解体作業に入る。キャンプでローザが首を長くして待っているだろうから、急いで済ませないとな。


 本来なら木に吊るし上げて血抜きをしながら解体作業を行うのだが、このグレイトディアーは兎に角デカい。3人では、引っ張りあげるのは無理だ。なので、そのままの絶命したままの状態で解体作業を行った。


 解体し終わると、頭や内臓、骨などはその場に埋めた。肉はかなりの量。普通には持ち運べないだろう。


 すると、アテナがザックの中から丈夫そうな大きなシートを取り出し広げた。



「さあ、ルシエルとヘルツも手伝って!」



 なるほど。そのシートに肉を乗せて、キャンプまで引きずって行くのか。


 なんとか、その方法でキャンプまで肉を運ぶ事はできたが、結構遅くなってしまったのでローザは、焚火の前で丸くなって寝てしまっていた。ローザの顔を覗き込むと、口元によだれ……。アテナが呼びかけた。



「帰ったよ、ローザ」

 

「待たせた。すまんな、ローザ。でも、ちゃんと肉を取って来たぞ。早速飯にしよう」


「お邪魔します。オレッチは、さっき知り合ったばかりだけど、ルシエルとは狩り友でヘルツ・グッソーといいやす。一緒に、飯を食わせてもらえるって事でお邪魔しました」



 目を擦って口元をぬぐうローザ。起きたようだ。



「パパ?」



 え?



 ローザのそのセリフに暫く静寂。


 ヘルツが、目をパチパチさせる。



「オレッチ、パパ?」



 次の瞬間、ローザの顔はみるみる真っ赤になる。爆発しそうな位に。両手で顔を覆って叫ぶローザを皆で笑った。




「パパーーーーん!! パパーーーーんだって!! ぷーーーークスクスクスクス」



 そう言ってふざけて走り回るアテナを、追いかけて捕まえようとしているローザ。それを見て腹を抱えるヘルツ。




 エルフの里にいた頃も、里から旅立ってからも、オレには、仲間と呼べるものがずっといなかった。




 だけど…………今は、ここにいる。










――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇ルシエル・アルディノア 種別:ハイエルフ

Fランクの冒険者なりたてのホヤホヤで、クラスは【アーチャー】。精霊魔法も使える。お肌がプリプリピッチピチの114歳。長い髪の金髪美少女エルフだけど、黙っていればという条件付き。一人称は、「オレ」。野菜より肉が好き。とても立派な弓を所持しており、ナイフ捌きに関してもなかなかの腕を持つ。ギゼーフォの森でアテナと知り合い、それからはエスカルテの街で正式に仲間としてパーティーを組む。冒険者登録の費用は、アテナが登録祝いとして支払った。


〇ヘルツ・グッソー 種別:ヒューム

狩り好きの冒険者。パーティーは組まず一人で活動している。クラスは【アーチャー】でボウガン使い。ルシエルとは、これがきっかけとなって狩り友になる。アテナに救われてなければ、グレイトディアーに殺されていた。


〇アテナ 種別:ヒューム

Dランク冒険者で、物語の主人公。キャンプが趣味で、今は薬草を使用したお茶作りもマイブーム。ギゼーフォの森で知り合ったルシエルと、エスカルテの街で知り合ったローザとパーティーを組む。エスカルテの街で新しいテントを買おうと、ルンルン気分になった。色々あって陽も落ちてきているので一旦街を出てキャンプする事にした。ルシエルが晩飯に肉を食べたいらしく、狩りに出たので楽しみに帰りを待つ。


〇ローザ・ディフェイン 種族:ヒューム

クラインベルト王国、王国騎士団の団長。現在はアテナが自家製の薬茶を売る為に立ち寄ったエスカルテの街の治安維持の任務についているが、アテナと出会った事により任務を副長のドリスコに放り投げてアテナについて行った。外見は赤い髪のショートヘアで凛々しい感じ。法を厳守する性格で、腕にも自信があって逆に太々しく見えたりもする。アテナ同様に、キャンプにて狩りに出たルシエルの帰りを待っていた。でも、待ちすぎて居眠りしてしまっていた。恥ずかしい寝言も皆に聞かれる。


〇一回り大きなグレイトディアー 種別:魔物

鹿の魔物。通常のものよりも大きい個体。グレイトディアーは、大きな角を持っていてそれで突かれると命を落とす者もいるが、大きいグレイトディアーは更に危険。冒険者が身に着けている鉄の鎧も引き裂く力を持っている。一撃を腹に喰らえば、一巻の終わり。しかし味はとても美味しく、大きい個体は大きい分沢山肉もとれる。


〇エルフの里 種別:ロケーション

エルフの里は、いくつもある。エルフやフェアリーが済んでいたりする場所で、ルシエルの言うエルフの里とはかつて自分が住んでいたいた里の事である。ルシエルは、この自分が生まれ育ったエルフの里ではあまりいい思い出が無いようだ。


〇ルシエルの持つ弓

ルシエルが使用している矢はいたって一般的なものだが、弓はとても立派。きっと名のあるものに違いないだろう。だけどなんという弓なのかは、まだ明かされていない。



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― 新着の感想 ―
[良い点] ルシエルには笑い合える友達が必要だったんですね。 アテナがその代わりになってよかったです。 しかしローザさんや・・・・。 パパはないだろう。寝ぼけていたとはいえ・・・。 [一言] でっかい…
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