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第1195話 『誘引 その2』



 ギャオオオオオン!!


 何十匹ものラプトルが、群れとなって一斉に私達のキャンプを襲撃した。彼らの狙いは、ガスプーチンがペガサスでわざわざここまで運搬した、何かの動物の肉塊。


 それを使って、ここまでラプトルの群れを誘導してこれたという事は、正体は不明だけどとてもラプトルにとって美味しいお肉なんだという事は解る。


 ラプトルという魔物は、一言でいうと馬くらいの大きさの恐竜だった。俊敏で獰猛。宙に吊り下げられていた肉塊を追ってここまでやってきた訳だけど、今はその肉塊が落下した場所で皆に襲い掛かろうとしている。


 ルシエルは、弓矢を手にノエルと共にキャンプに侵入してきたラプトルと戦い、ルキアとカルビ、それにゾーイはエスメラルダ王妃とクロエを守っている。



「くっ! 早く、皆の所に戻らないと!!」


「ふーむ、拙僧もアテナ王女の考えに賛成致しますぞ。直ぐにでもキャンプに戻らないと、お仲間の方々があの恐ろしいラプトル共に引き裂かれて、恐ろしい奴らの腹の中に収められてしまいますからなあ。ふぉっふぉっ」



 ガスプーチンは、悲しさと嬉しさを足したような表情でそう言った。



「あなたが私達に手を出した事は、ルール上問題がある事だと思うし、私は仲間を危険にさらされて黙っている程、人間ができてもいない。だから覚えていなさいよ、ガスプーチン!!」


「おおー、怖いですね。ですがここで怒りを露にしているよりも、急がれた方がよろしい

のではありませぬか? こうして拙僧に関わっている間にも、お仲間が無残に散り果てるやもしれませんぞ」


「きゃあああ!!」



 ルキアの悲鳴。見ると、1匹のラプトルがルキアに襲い掛かっていた。でも直ぐにカルビがそのラプトルの足に噛みつき、その隙にルキアは逃げて距離を取っている。


 迷っている暇はない。悔しかろうが、許せなかろうが判断を見誤ってはいけない。


 私はガスプーチンをやっつける事を諦めると、地上に着地するなりキャンプへと全力で走った。遥か上空から、ガスプーチンが私を嘲笑う声が聞こえるけれど、それは今はどうだっていい。


 キャンプに戻ると、早速3匹のラプトルが一度に襲い掛かって来た。



 ギャアオオオオ!!


「尻尾を巻いてさっさとここから去らなと、凄く痛い目に合うわよ!!」



 ツインブレイドを抜く。二刀流。とびかかってくる3匹のラプトルをあっという間に、斬った。


 ギャアウウウ!!


 また向こうから、新たに2匹のラプトルが襲い掛かってくる。鋭い爪。前転して回避すると、起き上がるなりラプトルの尻尾を斬り刎ねる。ラプトルの悲鳴。剣をラプトルの首に深々と突き刺し、もう片方の手に握る剣で、もう1匹のラプトルの首を刎ねた。



「アテナーー!!」


「アテナ!! 大丈夫か?」



 ルシエルと、ノエルだった。2人の周囲には、矢が何本も刺さったラプトルの他、ノエルのバトルアックスで両断されたラプトルが何匹も転がっていた。



「私は大丈夫。それよりもエスメラルダ王妃とクロエを守らないと」


「そんならアテナに任せた。辺りを走り回っている奴らは、オレとノエルで全部仕留めてやっからよ!」


「そういう事だ。迎撃はあたしとルシエルに任せて、アテナはルキア達の応援に行ってやれ」


「うん、解ったわ!」



 エスメラルダ王妃のテントがある方へ駆ける。途中、また別のラプトルに襲われる。傍にあった大きな岩の上から、飛び掛かってきたのだ。私はその攻撃も前転でかわすと、素早く踏み込んで斬り倒した。



「ルキア、カルビ!! 大丈夫!!」


「アテナ!! 来てくれたんですね!」


 ワウーー!!



 エスメラルダ王妃のテント前で、奮闘するルキアとカルビとゾーイ。ルキアは、私の顔を見ると安心したのか笑みを見せた。



「ルキア、カルビ。よく踏ん張ってくれたわね。ありがとう」


「い、いえ。ゾーイさんが一緒にいてくれたので、戦い抜く事ができました」


「そうなんだ。ありがとう、ゾーイ」


「別に私は、アテナに感謝される事はしていない。それに、王妃を守っていたに過ぎない」


「それでも、感謝しているわ」



 エスメラルダ王妃とクロエに目をやると、どうやら2人共無事みたい。いきなり襲ってきたラプトルの群れに怯えてはいるものの、怪我などはしていない。


 エスメラルダ王妃は、クロエの手を握ると自分の方へ引き寄せる。そして私に言った。



「こ、これはどういう事なのですか⁉ いったい、何が起こっているのです。魔物が襲撃してきているみたいですが、今の状況を説明できますか、アテナ」


「ええ。私達の敵が、ラプトルの群れをこのキャンプまで誘導してきたのよ。肉食獣の好物である美味しそうなお肉を使ってね」


「敵? 敵とはさっきのペガサスに騎乗していた者ですか? あのものは、何者なのです?」


「パスキア宮廷魔導士のガスプーチンです」


「ガ、ガスプーチンですって⁉ なぜ、宮廷魔導士のガスプーチンが、このような場所にいるのですか? それもわたくし達のいるこのキャンプに、ラプトルのような恐ろしい獰猛な魔物を誘導するだなんて。いったい何を考えているのですか⁉ 信じられません!!」


「信じられなくても、信じられてもガスプーチンだったわ。彼は、私とカミュウの縁談を快く思っていない側の人。だから彼はきっと、この縁談をどうあっても破綻させるつもり……って思ってはいたんだけど、まさかここまでしてくるなんてね」


「なんてことなの。まさか、このわたくしを亡き者にまでしようと……いえ、そもそもこのキャンプ対決の参加者は、女限定のはず。これは、決して許されないルール破りですよ!!」


 ギャアオオオオ!!



 ラプトルの威嚇する鳴き声。目の前に、私達に喰らいつこうと数匹のラプトルが躍り出てくる。



「とりあえず、その話はあと!! 先に襲撃してきているラプトルを全部、片付けないと!! エスメラルダ王妃とクロエは、自分のテントの中へ入って! ルキアとカルビは、その入口を固める。ゾーイは私と襲ってくるラプトルを片っ端から蹴散らすわよ!」


「解った!」



 こんな時に一瞬、旗の事が気になった。でもこの対決のルールを作ったトリスタン・ストラムは、旗の奪い合いは3日目からだと言っていた。つまり明日からだ。なら今は、旗の心配は無用なのだと思い直した。

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