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第1193話 『肉塊 その2』



 ルキアの身のこなしと動体視力なら、もしかしたら避けられるかもしれないと思った。でもそれは、この事態を事前に察知し、もっと早く気づいて反応できていればの話。とても間に合わない!! だけど私は、諦める訳にはいかないのよ!!



「ルキアーーー!!!!」



 叫んでルキアのもとへ全力で突っ込んだ。すると後方からジャラジャラという鎖の音。


 なんと鎖が飛んできてカルビに巻き付くと、物凄い勢いで引っ張っていった。それと同時に、唐突な突風も吹く。ルキアはそれに吹き飛ばされ、そこに誰もいなくなった所で肉塊が落下。衝撃で飛び散った。



「ルシエル!!」


「はっはっはー。オレ様お得意の、風の精霊魔法よ。突風でルキアを吹き飛ばして救ってやったぜ。本来攻撃魔法なのに、それで仲間を救うなんて、ワイルドだろ?」


「ワ、ワイルドってあんた……」



 ルキアを見ると、向こうに跳んで行って砂の小山に頭から突っ込んしまっている。可愛い尻尾の生えたお尻がこっちを向いていた。パンツも丸見えだけど、うん、気づかないでいよう。



「いやー、本当はさあ。カルビも吹っ飛ばして助けてやろうって思ったんだけどな。オレより僅かに早く、ゾーイが鎖鉄球を飛ばしやがってカルビに巻き付けて、助けよったわ。やっぱ、あいつゾルバなんかより、やりおるわい。わっはっはっ」



 ゾーイの方を見ると、その胸に鎖でグルグルになったカルビを抱いている。カルビが鎖から脱出しようとモゾモゾと動くと、ゾーイはそれをじっと見つめ、助けようとはしない。少し、頬が赤くなっているように見えるけど……もしかして、ゾーイもカルビの事を可愛いと思っているのかもしれない。



「おい、アテナ! ボーーっとしてねーでさ、あれいいのかよ」


「え? なにが?」


「はあ? 何を思ってやったのか、知らねーけどよ。オレ達のキャンプにあんなできい肉塊を落としていった奴をだよ!! ガスプーチンだったよな、あいつ!! このままやるだけやらせて、逃がしていいのか?」


「あっ!! そうだった!!」



 落下させた肉塊が、ルキアとカルビに命中しなかた事に、悔しそうな顔をするガスプーチン。なんて、奴なの。ルキアやカルビみたいな、可愛くていい子にこんな真似をする奴なんて、このまま放ってはおけない。確か彼は、このパスキア王国の宮廷魔導士らししけど、そんなの関係ない。身内に手を出されたんだから、このまま黙ってなんていられない。



「ふぬーう、アテナの戦力を削ぐ事、かなわなかったが致し方あるまい。肉塊落下は、そうなればいいと運に身を委ねたまでのこと、これも成るべくしてなった結果であろうぞ。拙僧の奇策は、これより成るのであるからして」


「ちょーーっと、待ちなさい!! ガスプーチン!! こんな事をしておいて、このまま逃がさないわよ!! ルキアとカルビに、謝りなさい!!」


「謝るう? これは、異な事を。なぜ、拙僧が謝る必要があるのですかな」


「ちょっと何言ってんのよ! こんなもん、人の上に落っことしておいて! 危ないでしょーが!!」



 大空をペガサスに騎乗して飛んでいるガスプーチン。対して私は、地上から遥か上空にいるガスプーチン目がけて、腕をブンブンに振り上げて怒りを露わにし、飛び跳ねていた。



「降りてきなさい、ガスプーチン!! 私はあなたが宮廷魔導士なんだろうが、どうだろうが関係ないからね。降りてこないのなら、攻撃魔法で打ち落としてあげるんだから。炎よ、我が手に集いし、焼き尽くす力となりて――」



 火属性魔法の『火球魔法(ファイアボール)』を発動する為の詠唱を始める。合わせて開いた両手の間に、火球が生まれる。それを目にしたガスプーチンは、慌てて逃げ始めた。ルシエルが指をさす。



「ああ!! あいつ、逃げる気だぞ!! くっそーー、こんな事ならやっぱりノクタームエルドを旅している時に、ファムにちゃんと飛行魔法を教わっておくんだったなー」


「教わってなくったって、空を飛ぶことはできるでしょ」


「え? もしかして、アテナ。お前、『空中浮遊魔法(レビテーション)』が使えるのか?」


「そんな高等魔法を私が使える訳、ないでしょ! でもそれが出来なくたって、空を飛ぶだけだったら、ルシエルはいつもやっているよね」


「おうん? あああ!! そういう事か!!」



 ようやく気付いてくれた。直ぐ後ろに立っているノエルを見ると、彼女もちゃんと理解してくれている。



「ガスプーチン、逃がさないんだから!! ちゃんと、ルキアとカルビに謝ってもらう!! ノエル、ルシエル!! お願い!!」


『おう!! 任せろ!!』



 2人の返事を背中で聞いた刹那、後ろからノエルが迫ってきて私を抱え上げた。そこから持ち前の怪力で、ガスプーチンがペガサスに騎乗して飛んで逃げる方へと私を放り投げる。全力。



「飛んでけ!! どりゃあああああああ!!!!」



 ノエルに投げられて、まるで大砲の弾のように私は空へ飛んで行った。相変わらず凄いノエルの怪力。でもこれじゃ、流石にまだまだガスプーチンには追い付けない。でも私の後方から続けて、ルシエルもノエルに投げられて迫ってきていた。直ぐ近くにいる。



「よっしゃ、追い付いた!! 狙いはあっち。風向き良好! それじゃ、覚悟はいいな!」


「お願い!!」



 ルシエルはニヤリと笑うと、私に向かって両手を翳した。



「いっくぜーー!! 吹っ飛べ、≪突風魔法(ウインドショット)!!」



 風の下位精霊魔法で、ルシエルの最も得意とするこの魔法。先程、ルキアを助ける為に放った魔法で、突風を目標に向かって撃ちだす。


 私はルシエルにこの風の精霊魔法で更に上空へと打ち出される。ガスプーチンの騎乗するペガサスに、手を伸ばせば触れる事ができる距離まで一気に飛んだ。これには流石に、ガスプーチンも悲鳴をあげた。



「ぎょええええ!! し、信じられん!! どうやってここまで!!」


「宮廷魔導士のあんたが、そんな事も解らないの? 知恵と根性に決まっているでしょ!!」



 ツインブレイドを抜くと、峰の部分を向けてガスプーチン目がけて振った。

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