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第1192話 『肉塊 その1』



 ゾーイがキャンプの見張りをしてくれていた。そしたら、何かを見つけて私に知らせに来てくれた。


 私とゾーイはそれが何なのか確認する為に、先程までゾーイがいたキャンプ周辺にある大きな岩へ向かい、その上に登り確認した。


 ゾーイが私に知らせたかったもの。それは、大空をこちらに向かってくる一頭のペガサス。それとそのペガサスに騎乗する、ローブ姿の何者かだった。


 こちらに向かってくる。しかもペガサスの真下には、何か大きな塊が浮遊してついてくる。


でもよく見てみると、その塊はロープでペガサスによって、吊り下げられて運搬されているようだった。つまり、何かをこちらへ向けて、運んできているようにも見受けられる。



「あ、あれは……」


「はっきりと解らない。だから感に頼って言っているだけだが、私はあれが敵だと判断している。アテナはどう思う?」


「どう思うって……あの遠目に見ても怪しい身なりは、敵っぽくは確かにあるけれど……でもあの人が乗っているペガサス。あれは、きっとパスキアで管理しているものでしょ。なら、パスキア王家に仕える誰かじゃないかな?」



 周囲の空に目をやった。所々に大きなテントウムシが飛行して、私達の姿を捉えている。



「なるほど、ならばあのペガサスに乗ってる奴は、王都からの使いか何かか」


「どうかな? ペガサスがこっちへ向かってくるけど、飛んできた方向から言って、そっちには王都はないもんね。フィリップ王や王子達の誰かが、私達に何か差し入れ……って訳でもないようだけど」


「いや、そうは言いきれない。案外、私達への差し入れかもしれんぞ」



 ゾーイはそう言って、不敵な笑みを浮かべる。


 最初、ゾーイはあれが敵だと予感した。あくまでもそれは彼女の感で、そう言っているだけなんだけど、今の不敵な笑みはその予感が当たったからなのではないか。そう思った私は、こちらに真っすぐに飛んでくるペガサスを凝視してもっとよく観察する。するともう、すぐそこまでそれはやってきていた。


 ペガサスが運搬している何かはもう、正体の解る距離まで来てしまった。ペガサスが運んでいたもの。それはなんと、大きな肉の塊だった。しかも、血が滴っている。



「あれ、肉よ!! お肉!!」


「私にもそう見えている。やはり、これは差し入れだったようだな」


「え? でも王都からのものじゃないでしょ。差し入れっていったい誰が私達に……」



 そこまで言ってようやく気付いた。


 ここまで飛んできたペガサスは、間違いなくパスキア王家のもの。そして騎乗しているのも、パスキア王家に仕える者。でも王都からやって来た訳じゃない。そう、このペガサスは、私達が今まさに対決している相手、モラッタさん達のもとからやってきたのだ。


 ペガサスは私達の頭上を過ぎると、キャンプの方へと飛んでいく。私とゾーイは慌てて、今いる大きな岩から跳びおりて、自分達のキャンプへ引き返す為、急いで駆けた。



「どういう事だ⁉ 私達に気づいたのに、通りすぎた。明らかにここにアテナがいる事に、気付いたはずなのに」


「狙いはきっと、旗の方ね。この勝負は、旗の奪い合いなんだから」


「でもそれだとおかしい。このキャンプ対決のゴングが鳴ったのは昨日からだが、互いに旗を奪い合うのは3日目のはずだ」


「そうね」


「おかしくは、ないか? どう思う、アテナ」


「どうかな……えっと、だからあれって事でしょ。旗を奪い合うのは3日後だけど、ちょっとそれまでに様子を見に来ただけみたいな……うーーん、でもあの大きな肉の塊は、正直嫌な予感がするわね」


「なるほど。私はてっきり、旗の奪い合いは3日後からって聞いた時には、互いに武器を構えてぶつかり合いをするのが、それからだと理解していたんだがな」


「向こうさんは、ひょっとして私達とは別の解釈の仕方をしているのかもね」


「ルールを考えたのは、パスキア側のトリスタンだ。いかようにも都合のいいようにやれるという訳か」


「でも、トリスタン・ストラムはとても紳士的な人だし、英雄と呼ばれているわ。そんな人が、こんな姑息な事をするとはとても思えないんだけど」


「忘れたか? 他にも姑息な奴はいる」



 ゾーイのその言葉を聞いて、確かにパスキア側にも1人はいたなと思った。


 喋りながらも駆けてキャンプに到着すると、私達のいる上空をさっきのペガサスが羽ばたいている。キャンプ内にいるルキアやクロエ、エスメラルダ王妃にカルビ。そしてルシエルやノエル。皆は、キャンプに集まって上空のペガサスと、そのペガサスが宙吊りにしている肉塊を見上げていた。



「いったい、何を仕掛けてくるつもりなの?」



 ペガサスに騎乗したローブ姿の何者かは、腰に差していたダガーを抜いた。突風。ローブ姿の何者かのフードがめくれ上がる。その下からは、知っている顔が現れた。私が叫ぶ前にルシエルがその名を叫ぶ。



「おい!! ガスプーチンじゃねーーか!! なんだ、こんな時に来て!! さては、王都でこの勝負を観戦していたけど、思わず興奮して現場に来ちゃった的な奴か!!」



 ガスプーチンは、ルシエルにはっきりと名前を言われると、あからさまに焦った顔をした。しかしすぐに、その表情は悪人のそれとも思える顔つきに変わる。ルシエルの事を見下すように睨みつけると、次に私を見た。



「ここまでーーえいい! ここまでですぞ、アテナ王女!! ここで終わるのです!!」


「は? 終わるって何が? 説明してくれないと解らないんだけど。もちろん、あなたがここへ今、その怪しげなお肉の塊を持ってやってきている理由についても、是非伺いたいものだけど!」 


「これより終わりゆく者には、拙僧がなぜにここにいるかなど無用の詮索でござろう」



 ガスプーチンは、ニタリと笑いダガーでロープを切った。ペガサスで運搬していた大きな肉塊の縄が解け、下へ落ちる。落下場所は、私達のキャンプ場所のど真ん中。そこにはルキアとカルビの姿。



「ルキア!! カルビ!! 危なーーーい!!」


「え?」


 ワウ?



 かなりの大きな肉塊。重量もある。あの高さから落下したなら、衝撃もかなりのもの。もちろん、ルキアとカルビに直撃したらただではすまない。


 かと言って、ここからでは距離があってどうにもならない。それは理解しているけれど、どうにかしなきゃ!! 私は肉塊がまさに今落下してくる真下、ルキアとカルビがいる方へ全力で走った。

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