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第1188話 『ドルチェとガラーナ その4』



 真っ暗な森の中。私達のいる場所だけが、焚火の灯りで煌々と照らされて、なんとも言えない穏和なぬくもりが広がっていた。


 焚火を囲んでいる私達――ジュノー様とガラーナは既に眠っていて、私はドルチェと話を続けていた。


 少し前に、私はドルチェに襲われた。ドルチェは小型のフレイルを愛用としていて、それを殺す勢いで私に振ってきた。つまり、本気で殺す気だったのだ。だからジュノー様は、ドルチェたちに容赦せずに拷問までした。


 …………


 だが殺し合い、拷問までやったのに、今そのドルチェは、相棒のガラーナと共にジュノー様に忠誠を誓うと言って、一緒にここにいる。これからの事を想像し、嬉しそうとも楽しそうともとれる顔で、私を見つめていた。


 私は自分がルーラン王国出身であり、ルーランの勇将バラミス様配下の騎士になった事も、バラミス様や自国を裏切ってドルガンド帝国にいる事も話して聞かせた。しかし心の内では、ドルガンド帝国を忌み嫌い、いつか復讐できるチャンスがあれば、そうしたいと呪っている事も話した。


 これは、私の話だからドルチェに知られてもまず問題のない事だと思った。


 そして私はドルガンド帝国ではなく、ジュノー様に仕えているのだと。ジュノー様と、ヴァルツ総司令官に助けられて良くしてもらい、返す事などできぬくらいの恩を受けた事も語った。


 ドルチェは、大雑把で感情的な性格に見えた。だが私が話している間、黙ってじっと興味深く話を聞いてくれた。



「なるほどな。ただもんじゃねーとは、思っていたけど、まさかドルガンド帝国だったとはな。しかもジュノー姉さんは、帝国の将軍だったなんてな。どうりで、おっかねえ訳だ。それを知っていたら、間違っても襲ったりしなかったのにな」


「馬鹿な行為だったな。だが、私を見つけて襲ったからこそ、今の出会いがあるのかもしれないけどな」



 無意識のセリフ。けれどドルチェは、目に涙を浮かべながら私の手を握る。



「ベレス姉さん!!」


「な、何だ⁉ やめろ、手を握るな!」


「ベレス姉さん、アタシは決めた!! もう何度も言ったけど、アタシはこれからずっと姉さん達についていく!! それにジュノー姉さんがドルガンド帝国の将軍様だなんて、知らなかった。このままついていけば、盗賊になるよりも、もっと名が売れるかもだしな、ハハハ!!」


「解ったから、手を離してくれ! 痛い!! それと言っておく。ジュノー様に対しては、無礼は許されないが、私に対してはもっといつものようにしていい。姉さんっていうのも、なんだか言われなくて変だ。呼び捨てでいい」


「解ったベレス。それじゃ、ジュノー姉さんだけ姉さんって呼ぶ事にするわ」



 理解が早いのは助かるが、それにしてもさっぱりした性格だ。ただ、ジュノー様の事を姉さんと言わせ続けてもいいものかどうか。これからジュノー様にお仕えするのなら、ちゃんと様付けでお呼びするべきではないのか。考えを巡らせていると、あることが気になった。



「それはそうと、ドルチェ。お前達の話を聞いていない。出身は何処なんだ?」


「あれ? 言ってなかったっけ? でもアタシらの話を聞いても、別に面白くないぜ」


「面白くなくても、本当に仲間になるのだとしたら、少しは知っておかねばならないだろう」


「それはそうだな」



 ケラケラと笑うドルチェ。それと、パチパチと焚火の音だけがする。いや、耳を澄ませればガラーナの寝息が僅かに聞こえていた。ドルチェは、焚火をじっと見つめると自分の事を話し始めた。



「アタシは、ラハサ砂漠出身だ」



 ラハサ砂漠。ガンロック王国の東にはプターンという王国があり、そのプターン王国から更に南東を見渡すと、そこには巨大な砂漠が広がっていた。それこそが、ラハサ砂漠。周辺には、更に3つの砂漠が寄り合っていて、そこを越えて東に進み続けた先に、魔導大国オズワルトがあるという。だが魔導大国へのルートは、4つの砂漠が寄り集まっている場所であるのと、ラハサ砂漠がとてつもなく巨大な砂漠なので、そこを通過してオズワルトまで行く者は極めて少ない。通常なら、海路をとるらしい。



「ラハサ砂漠が出身なのか。あの場所は、とても苛酷な場所だと聞いた」


「そうだ。砂以外になんもなねえ。見渡す限り、砂砂砂。そんな場所で、アタシとガラーナは生まれ育った。言うまでもねーが、生きていくのはやっとだった」


「人を襲って、盗みをしていたか」


「生きる為だって、言い訳はもうしねーよ。でもそうしなければ、子供じゃ生きてはいけなかった。自ら奴隷になって、金持ちかなんかの玩具にでもなるか、盗賊になって生き続けるか。それを選んだまでだ」


「そうか。私の住んでいたルーランは、そこまで苛酷な国ではなかった。大森林もあるし、緑豊かだった。だがルーランの勇将であるバラミス様が、私を騎士として取り立ててくれるまでは、私も底辺にいたよ」



 なのに私はバラミス様を裏切った。今度は、絶対に裏切らない。ジュノー様と自分に誓っている。



「悪い、話を続けてくれ」



 話を中断させてしまった。それを謝ると、ドルチェは再び続きを話した。



「ああ、そうだった。それでまあ、色々なんやかんやあり、アタシとガラーナはガンロック王国へ渡ったんだ」



 ドルチェとの会話は、更に続く。私はそろそろ眠らなければならないと思いつつも、ドルチェがどうしてパスキア王国までやってきて賊になり、私に襲い掛かったのかという経緯が知りたくなり、話を中断できずにいた。

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