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第1187話 『ドルチェとガラーナ その3』


 

 秘密を知ってしまった2人に対し、脅しているつもりだったが……その2人にだけでなく、ジュノー様にもそうは見えていなかったようだった。なぜなら、ドルチェとガラーナに剣を向けて怒鳴った私の顔は、2人に頼むからそうしてくれと懇願するような顔だったから。


 こんな短時間で情が生まれてしまった訳ではないと思いたいが、この2人を私はどうしても殺したくないらしい。心の底ではそう思っている。


 ジュノー様は、自分の剣を先程まで立て掛けていた場所に置くと、ゆっくりと腰をおろした。この2人の処分は、完全に私に一任してくれるという事。



「どうする? 2人とも、誓えるか? 誓えるならば、今この場で誓えると宣言しろ! できなければ、私はお前達を……」


「わわわ、解りました、解りました!! 姉さん達が、アテナを狙っている事は口が裂けても言いません! 本当です、誓います!!」


「アタシもそうだ!! そもそもその名前を聞いても、真っ先に思いついたのは女神アテナくらいのもので、クラインベルトの王女の事なんて思いもしなかったぜ! もちろん、これから誰かに話したりはしない! 誓うよ!!」


「本当に?」


『誓う!!』



 ドルチェとガラーナの言葉を聞くと、私は頷いた。



「解った、信じよう。でも、もしその約束を破るような事があれば、先に言ったように私はお前達の命を絶たねばならない。それは、肝に銘じておいてくれ」



 盗賊とは思えぬ真っ直ぐな眼。深く頷く2人。すっかり夜も更けてきた。


 私達は森の中、4人で焚火を囲んでいたが明日からの行動を考えて、早々に休む事にした。ジュノー様と二人きり……には、なれそうもないが、ドルチェとガラーナが私達と共についてくる事になり、これはこれで賑やかで悪くはないと思った。


 ルーランの残党狩りをしていた時とは明らかに違う。あの時は周囲にはドルガンドの帝国軍人だけがいて、もっとこう冷たくて、残忍で容赦の無い嫌な感じがしていたから。その中で、ジュノー様とヴァルツ総司令官という、とても暖かな人が傍にいてくれたのは、かなりの救いではあったけれど。


 だが今のこの空気とは、雲泥の差だった。ドルチェとガラーナは、盗賊だが冷酷残忍なドルガンド帝国人よりは、何百倍もマシだと思えたから。そして意外と、いい奴らなのかもしれないという気もしている。


 もしかしたら、直ぐ近くにジュノー様がいて、ドルチェとガラーナというおかしなコンビが私達についてくるこの環境に、私は居心地がいいと感じているのかもしれない。おかしな事になった、フフフ。


 ジュノー様と私、更にドルチェとガラーナもテントや寝袋、毛布すら持ってはいなかった。だから焚火の近くで、そのままゴロリと横になっているだけだった。言葉通り、野宿だ。


 ジュノー様は、もう目を閉じている。もう眠ってしまったのか。私はまだ眠れない。もしジュノー様が起きているなら、もう少しだけ話をしたいと思って、声をかけようとした。すると後ろからゴソゴソと何か音が近づいてきた。振り返るとドルチェだった。


 彼女は私のすぐ後ろにくると、同じように横になって私の顔を見つめている。



「な、なんだ?」


「いや、ちょっと眠れなくて」



 私と同じ。ジュノー様とガラーナに眼を向けたが、2人共目を閉じたまま。ガラーナからは寝息まで聞こえる。もう起きているのは、私とドルチェのみ。



「それで?」


「ちょっと眠くなるまで、ベレス姉さんと話でもと思って。駄目か?」


「いや、いい。実は私も眠れなかった」


「そうか。じゃあ、眠くなるまで語り合おうぜ」


「語り合う? いったい何を?」


「今、起きているのはアタシとあんただけだろ? だからはっきり言っておきたかったんだ」


「なにを?」


「襲ってすまなかった、ごめん。許して欲しい」



 横になったまま謝るドルチェは、ふざけているのかと言った感じだった。でも表情から、彼女が本心で謝っている事は解る。



「もういい、許した」


「すまん、もう二度とあんたらに手を出さない」


「盗賊稼業からは、足を洗ったんじゃないのか?」


「あんたが……ベレス姉さんとジュノー姉さんが、本当にアタシらを許してくれて子分にしてくれるなら、盗賊稼業とはおさらばだ。もともとアタシらは、それでしか生きていけなかっただけだからな」


「そうか。ならこれからは、しっかりと心を入れ替えて、ジュノー様の為にその身を捧げよ。お前達にそれができるか?」


「ああ、もうそのつもりだ。だけどな、その為にどうしても知りたい事があるんだ」


「答えられる事なら答える。なんだ?」


「姉さん達は、いったい何者なんだ? それを聞かないと、なんていうか自分が今、何者で何をしているのか解らなくて混乱する。姉さん達にこれからついて行って、何か役に立ちたいっていう気持ちは、アタシもガラーナも本物だ。だからアタシ達を信じて、それだけでも教えて欲しい。でないとこれから先、何をするのかも解らねえし、気持ちの置き場というかそういうのが、あやふやで気持ち悪くてよ」



 ドルチェは、上手く説明できない事に対して、自分自身にもどかしさを感じているのが見て取れた。そして何を感じて思っているかも、私には伝わってきた。


 確かにこの先、この2人が私達の仲間になり、ついてくるとしても、何も教えないのは不便だ。それにどちらにしても、行動を共にするならいずれ知れる事になる。


 ……だが、ジュノー様に断りもせずに勝手に、色々と話しても良いものかどうか……いや、ジュノー様はこの2人をどうするかという事を、私に一任された。だから私が判断をする。そして何かあったら、私が全ての責任を負えばいい。ジュノー様の為なら、なにも惜しくはない。



「解った、答えてやろう。もちろん、可能な範囲でな」



 そう言うと、ドルチェは嬉しそうな顔をしてその場で身を起こした。私も身体を起こすと、焚火に薪を放り込み、ドルチェにまず私が何者かを話して聞かせた。

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