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第1183話 『現れないアテナと盗賊の処遇 その1』



 いつもの如く、陽は昇り、朝がやってきた。


 私とジュノー様は、森から外へ出ると再び王都近くの平原へとやってきていた。そしてそんな私達の後をつけてくる2人の女盗賊。ドルチェとガラーナの姿があった。


 ジュノー様は、2人を見てとても嫌そうな顔をした。



「ベレス」


「は、はい!」


「あの女盗賊2人、我々の後をずっとつけてくるぞ」


「邪魔になりますか?」


「邪魔になれば斬る……のは、簡単だが少し不可解だな」


「なぜですか?」


「奴らは盗賊だ、何を考えているやら解らん。それに昨日は、奴らを拷問してやった。あの程度の拷問、私にとってはそれ程の事でもないが、奴らは泣き叫んでいた。その姿を思い出してみれば、奴らにとって昨晩の事はきっと、これ以上無い忘れられない思い出になったはずだ。小便まで漏らしていたしな」


「はい。盗賊というからには、これまで善良な者からも金品を盗んだり、人を陥れたりしてきたでしょう。その報いを受けたのだと己で悟り、少しでも悔い改める事ができればと思います」



 キョトンとするジュノー様。



「な、何か私、変な事でも言いましたか?」


「いや。ただ……もしかして、お前。まさかと思うが、あいつらを更生させたいのか?」


「そ、それは……」



 言われてやっと気づく。私は、あの2人がこれに懲りて、少しは真っ当になればいいと思ったのかもしれない。


 最初に襲われた時は、反撃してやっつける事ばかりを考えていた。敵として捉えていた。だが昨日、ジュノー様があの2人を拷問していた時に、奴らの泣き叫ぶ姿を見て、少しは可哀そうだと同情してしまっていたらしい。


 だから、これに懲りて少しは利口になってくれればと思った。



「私はあいつらの処分を、ベレス。お前に任せる事にした。だからお前があいつらを殺そうが逃がそうが、かまわないと思っていた。しかしまさか、更生させようと考えていたとはな。ははは、これは、思ってもいなかった。恐れ入った。お前には、まいったよ。やはりベレス、お前は私に無いものを持っているようだ」


「いえ、そういうつもりでは……ただ、これに懲りて、少しはまともになればいいかもと思っただけで……」


「ベレス。お前は優しいな」



 ジュノー様は、そういって私に微笑みかけてくださった。胸がドキリと高鳴る。



「私は自分で言うのもなんだが、冷血で血も涙もないと思う。この通り、容赦もしない性格だと自覚しているしな」


「そんな事はありません。ジュノー様は、あの時……シュバインの部下達に私が暴力を振るわれている時に……絶望する私を助けてくださいました。とても慈悲深い方です!!」


「それはどうかな。私は前々からあの豚のような男が嫌いだっただけだ。無自覚にもあいつの気を、逆なでする理由を必死に探していたのかもしれん。上手くあいつが私に向かって剣を抜いてくれるような事があれば、正当防衛としてあいつを始末する事ができるしな。だから私はお前の思っているような、慈悲のある人間ではない」


「いいえ、私には解っております。ジュノー様がなんて言おうと、あの時私を助けてくださったのはジュノー様です。それとヴァルツ総司令官」


「クリスタフ・ヴァルツか。あの男は、なかなかの男だな。ドルガンドなんかの将軍には、もったいない男だと思う。もっと良い国と指導者に仕えていれば、あの男は更に実力を発揮して多くの者を豊かにするだろうな」



 それからも暫く私とジュノー様は、2人で平原で佇みながらも会話を続けた。ドルチェとガラーナは、変わらず少し離れた場所から私達を見ている。でも不思議と隙を狙って、報復に転じるような素振りは一切みられなかった。


 太陽が頭上に来た辺りで、ジュノー様が溜息を漏らした。



「はあー、そんな簡単にはいかない。それは解っているつもりだが、今日もアテナは現れぬな」


「下手をすれば、何週間も出てこないかもしれません。っというか、カミュウ王子との縁談が進んでまとまれば、もうそのまま城に留まって出てこないかも」


「どのみち、縁談がまとまればアテナに人質としての価値はほとんどなくなる。クラインベルトではなく、パスキアに属する訳だからな。だが私はもう一度、アテナと戦いたい。あの剣技は、見惚れる程に見事なものだった。今度は、どちらがより優れているか、はっきりと白黒つけるつもりだ」



 ジュノー様は、そう言って王都の方へ眼をやった。その表情から、ジュノー様がアテナと本気で戦いたがっているのだと伝わってくる。そして同時に惹かれ始めている。私は、その事に対して、嫉妬に似た想いを抱き始めていた。



「アテナも現れない、ジークも戻ってこないとなると仕方がない。昼飯の調達にでも出かけるか、ベレス」


「はい。それじゃ、あの森に引き返しますか?」


「そうだな」



 ジュノー様は、少し考えると向こうの方を指して言った。ドルチェとガラーナのいる方だった。



「それはそうと、森に移動するならまたあいつらついてくるぞ。どうする? もう一度、捕まえて拷問にかけてやるか。そうすれば、流石に寄り付かなくなるだろう」


「ジュノー様……」


「フフ……そんな困った顔で私を睨むな。冗談だよ、半分はな。あいつらの処分はお前に任せてある」


「ありがとうございます。それでは早速ですが、昼食をドルチェとガラーナに準備をさせようと思います」


「ほう、まったくお前は面白いな。よくそんな事を考える。だが、奴らが嫌だと断れば?」


「それなら、私達の前から早々に消え失せろと言います」


「なるほど、どちらにしてもいい結果になる訳か」



 ジュノー様はそう言って笑った。


 私はドルチェとガラーナのもとへ近づいて行くと、2人に鬱陶しいから立ち去れと言った。そして立ち去る気がないのなら、ジュノー様の為に昼食の準備をしろと伝えた。


 2人は顔を見合わせると、私達が野宿をした森の方へと走って行った。

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