第118話 『考察する爺 その2』
ミュゼは、マリン・レイノルズに会いに行った。
だが王宮内を探して回ったが、マリン・レイノルズの姿は何処にも見当たらなかった。通路ですれ違ったメイドに問うてみる。
「これこれ。お前達、マリン・レイノルズが何処にいるか知っているかの」
「あっ! ミュゼ様!! はい、マリン・レイノルズ様ですか? え、えーーーと」
もう一人のメイドが先に気づいた。
「ほら、あのセシリアさんやテトラといた、ウィザードの女の子よ。セシリアさんと一緒に、ルーニ様をお救いしたっていう」
「ああ。あの水色のローブと三角帽子の」
「そうじゃ、その娘じゃ。その娘は何処へおる?」
メイドは考えるというか、思い出す素振りを見せた。ミュゼは、思い出してくれとメイドに迫る。
「どちらにいらっしゃるのかという事は解りませんが、今大浴場の方へ、セシリアさんとテトラが汚れを落としに行っております。ですからもしかしたら、一緒に大浴場の方に」
「大浴場か! よし、解った!」
ミュゼは急いでマリン・レイノルズがいるかもしれない、王宮内の大浴場へと足を運んだ。到着すると、ミュゼは躊躇する事無く脱衣場に入る。そこには風呂に入ろうと服を脱いでいる女達がいた。女達は、男が脱衣場へ突然入室してきたので、悲鳴をあげかけたが入って来た者が宮廷大魔導士ミュゼ・ラブリックだと解ると全裸であっても全員その場に跪いた。
「よいよい。気にするな。ちょっと用がある。大浴場の方へ通してくれ」
「は……はい! どうぞ!」
女たちが道をあける。
ミュゼは念の為、脱衣場にマリン・レイノルズがいるかどうか、きょろきょろと確かめつつも大浴場に入った。
すると、一番大きな風呂の中でゆっくりと浸かる、セシリア・ベルベットの姿を見つけた。隣にいるのは、狐の耳が生えた獣人の娘。下級メイドのテトラ・ナインテールだった。周囲には、入浴する何人もの女。この中に、マリン・レイノルズがいるのだろうか。ミュゼはセシリアに近づいた。
「セシリアに聞けば、マリン・レイノルズの居所が解るやもしれん。セシリアよ。入浴中に、すまんな」
「これは!! ミュゼ様!!」
「セシリア。それにテトラ。今回のお前達の働きは見事なものであったぞ! 儂から感謝の言葉のひとつでも、お前達に言っておきたかった。それでな、ひとつ聞きたいことがあってな……」
「爺!」
!!
その言葉に恐る恐るミュゼは振り返った。するとそこには、ルーニ王女殿下とその王女がトゥターン砦から一緒に連れ帰ったという獣人の少女がいた。なぜ、一般階級の者達が入浴する大浴場にルーニ様がいらっしゃるのか⁉ ミュゼは、混乱しその場で跪いた。
「お……お許しください。まさか、このような場所にルーニ様がいらっしゃられるとは思いませなんだ」
「駄目だよ、爺。皆、裸なんだから。恥ずかしいんだよ」
周囲から笑い声が聞こえる。風呂場の熱気と湯気なのか、動揺してなのかは解らないがミュゼの額からは、汗が滴り落ちた。
「それでどうしたの? 爺」
「いや……その……マリン・レイノルズというウィザードに少し、用がありましてな。もしかしたら儂と同じ、マギアポリスの出身かもしれませんので、一目会っておきたく思いまして」
「ああーー、そうなんだ。セシリア、テトラ。知ってる? そう言えばルーニも最初、セシリア達3人で大浴場へ向かったって聞いてここへ来たんだけど」
テトラが手をポンと叩いて言った。
「そういえば、マリンはのぼせたみたいで、先に上がると言って出ていきました。彼女は本が大好きなので、もしかしたら本が沢山ある、王宮書庫にいるかもしれないです」
「おお! そうか、解った。では早速そこへ行ってみるとしよう。ルーニ様も、ご入浴中に大変失礼しましたな」
「アハハ。良かったら爺も一緒に入る? 可愛い女の子達と一緒にお風呂に入れるよ」
「それは大変魅力的なお誘いではありますが、今はちょっと急いでおりますゆえ、またの機会に。それでは失礼致しました」
ミュゼはルーニ王女に一礼すると、大浴場を抜け出し王宮書庫へと急いだ。途中、ハンカチを取り出し汗を拭く。
王宮書庫に入ると、中には一人の少女がいた。
水色のローブと三角帽子。銀色の髪を三つ編みに結っている。そういえばラダン・レイノルズも銀色の髪をしていた事をミュゼは思い出した。
ミュゼはマリンにおもむろに近づくと、静かに読書をする彼女に声をかけた。
「マリン・レイノルズというのか?」
「ん? そうだよ。お爺さんはだれかな?」
「儂はこの王国の魔導士じゃ。ルーニ様の教育係も勤めておる。ルーニ様救出の件について、お主も功労者だと聞いておる。一目会って礼が言いたくてな」
「別に大した事は、していないよ。テトラやセシリアは、ボクの友達だからね。借りもあったから、協力したまでさ」
「そうか」
話が終わると、マリンは再び本を読み出した。ミュゼはそんなマリンをじっと見つめる。マリンは本を読む手を止めて再びミュゼを見た。
「なんだい? ずっと見られていると、不思議なものでね、読書しても頭に内容がいまいち入ってこない。まだ何かようなのかな?」
「ふむ。では、ズバリ聞こう。マリン・レイノルズ。お主はなぜ、自分の名をマリンと名乗っている?」
ミュゼの言葉に眠たげな表情をしていたマリンの表情は、はっとなった。
「儂は魔導都市マギアポリスの出身でな。儂の友に、ラダン・レイノルズのいう大魔法使いがおる。
その孫にも、昔に会った事がある」
「…………ミュゼ? ミュゼ・ラブリック」
「っと言っても、儂がお主とあった時、お主はもっと幼かったからのお。ようやく、思い出した所か。お主はラダンの孫じゃな。ファッファ。それにしても元気で良かった」
ミュゼは、マリンの肩をポンと叩いた。
「それはそうと、なぜマリンと名乗っている? お主の名前はマーリンじゃろ?」
「マーリンて名前はなんだか可愛くない。ボクの名前は、マリン・レイノルズだよ。テトラもセシリアも、ボクの友人たちは皆、それでボクを認識してくれている」
「そうか。マーリンという名は可愛くないか。確かにマーリンと言う名は、魔導都市ではちと有名になってしまったようじゃからのう。ファッファ」
ミュゼは、笑った。そして、マリンが魔導都市マギアポリスを旅立った理由やその時の事、これまでどうしていたかについてミュゼは話を続けた。
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〚下記備考欄
〇大浴場 種別:ロケーション
クラインベルト王国、王宮にある大きな浴場。石造りになっていて、とても広いのでゆっくりと寛げる。王宮勤めの者なら誰でも入ることが許されているので、王族が利用する事はあまりない。エスメラルダ王妃やエドモンテに関しては、使用した事がない。室内には、石のベンチがあり湯でのぼせると、そこで休む事もできる。奥には、露天風呂もあり、更に端の方にはこじんまりとした薬湯がある。因みに薬湯はアテナが考案して作ったそうな。
〇マーリン
マリンの本名? 本人は可愛くないのでマリンと名乗っていると言うが、その詳細は不明。魔導都市マギノポリスでマーリンの名はそれなりに知られているそうなので、そこに行くことがあれば何か解るかもしれない。




