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第1179話 『ドルチェとガラーナ その1』



「仲間が現れやったが……こいつも女騎士か。それも真っ黒な鎧だ。かっこいいな、剝ぎ取ってアタシのものにしてやろうか!!」


「ドルチェには、絶対合わないんじゃない?」


「はあ、それはどういうこったあ? もしかして、胸の事を言ってんのか、ああ!?」



 女盗賊がまた仲違いを始めると、私はその隙にジュノー様のもとへ駆け寄った。



「ジュ、ジュノー様!! いったい、何処へ行ってらしたのですか?」


「聞いてもがっかりするぞ、単なる生理現象だ。それよりベレス、お前怪我をしているのか?」



 ドルチェにやられた傷。ジュノー様はそれを見ていた。



「だ、大丈夫です。これ位、大した傷ではありません。それより、気をつけてください。盗賊です!! 眠っていたら、いきなり盗賊に襲われて」


「すまないな、私は攻撃魔法は使えるが回復系は、才能がないらしい。それでお前を襲ったという賊は、今ここにいる2人か?」


「はい、そうです! 名前はドルチェとガラーナ。ドルチェの方は髪の短い方で、小型のフレイルを得意とします。そして気性は荒っぽいみたいで……もう片方の髪の長い女――ガラーナは、クオータースタッフを武器として所持しています。私はドルチェとしか戦っていませんが、おそらくかなりの棒術を使いこなすのではないかと……」


「ほう、分析をしてくれたのか」


「い、いえ、そんな分析とかそんな大層なものではなくてですね!」


「ベレス。あんな雑魚に、私が苦戦するとでも?」



 ジュノー様の言葉に女盗賊2人が反応する。不機嫌な顔。



「今、アタシらの事をなんつった? ああ? なんつったんだよ!!」


「ドルチェ、あんたあったま悪いんじゃない? あいつは、雑魚って言ったのよ、雑魚って。聞こえなかったの? あんたの事を雑魚って言ったの?」



 額にメキメキと血管を浮き上がらせるドルチェ。ジュノー様は、相変わらず涼しい顔をしている。



「あ、あの……ジュノー様が圧倒的な強さである事は、疑いようもありません。で、でもそれでも万に……いえ、億に1つでも何かあったらって考えると、少しでもジュノー様が有利に戦えるように、私なりに……って、ジュノー様に対して有利とかそういう事じたい、ありえなくて……全く何も、影響のない事だと解ってはいる事なんですけど! あれ、私は何を言っているんだろう!」


「解った、ベレス。ありがとう。そのお前の分析は、的確で極めて有益な情報だった」


「ジュノー様……」


「ぶっ殺してやる!!」



 ジュノー様にドルチェが襲い掛かった。振り下ろされるフレイル。大丈夫だと理解していても、私はジュノー様の身を案じて叫びそうになった。もしくは、身代わりに――


 だがジュノー様は私やドルチェよりも早く動き、彼女がフレイルを持つ方の腕を左手で掴んだ。そしてジュノー様は、ドルチェの腕を左手で掴んだまま、右肘を顔面に打ち込んだ。



「ぶはああっ!!」



 馬車に跳ね飛ばされたように、派手に転がるドルチェ。彼女が再びジュノー様を睨みつけようとしたその時には、ジュノー様の剣の先がドルチェの喉元にあてられていた。



「うぐ!! な、なななん、なんてスピードだ!!」


「スピードだけじゃないぞ。このまま体重を前に少しかければ、お前の首を串刺しにできる……訳だが、お前達は私の可愛い部下をかわいがってくれたみたいだからな。お返しに私もたっぷりと時間をかけて、お前達に死んだ方がましだと思える程、苦痛を与えて楽しませてやろう」



 私はジュノー様の暖かさと優しい瞳に、すっかりと忘れ去ってしまっていた。ジュノー様は、帝国でも特に冷酷残忍で名が通っている事を。


 他にも特にそういう恐ろしい将軍は、いるが……ヴァルター・ケッペリン、ハイン・ハイドリヒ、そしてオークジェネラルと呼ばれるアテーム・シュバイン。ジュノー様は、それら冷酷残忍な将軍と共に名を連らねていられるのだ。


 でも……だからなんだというのだ。ジュノー様がどうだろうと、私はジュノー様の為に生きて尽くすのみ。ジュノー様に仇なす輩がいて、ジュノー様がそいつらをいたぶったり殺したり、拷問するような事があれば、それはジュノー様に正義があるのだ。私は、そうとしか信じない。


 ……だけど……



「ドルチェ!! あんたの事、いつもあったま悪い奴だとは思っていたけど、ここで殺されて私1人になっちまったら、それはそれで少しは寂しくなっちまうからね!!」



 今度はガラーナが、クオータースタッフでジュノー様に打ちかかる。ジュノー様は、ドルチェから剣先を外すと、ガラーナのクオータースタッフを連続して受けた。


 カンカンカン!! ガン!!


 ガラーナの棒術は、凄かった。クオータースタッフの両先を交互に使い、連続してリズムよく打ち込む。そうかと思うと、棒を振りかぶり大きな足払いをしかけてきた。ジュノー様は、軽やかにその攻撃を跳躍してかわすと、ガラーナの肩と太腿をほぼ同時に突いた。



「うわあああっ!!」


「ガラーナ!! くそ、よくもガラーナを!!」



 今度はドルチェがジュノー様に襲い掛かる。


 そこからは、1対2。必死に攻めかかるドルチェとガラーナは、どんどんボロボロになっていく。肩を突かれ腹を突かれ腕を突かれ太腿を突かれ脹脛を突かれ――顔や背中を斬りつけられる。2人の顔は、どんどん苦悶に歪み、対するジュノー様の表情には、次第に冷酷な笑みが漏れる。

 

 ジュノー様が本気になれば、こんな女盗賊2人、簡単に首を刎ねて終わらせられる。それを、敢えてまざまざと見せつけられた。何より、本気ではない上に得意の魔法も使っていないのだ。遊んでいる。圧倒的な力の差。


 その事に今、誰より気づかされているのは、ドルチェとガラーナだろう。辺りは2人の血で赤くなり、彼女達の衣服も深紅に染まっていった。

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