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第1174話 『悪 その2』



「な、なんだ、この女は!!」


「俺達の仲間2人を一瞬にして殺りやがった!!」


「てめえ、このアマ!!」


 ヒュンヒュンッ!



 風の音が一瞬したと思うと、周囲にいた男達はその場に全員倒れた。



「ゴミの分際で私に口を利くな。馬鹿馬鹿しくて会話など、とてもしていられぬわ」



 ジュノー様は吐き捨てるようにそう言うと、私を再び抱きしめてくれた。暖かなぬくもりに包まれる。私は我慢ができなくなって、ジュノー様に口づけをした。ジュノー様は、目を閉じて私を受け入れてはくれたけれど、応えてくれてはいないようだった。


 私は我に返り、慌ててジュノー様から離れると、男達に乱暴に脱がされ散乱した自分の身に着けていた服などを集めて身に着けた。



「も、申し訳ありません! 私ったら……ジュノー様に対して……」


「気にするな。それより、これを見ろ」



 ジュノー様は、剣を持つ手とは反対の手に、大きな鳥を持っていた。この森で、見事に狩った鳥。



「どうだ、なかなかおおものだろ。できればビッグボアかグレイトディアーでも見つけられれば良かったが、代わりにこいつを見つけた」


「お、お見事です、ジュノー様。でも鳥なんて、どうやって……」



 ジュノー様は弓矢を持っていない。でもこの鳥を狩るには、いくらジュノー様でも剣で狩るなんてかなり難しいのでは……


 そんな事を思っていると、ジュノー様はニヤリと笑い、剣を鞘に収めるとその手を近くの木に向かって翳した。するとその翳した手から氷の刃が迸り、木の幹に突き刺さった。



「なるほど、氷属性魔法で仕留めたのですね」


「そうだ。その気になれば、剣でだってこの鳥を仕留める自信はあったが、万一逃がしてしまった場合、ディナーはなくなってしまうからな。私は一日位平気だが、ベレスはそうではないだろう」


「いえ、私だって一日位は!!」


 ぐうーーーーーッ



 タイミング悪く私のお腹がなると、ジュノー様は笑った。私は顔が真っ赤になったが、ジュノー様が私の危機をまた救ってくれた喜びと、ジュノー様の笑顔が見れて幸せな気持ちに溢れていた。



「…………」


「どうかされましたか、ジュノー様」


「その場にいろ、ベレス」



 6人の無法者がいなくなった。ジュノー様が戻ってきてくれて、私はホッとしていた。でもジュノー様は、違った。いきなり真顔になって私にその場にいろと言った。動くなという意味。いったいどうしたのか……ジュノー様は、向こうの草むらに向かって手を翳す。そしてまた氷の刃を発射した。



「うわあっ! くそっ!」


「やばい、逃げるぞ!!」



 女の声。しかも2人。私を襲った6人の男達の他に、まだ誰かいる!! もしかして、男達の仲間!? ガサガサという音と共に、2人が逃げ去る。姿ははっきりと見えず、顔も解らない。



「ジュ、ジュノー様!!」


「いい、追って捕らえてもいいが、この場は逃がしてやろう」


「もしかしたら、この無法者達の仲間かもしれません!」



 ジュノー様が殺した男達に目を向けると、やっと周囲が鮮血に染まっている事に気づいた。



「構わない。だが、次に私の前に現れたら確実に捕らえる。それより、野宿する場所を変えよう。流石にこれだけ首と胴体が離れた死体がいくつも転がっている場所で、食事や睡眠をとりたくはない」


「た、確かにそうですね。それでは」


「向こうの小川の方へ移動しよう。荷物を持て」


「はっ! こ、この者達の死体はいかがなされますか?」


「しらん。そのまま打ち捨てておけばいい。だが、このままにしておくと、この死体を漁りに肉食の魔物が集まってくるかもしれないな。小川から更に上流に向かって、この場からもっと離れておこう」


「はっ! 解りました!」



 ジュノー様と共に再び森の中を歩く。水のせせらぎ。小川に出ると、先ほどジュノー様が言ったように上流に向かって歩いた。そして暫く歩いていると、最初に見つけた場所と同じような、野宿に適したいい感じの拓けた場所を見つけた。しかも丁度いい大きさの岩や、倒木なども倒れている。


 野宿などした事もなく、アウトドアの知識もない私がこんな事を思うなんておかしい事だとは、解っている。だけどいい場所だと思った。



「ジュノー様、ここでいいのではないでしょうか。死体が転がっている場所からも十分な距離があると思われますし」


「そうだ。ここにしよう。それでは、私は焚火を熾す。お前は、この鳥の羽をむしってくれ」



 私は、ジュノー様が投げた鳥を両手で受け止めると彼女を見つめた。



「なんだベレス。その目は、何か言いたげだな」


「いえ、ただジュノー様は、この鳥を調理する事ができるのでしょうかと思いまして」


「フッ、何を言っているベレス。私が調理なんてできる訳がないだろ。お前が作ってくれ」


「わ、私がですか⁉」


「心配するな。私よりは適任だ。さあ、始めよう」



 ジュノー様はそう言うと、一ヵ所に薪を集めて火を放った。こういう時、彼女のように魔法が使えると便利だと改めて思う。


 私は近くにある石の上に鳥をドサリと置くと、ジュノー様に言われたように羽をむしり始めた。やり始めて解った事だが、これはなかなかの重労働だという事。



「ベレス。お湯でも飲むか? 入れ物は……考えるとして、飲むなら沸かしてやる」


「今は大丈夫です。とりあえず、この鳥の羽を全部、むしってしまいます。少し待っていてください」


「そうか」



 焚火ができあがると、ジュノー様はその前に座り込んだ。そしてそこから私の作業を、穏やかにじっと眺めていた。

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