第1173話 『悪 その1』
夜の森、唐突に現れた6人の男達。見るからにガラは悪く、まともな者にはお世辞にも見えなかった。普通に考えて、盗賊。運が良ければ冒険者か傭兵という所だが、例えそうであったとしても善人とは限らない。悪人の冒険者も、多くいると聞く。
髭面のリーダー格と思われる男が近づいてきた。私は剣を抜いて、男に向ける。一定の距離をとり警戒をする。しかし6人も相手ともなると、一斉に来られたら私じゃ到底かなわないだろう。
「それ以上、近寄るな!」
「ちょ待てよ! ちょ待てって、別に俺達はあんたにまだ何もしちゃいないだろー」
「まだ何も……な。ギャハハハ」
髭面の男の言葉に、隣の男が反応して言った。やはりこいつらは、盗賊か!!
「さあ、お嬢ちゃん。騎士様のようだが、その身に着けているものを全てここで脱いでもらおうか」
「へっへっへ、こりゃいいや。こんな所でストリップを楽しめるとは、思ってもいなかったぜ。運がついてる」
「さあ、早くしろ!! 金目のものも全部出せ!! その剣もだ!!」
「くっ!! やめろ!! 私に近づくなと言っているだろ!!」
手を伸ばしてきた男の腕を剣で斬った。男は驚いて腕をすぐに自分の方へと引いたが、その腕に赤い線が浮き出る。血。
「このアマ!! 信じられねえ、俺の腕を斬りやがった!!」
「ハハハハ、女だからってなめてかかるからだ。こいつは、剣を持ってんだぞ。剣を奪うまでは、気を抜くんじゃねえ!」
「近づくなと言っただろ!! それ以上近づくと、斬る!! こんな所で死にたくなければ、さっさと何処かへ去れ!! でないと、痛いだけでは済まなくなるぞ!!」
「痛いだけでは済まないだと? そりゃ、こっちのセリフだよ。仲間の血を見たんだ。もうおさまらねえぞ。おめえには、それなりの覚悟をしてもらう。まずはストリップをしてもらって、それから俺達6人を順番に楽しませてもらおうか!!」
「くっ!!」
男達は、そのまま向かってこなかった。剣や短剣、手斧などを手にして私を囲む。
「うらあああ!!」
ガンッ!!
「くうううっ!!」
「こっちだ、こっち!! お嬢ちゃん!!」
ギンッ!! カランカラン!
私をぐるりと囲った6人の男達は、卑怯とも思わずニタつきながら私を攻撃してきた。でも狙いは、私の手にしていた剣だった。なんとか最初の攻撃は防ぐ事ができたが、その次はもう無理だった。
同じ男が続けて攻撃してくるのか、5人のうちの別の男が攻撃してくるのか……集中できない。剣を思い切り叩かれて、落とされた。慌てて落とした剣をとりに行こうとしたところを、喉元に剣を突き立てられる。
「お遊びは終わりだ、観念しろ。それじゃ、これからストリップショーをしてもらおうか。俺達を楽しませるんだ」
「楽しませるって意味、知っているか。まずは、身体の隅々まで見せるんだ。解るか? へへへ」
「下衆め!! 私は死んでもそんな真似はしない!! 殺すなら、殺せばいい!! 決して屈指はしない!!」
「はははは!!」
「ぐはははは!!」
「げへへへへ!!」
「ひょへへ、ゴホッゴホッ」
大笑いする6人の男達。ニタニタと笑い、覚悟を決めた私に対して、バカにするような表情を向ける。
「何がおかしい!! 殺すなら、殺せ!!」
「あーー、はいはい。皆、女はそういうんだよな」
「そうそう、俺達に手籠めにされる女はな。これからどういう目にあうかも知らずにな」
「そう簡単に、思い通りに殺してもらえるなんて思うなよ。そうは、いかねえ。これからお前の身体も心も責めに責めてやるからな。殺すなら殺せだと? それはお前が決める事じゃねーんだよ!」
「そうだ。俺達が決める」
「や、やめろおおおお!!!!」
男達は剣を無くした私に対し、一斉に襲い掛かって来た。地面に身体を乱暴に叩きつけられて、息が止まる。そして両手と両足を押さえつけられて、服を強引に脱がされた。
「おおーーー!! これは、美人だから期待したが、期待以上の身体だな!!」
「がはははは、こりゃいいや!! 一晩中、この女を楽しませてやろうぜ、な!!」
「よし、足を開かせろ!!」
「ひよへーー! 俺は、この女をいたぶりたい。殴っていいか!!」
「駄目だ。顔が潰れたら、折角美人を相手に楽しんでいるのに、気持ちが萎えちまう。全員まわしたら、殴るなり切り刻むなりお前の好きにしろ」
「オッヒャッヒャーーー!! やったああああ!!」
精一杯抵抗をしたが、とても6人もの男に押さえつけられればどうする事もできない。男達の手が私の胸を乱暴に鷲掴みにし、太腿から更に上の方へと這ってくる。
アテーム・シュバイン。あのドルガンド帝国の将軍の部下達に、凌辱された時の記憶を鮮明に思い出す。涙が流れて呼吸ができなくなる。それでも男達は、私の事を気にする素振りもない。
こいつらは、パスキア王国に蔓延る盗賊。ドルガンド帝国の兵も、冷酷残忍と知れ渡っているがどいつも変わらない。諦めと絶望が、溢れそうになった。
「それじゃ、俺から楽しませてもらうぜ。はははは、おらあああ、観念してとっとと股を開け!!」
髭面の男はまるで悪魔のような顔をしていた。そして私の上に跨った。
その時、男の顔に鮮血が降りかかる。ここにいる者、全員が呆然としている。
ドサドサ……
「ヒイイイイイイ!!」
男の悲鳴に目を向ける。すると私に跨っていた髭面の男も同時にそっちを向いていた。するとそこには、髭面の男の仲間、2人の首無し死体が転がっていた。
髭面の男は、慌てて立ち上がると武器を抜いて、残る仲間3人と共にあたふたと辺りを見回した。
すると闇の中から、待っていたあの人が現れた。
「獲物を見つけたが、逃げられ追っていて思わぬ時間がかかってしまった」
「ジュ、ジュノー様!!」
目から涙が溢れる。今、私は地面に倒された状態であったが、拘束しているものは何もない。だけどジュノー様の顔を見て、なんともいえない安堵の気持ちが身体を駆け巡っていて、力が抜けて起き上がれないでいた。
ジュノー様は、そんな私のもとに来ると、私を優しく抱きしめてくれた。