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第1171話 『罪悪感』



 暗闇の中に、誰かがいた。こちらを見ている。


 よく目を凝らしてみて見ると、ルーラン王国の宮廷魔導士、アコン様だと解った。驚いて声をあげてしまった。



「ア、アコン様!! な、なぜこのような所に!?」


「なぜこのような所にだと? 意味の解らぬ事を申すな、この裏切り者」


「う、裏切り者……」



 本当の事だった。私は、祖国であるルーラン王国を裏切ったのだ。



「よく、そのように平気な顔で、のこのこと生き続けていられるものだな。貴様のせいで、国が滅んだというのに」


「ま、待ってください! 私は……」


「おこがましく言い訳などするのか? 裏切り者が何を言おうと、それは誰の心にも響きはせんぞ! なにせ、裏切り者の言葉だからな!」



 言い返せなかった。膝が震える。アコン様の私を責める目に耐えられなくて、私は目を背けてしまった。だけど、もう一度思い切って目を向ける。すると目の前にいたアコン様の身体は、グニャグニャと形を変えた。に、人間ではない……そう思った刹那、アコン様は形を失いルーラン国王の姿になった。



「へ、陛下!!」


「余の事を陛下と呼ぶでない、この裏切り者め! 全く汚らわしい!! 貴様は、売国奴だ!! 貴様の裏切りで、バラミスもボンバータもアコンも……多くのルーランの兵が死んだ!!」


「そ、それは……」


「売国奴め!! それ以上、口を開くな!! 汚らわしいと言っておろう!!  ドルガンド帝国は、余のルーラン王国を攻め滅ぼした。それでもいつか、国を復興する事ができると思い、信じて余についてきてくれる者達がいた。優秀で信頼できる家臣達もそうだが、多くの民までも余にがついてきた。なのに……なのに、貴様は憎っくきドルガンド帝国に我が国の情報を全て喋ってしまった。そのせいで、何百人……いや何千人が死んだ。全て貴様のせいだ」


「そ、そんな!! 私は確かに祖国を裏切りました!! とても陛下や、家族、そして私を知る者達に顔向けはできません!! 恥ずべき人間です!! ですが、私はドルガンド帝国に寝返った訳ではありません!! 私は一度、死んだのです!! そして再び、生きる目的を見つけたのです! 私はジュノー・ヘラー将軍に仕えているのです!!」


「はあ? よくいうな」



 後ろからまた別の声がして、振り返った。そこには私をルーラン王国の騎士に取り立ててくれた、バラミス様が立っていた。更に振り返ると、もう陛下はいなくなっている。闇があるだけ。



「私はお前を可愛がってやった。それはなぜか。お前の事を、それなりに評価していたからだ。お前は他の騎士に比べ、剣の才能も劣り、軍略に通じている訳でもない。そう、特別な存在ではない何処にでもいる兵士だった。だが一度忠誠を誓えば、それをなんとしても守り通す。そういう気高い騎士になると思っていた。信じていた。だからこそ、お前のような者の事を、わざわざ陛下に願い出て、騎士にする事を許して頂いた。私の傍にも侍らせた。気にかけてやった。なのにお前は……」


「バラミス様……私は……」


「黙れ、ベレス。お前には失望したよ。ルーラン王国の為に忠誠を捧げ、私に仕えていた者ならば、お前はきっと騎士としてもっと高みに登っていただろう。陛下から信用を勝ち取れば、爵位を頂いて貴族にだってなれたかもしれない。大した才能のないお前に対して、私は何かを見た。それがその時は何か解らなかった。いや、きっとお前は他の者にはない、何か特別な自分でも気づいていない物凄いものを、持っているのだと思っていた。それは、成長とともにいずれ開花するのだと」


「…………」


「だが、見誤ったようだ。お前のそれは、輝く希望の原石とはかけ離れていたようだ。邪悪な、裏切りの心。お前の心は腐りきっている。国を……民を……家族を……そしてなんのとりえもないお前をとりたててやったこの私に対しても、裏切り唾を吐いた訳だ」



 バラミス様の顔が、恐ろしい怒りの形相へと変貌していく。私は腰を抜かすように、膝から崩れてその場に座り込んだ。目からは、涙が溢れ出した。



「申し訳ありません!! 申し訳ありません、バラミス様!! わ、私は!! 私は確かにあなたを裏切りました!! 国も、民も、全て!! 最低な人間です!! で、ですが……」


「言い訳をするな、ベレス。お前の頭上に輝く星は、ドス黒い星。裏切り者の星だ。お前は、根っからの裏切り者なんだよ。人をこけにして、生きている。恩人にさえ唾を吐く。それがお前だ、ベレス!!」



 バラミス様は、怒りと憎しみに満ちた形相で私に掴みかかって来た。そして首を絞める。私はバラミス様の両手を掴んで必死に抗うも、まったくその力に及ばない。苦しい!! 首を締めあげる力は怪力そのもので、息ができないというよりは、このまま首をへし折られそうだった。



「や、やめてえええ!! バラミス様あああ!! 許してください!! 許してくださいいい!!」


「ガハハハハ!! このまま首をへし折ってやる!! へし折れたら、お前の頭をねじ切って、肥溜めに投げ込んでやるぞおおおおお!! そこがお前にはうってつけの居場所だ!! この裏切り者のメスブタがああああ!!」


「や、やめ……て……バラミス様……」







「ぶはああっ!! はあ、はあ、はあ、はあ……」



 物凄い汗。気が付くと、私は夜の闇が広がる森の中、身体を強打した木の下で横たわっていた。



「はあ、はあ、はあ、はあ……」



 顔を滴る大量の汗。身体に力を入れて、上体を起こすとそのまま立ち上がった。見回すと、キノコが生えていた倒木、ジュノー様が火を点けてくれた焚火。焚火の傍らには、集めた薪があった。


 どうやら、私は暫く気を失っていて、その間に悪夢を見ていたようだった。


 悪夢は悪夢であって、現実ではないのだと思い、少し気持ちを落ち着かせる。すると大量の汗をかいたからか、急に喉の渇きを覚えた。

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