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第1167話 『ジーク・フリートの挑発 その2』



 ギギャーーー!!


 ゴブリン共が襲い掛かって来た。集団。百に匹敵する数がいる。平原。


 ジュノー様に目をやると、既に剣を抜いていた。奴らは、私達人間の存在に気付くと、次から次へと襲い掛かってくる。ジュノー様は、目前に現れたゴブリンを突き殺した。



「ベレス!!」


「はっ!」


「剣を抜いて備えろ!! ゴブリンの中には、強力な個体もいる。雑魚だと油断せずに、私の傍にいて戦え!!」


「はっ! 解りました!」


 ギャギャーーー!!



 次々と襲いかかってくるゴブリン共。これから村を襲うつもりだったのなら、その途中で人間に出くわしたので、景気づけに私達を血祭りにあげようとしているのだろうか。だったら、ゴブリン共の方が気の毒に思う。なにせここには、ドルガンド帝国最強の剣士が2人もいるのだから。


 ザクゥッ!! ドバアアア!!


 向こうの方でも鮮血が舞っている。フリート将軍は、四方八方から襲い掛かってくるゴブリンを片っ端から、魔剣グラムで皆殺しにしていた。


 とても力強く粗々しいように見えて、達人のそれと思える剣捌き。私がどれ程に剣の修行を積んだとしても、この僅かでも達する事なんて到底できないだろう。そう思わせる程の、見事な動き。



「ベレス、よそ見をするな!! デカいのがそっちにいるぞ!!」


「え?」


 ウゴオオオオオオ!!



 ゴブリンジャイアント。まるでトロルと見間違える程の巨体のゴブリン。それが3匹も同時に私に迫ってきていた。私は剣を構えていたが、どうやったってこんな大きなゴブリン3匹の攻撃を、同時に受けきれる訳もないと、回避しようとした。すると後方から、氷の矢が何本も飛んできて、ゴブリンジャイアント共の身体を射抜き凍らせた。ジュノー様だった。



「ジュノー様!!」


「私にとっては、この程度は雑魚だ。いくら数がいようと雑魚は雑魚。しかしお前は、決して油断はするな。何度も言っているが、肝に銘じておけ」


「は、はっ!」


「よし! ゴブリンはまだ迫ってきているぞ。私から絶対に離れるな、ベレス」


「わ、解りました!!」



 あとは、はっきりと覚えていない。私は、恐ろしい形相をして、次々に襲い掛かってくるゴブリンに恐怖をして、ただただ逃げ回っていたかに思える。そして気が付けば、辺りは血と肉片が散乱していた。全部、ゴブリンのものだった。



「大丈夫か、ベレス」


「あ、はい! 私は大丈夫で……」



 ジュノー様は私の目の前にくると、両手で私の顔を挟んだ。



「へ? へえええ!?」


「動くな、ベレス。怪我をしていないか、今調べている」


「そ、そこまでしなくても……」


「過去にやっかいなゴブリンと戦った事があってな。いや、戦い自体は一方的な殺戮で終わった。私が奴らを皆殺した」


「は、はあ」



 ジュノー様は、私の顔を両手で挟んだまま、顔を近づけてきた。傷を見て頂いているだけなのに、私は目を瞑ってしまう。大好きなジュノー様を、こんな近い距離でいつまでも見ていられるなんて、緊張してとても耐えられなかったから。気を抜けば、ジュノー様のその美しくシュっとしたお身体に、思い切り抱き着いてしまいそうになる。



「そのゴブリンだがな……私だから何事にもならないが、相手によれば危険極まりないゴブリンだった。奴らは、武器に毒をしこんでいたのだ」


「ど、毒ですか」


「ただの毒ではない。ゴブリンの糞尿にまみれた毒だ」


「ふ、糞尿って……!!」


「主に、矢や槍、短剣など刺したり斬りつける武器に塗りたぐる。そしてそれで敵を斬りつければ、傷口から毒が入り込み――」


「毒に侵される訳ですね。まさか、ゴブリンの糞などにそんな毒があるなんて……」



 驚いてそう言うと、ジュノー様はなぜか笑った。そして横で話を聞いていたフリート将軍が口を挟む。



「いや、ゴブリンが特別じゃない。そういう毒攻撃の方法をゴブリンも知っているっていう事については、驚くべき話だがな。毒の正体は、破傷風だよ」


「は、破傷風ですか……」


「名前位は、聞いた事があるだろ。解りやすく説明すれば、要は糞には通常バイキンがいるんだよ。それを剣などに塗って、相手に傷つければ、その傷口からバイキンが入りこんで感染し悪さする。因みに糞でなくても、そこらの土にだってバイキンはいるんだぜ。でもジュノーが今話してくれたゴブリンは、きっと自分達の糞尿を調合して……汚ねえ話だが唾なども吐いて、毒の強化をしていたのかもしれねえ。独自にその毒を培養し、毒として使っていたんだろうな」



 まさか、そんなゴブリンがいるなんて……少なくとも私は知らなった。でもジュノー様やフリート将軍が言うのだから、本当にいるのだろう。


 ゴブリンといえば、トロルやコボルト、オークなどよりも狡猾でずる賢いイメージがある。そこを考えると、ありえるのかもしれない。



「よし、傷はない。大丈夫だベレス」


「あ、ありがとうございます、ジュノー様」


「さてと、それじゃ俺はちょっくら出かけてくるかな」



 フリート将軍は、倒したゴブリン共の血がついた魔剣グラムを大きく振った。刃に纏わりついた魔物の血を振り払うと、鞘に収めて何処かへ行こうとした。ジュノー様が呼び止める。



「何処へ行く、ジーク!」


「ここにいても無意味だ。アテナは、現れないし……王都に入ってしまった上に入城したとなりゃあ、なかなか会う事すら厳しいかもな。よって、次の手を考えなければならないって訳だ」


「それでなぜ、そっちへ行くのだ」


「ああ、そうね。さっき襲ってきたゴブリン、その残りがいるかもしれん」


「皆殺しにした」


「襲ってきた奴はな。だが、別にまだいるかもしれん。そしたらそいつは、こことは別のルートを通って、ターゲットの村を襲っているかもしれんから、一応見てくる」


「ほう、貴様とはなんの関係もない村を見てくると言い出すとはな。竜殺し殿が、随分と優しいのだな」


「それはお互い様だと思うが……まあ、言い訳をすれば、魔物殺しが俺の本分だからな。見過ごせない。こっちから見つけるから、暫くそっちはそっちでやってくれ。だがくれぐれも、俺がいない状態で王都へ侵入したり、アテナを目にしても仕掛けるな」


「勝手だな」


「ああ、勝手だ」



 オレンジ色だった空も、いつの間にかジュノー様やジーク・フリートの身に付けている鎧のように、真っ黒になっていた。


 私は少しの空腹感を覚えると共に、これからどうするのかと考え、ジュノー様の顔を見た。しかしジュノー様は、かわらずじっと、アテナがいるだろう王都の方を眺めていた。

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