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第1166話 『ジーク・フリートの挑発 その1』



 クラインベルト王国第二王女、アテナ・クラインベルト。彼女とその共の者に、まんまと逃げられてしまった。でもこのまま、ヴァルツ総司令官から下された任務を達成せずに、おめおめと帝国へは戻れはしない。


 私達は、アテナ・クラインベルトを再び捕縛できるチャンスを伺っていた。


 アテナを逃してしまった、その日の夕方――私達3人は、パスキア王都近くの平原にずっといた。


 王都へ入るかどうかは、まだ決めかねている。なぜなら私は、ルーラン王国の騎士甲冑を着込んでいるし、ジュノー様やジーク・フリート将軍もかなり目立つ格好をしていたからだ。人でごった返している王都になんて入ったら、あっという間に私達は人の目につく。


 そうすれば王都内を巡回している王国兵に、捕まって取り調べを受けるかもしれない。そうなれば、少なくともそれに応じないだろうジュノー様は、王国兵を相手に一戦するだろう。すると沢山の死人も出る。


 あと……もう一つの懸念もあった。


 アテナが今、このパスキア王国にやってきている理由――


 アテナは、この国の第四王子であるカミュウ・パスキアと、縁談を進めているそうだ。情報では、クラインベルト王国のエスメラルダ王妃やエドモンテ王子も、ここへやってきているらしく、その縁談も本気なのだと解る。


 つまり、パスキアとクラインベルトは、今やかなり仲の良い間柄という事になる。そんな中に、クラインベルトと冷戦を続けるドルガンド帝国の将軍が2人も揃って行くというのは、あまりにも迂闊としか言いようがない。


 アテナ・クラインベルト。今頃は、その共の者達は王都で待機し、王女自身は入城して国王や王妃に謁見している事だろう。また直ぐここに、現れるはずもない。


 だが私達は、万に一つでも可能性があるのであればと、ここパスキア王都周辺の平原でアテナが現れるのをひたすらに待っていた。


 ……むなしい。まず普通に考えても、やってくるはずがない。向こうは私達に、用はないのだから。


 だが現状、他の手立てが見付からない私達は、こうするしかなかったのだ。


 陽がどんどん落ちてきて、平原の向こうの空がオレンジ色に染まっていく。



「ジュノー、ベレス!! ちょっといいか!」



 ジュノー様は、ずっと立ち尽くしてアテナが去った先を眺めている。フリート将軍は、辺りの様子を探りに行っていたが、戻ってきて私達の名前を呼んだ。何かあったのだ。


 ジュノー様は、フリート将軍に軽く目を向ける。何も言わなかったので、私が代わりに聞いた。



「何かあったのですか、フリート将軍」


「クラインベルトもそうなんだが、この国にも、王都近くで普通に魔物や盗賊が現れる。特にこのパスキアは、クラインベルトと比べて、魔物討伐に関してはあまり積極的ではないみたいだしな。のさばってやがる」


「もしかして、魔物が現れたのですが」


「そういうこった。あれを見ろ」



 平原の向こうから、こちらに向かって何かの集団が迫ってきている。ゴブリン!!



「ホブゴブリンなども混ざってやがるな。ここへ向かってくる。倒してしまおう」


「わ、解りました」



 返事をした所で、ジュノー様がフリート将軍に言った。



「どうしてあんな数のゴブリンが、こちらに向かってくる?」



 フリート将軍は、両手を前に突き出して顔と共に振り、慌てた素振りで応えた。



「おいおいおい、待て待て。この俺が連れてきたってのか? 冗談だろ。なんの為にだよ。勘違いも甚だしいだろ」


「フッ、確かにそうだな。だが、あの数のゴブリン。別に大した事はないが、なぜ私達目がけて襲ってくるのかって事だ。ジーク。私はお前を一応は、味方として信用しているが、先ほどまで周囲をあちこちへ歩き回っていたのはお前だ。知らず知らずのうちに、ゴブリンに目をつけられて、連れて来るはめになったのじゃないのか?」



 ジュノー様は目を細めると、少し責める口調で言った。フリート将軍は、笑ってそれに答えたが、顔が覆われた兜を身に着けているので相変わらず表情は解らない。



「俺が連れてきた? それはなかなか面白い。意図的、もしくはゴブリンの数が多くて、ジュノー達に助力願うためにわざわざこっちへ誘導した。それなら、まあ解るがな。でも残念ながら違う。このゴブリンの群れが向かう先には、村があってな。奴らはそこを襲撃するつもりらしい」



 村……確かに王都周辺ともなれば人も多いし、村や街はそれなりにあるだろう。ルーラン王国でも、村が襲われるなどの魔物の被害は常日頃からあった。


 ジュノー様は、軽く笑った。



「なるほど、そうだったか。だがそれがなんだ。この国の村がゴブリンに襲われるというのは解ったが、私には関係のない事だ」


「ゴブリンをここで始末しなければ、村人が殺される。奴らは家畜を殺して食べる。そして人間は、散々弄んで残酷に殺す」


「だから私には関係がない。それは、この国の問題だ」


「なるほどな」


「どうして私が、知りもしない他国の民を助ける必要がある? 助けたければ、お前1人でやる事だ。ジーク・フリート将軍」



 フリート将軍は、ジュノー様にそう言われると私の方を向いた。



「ベレス。お前もそう思うのか?」


「わ、私は……」

 

 ギギャアアアーーーー!!



 ゴブリン共の雄叫びが聞こえてきた。もうそこまで迫ってきている。



「私達には、関係のない事だ。ベレス、移動するぞ」


「え? あ、はい!」



 私は、ジュノー様にそう言われて別の場所へ移動しようとした。そこでまたフリート将軍は、ジュノー様に言った。



「フン、そうか。ドルガンド帝国最強と呼ばれ、敵味方に漆黒の戦乙女と言われるお前も……あれだな」


「なんだ、ジーク」


「いや、なに。ゴブリンもこれ位の数にまとまっていると脅威になりかねない。ジュノー・ヘラー将軍もなんだかんだ言って、危険だと思えばゴブリンにさえ、道をあけてやるのだと思ってな」


「なんだと? 貴様、この私を侮辱しているのか!」


「いや、そんなつもりはない。あえて危険をおかさないって考え方は、まあ普通だろ。それでいいんじゃないか。だが俺は、とりあえずゴブリン共を村へは行かせたくない。でもジュノー、お前は万が一があるとアレだから逃げて身を隠していろ。それが確かに賢明な判断だ」



 明らかに挑発。私は、ジュノー様の顔を恐る恐る覗き込む。するとジュノー様は、今にもフリート将軍に斬りかかりそうな程の怒りを露わにされていた。

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