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第1165話 『帝国最強の二将とベレス』(▼ベレスpart)



 ほんの少し前の私は、ルーラン王国の国民であり、勇将バラミス様の騎士団に所属していた。だが改めて思う。人生というのは、とても奇妙なものだと感じている。なぜなら今、私はドルガンド帝国の将軍、ジュノー様の付き人としてパスキア王国にやってきていたからだった。


 そう……ドルガンド帝国最強の剣士と言われる2人、漆黒の戦乙女と呼ばれるジュノー・ヘラー将軍と、龍殺しの異名を持つジーク・フリート将軍。


 ドルガンド帝国、攻撃部隊最高責任者のクリスタフ・ヴァルツ総司令官から、クラインベルト王国第二王女アテナ・クラインベルトを探し出して、発見後速やかに拘束してこいと命令された。そして極めて高価なアイテム、転移の魔法石を渡されて使用――驚く程あっという間にアテナがいるという、パスキアに入国した。


 その後は、クラインベルト王国第二王女アテナの足取りを追った。


 まずは、パスキアにある村や旅人、冒険者などにアテナの特徴を説明し、目にしていないかを聞き込んで回った。


 アテナ・クラインベルトの特徴は、透き通るような綺麗な青い髪と碧眼。髪型はボブヘアで、二振りの宝剣を腰に差している……という、とても探し出しやすそうな特徴だった。


 これなら直ぐに見つかるな。そう思っていると、やはりあっさりとアテナを見かけたという旅人を2人3人と遭遇した。ジュノー様は、その旅人を脅して情報を聞き出そうとされたのだけど、ジーク・フリート将軍が止めた。そして旅人に金を払う。すると旅人達は、すんなりと聞いてもいない情報までをもペラペラと話し始めた。


 それを一部始終見ていたジュノー様は、明らかに面白くないというような顔をされていた。更にジーク・フリート将軍は、旅人から情報を聞き出し終えると、ジュノー様の方を向いて軽く笑った。黒いフルプレートメイルで、兜も重装のもので顔はおろか表情も解らない。だけどジーク・フリート将軍が、ジュノー様に対して、「情報とは、こうやって引き出すのだぞ」と言って笑っているようだった。明らかにそう見えたのだ。


 ジュノー様もそれが解ったからか、とても気分を害されてそっぽを向くと、切れ長の目で横目に睨み付け、チッと舌打ちをした。それを見てしまった私は、ジュノー様の事がとても愛おしくて愛おしくて、許されるのなら抱きしめたい……そう思った。


 そう、私はジュノー様を愛している。


 ジュノー様は漆黒の戦乙女と呼ばれているように女だ。そして私も女だった。だけど男女の性別なんて関係なく、人間として愛して何が悪いか。私は人として、ジュノー様を好きになっていた。ジュノー様になら、全てを捧げてもいい。私の差し出せるものなら、なんでも差し上げるし、この命だってジュノー様の為に捨てる事になろうと惜しくはない。



「よーーっしゃ、クラインベルトのお転婆姫の居所が解ったぞ。クラインベルトから国境を越えて、パスキアにやってきた旅人が目撃していた。奴ら、馬車に乗って移動をしているらしい」



 ジュノー様が呟くように言う。



「馬車?」


「そうだ。お転婆姫には、仲間がいる。今は趣味で冒険者をやっているみたいでな。まあ、お姫様のお遊びだろう。そして何人か、本人に負けず劣らずの仲間をつれている。エルフにドワーフ、そして獣人まで」


「確かにバラエティーにはとんでいるな。まるで、古の時代に魔王を倒しに世界を冒険した勇者一行じゃないか」


「ほお、よく知っているな」



 またジーク・フリート将軍が、ジュノー様の心を煽った。(いにしえ)の時代にあった物語。魔王が復活して、世界を滅ぼさんとする時、勇者とその仲間達が現れて、このヨルメニア大陸を救ったという話。大昔の伝説。本当かどうかは、今となっては定かではないけれど、人々の間で一般的に信じられているおよそ3000年以上も前の話。


 世界のあちこちで伝承も残っていて、それに関する本や伝説が残る地域も多い。だから魔王と勇者の物語は、誰しもが一度は耳にした事があった。それをジュノー様は口にされ、ジーク・フリート将軍はそれを聞いて、よく知っているなと褒めるような事を言ったのだ。


 馬鹿にしている訳ではないけれど、ジーク・フリート将軍からしてみればちょっとからかってみた……そんなところだろうと思った。ジュノー様もそれが解っているからか、本当に怒るというような素振りはない。



「ジュノー。そんなにむくれえるなよ。ちょっとした、冗談だろ? 魔王と勇者の伝説なんざ、ヨルメニア大陸に住む者なら、そのタイトル位は知っているだろ」


「それはそうと、アテナの居所を掴んだんだろ。これから直ぐに向かわなくていいのか? クリスタフからは、急ぎの用件のようだったぞ」


「我らが皇帝陛下は、冷戦に終止符を打ち、戦争を始める気なのさ。それで以前、ヴァルター・ケッペリンが、クラインベルト王国のティアナ王妃とアテナ王女を攫った事を思い出した訳だ。戦争をおっぱじめるつもりなら、先に打てる手を打っておいた方がいいからな。皇帝陛下の策なのか、それとも皇帝陛下の傍らに侍る、ドス黒い連中が考えている事なのかは解らんが、クラインベルトとの争いが始れば、アテナを人質にしてクラインベルト王国の動揺を煽り、その隙に帝国軍を侵攻させるつもりなのだろう」


「そうか。そうだとしたら、考えた奴はとんでもなくつまらない奴なのだろうな」


「つまらない? なぜ? 相手の急所を突くのは、戦いの基本だぞ」


「私はそんな姑息な策は好まない。国を落とすなら、圧倒的な武力をもってして攻め落とす。それだけだ」


「なるほど。確かに、俺もそっちの方が好みかな。クラインベルト王国のお転婆姫は、色々と噂を聞くがかなり剣の腕らしい。それでいて、油断ならないやり手だとな。王女を攫うなんて、卑怯だとか下衆いだのと言っていると、逆に痛い目を見るかもしれんぞ」


「この私がか? 冗談だろ。相手はいくら腕が立つと言っても、お姫様だ。私が本気になれば、瞬殺だろう」


「だから殺すなって。捕らえるって任務だろ」


「どちらにしても、つまらぬ任務だ。こんなのは、さっさと終わらせて帝国に戻るぞ。クラインベルト王国との戦争を始めるのなら、私の身の置き場は常に戦場にある」


「それは、なんとも勇ましい」


「ジーク! アテナの居場所を掴んでいるなら直ぐに案内をしろ。ベレス、行くぞ。ついてこい」


「はっ!」



 ジュノー様の事は、無敵だと思っている。無双の強さ。


 だがこの後、私達の身に、予想外の事が起こる。私達はパスキアの国境付近にいたアテナ・クラインベルトを見事に発見し、強襲をかけた。ジュノー様とジーク・フリート将軍なら、アテナ・クラインベルトをあっさりと捕縛するだろう。


 そう思っていたが、驚くべき事が起きたのだ。


 アテナ・クラインベルトとその共の者は、想像を超える程の腕の立つ者達で、ジュノー様とジーク・フリート将軍という帝国最強の剣士と呼ばれる2人の追撃を、なんと振り切って逃げ去ってしまったのだった。

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