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第1164話 『アテナとゾーイ』



 泉の水底の壁にあった横穴。ゾーイとその先がどうなっているのか、水中を泳いで進み調べてみた。すると息をする事ができる空洞があった。


 空洞で少し休憩をしつつも、辺りを調べて見ると水溜まりがいくつもあって、近づいて調べてみると、そこは私達が通過してきた横穴と同じような穴がいくつかあり、何処かへ繋がっていた。これは、冒険の予感。この先がどうなっているか、かなり気になる。だけど……



「アテナ様、これ以上進むのであれば……」


「あははー、うん、ここまでにしようっか」



 意外だという顔をするゾーイ。彼女の心配をよそに、強行してこの空洞まで突き進んだ私の事だから、穴がまだあるのなら入ってもっと先を見てみたいって言いだすと思ったのかも。


 だけど実は違った。その事で、不安にさせたゾーイに私は凄く怒られて、お尻をいっぱい叩かれて……今もまだ腫れあがっている状態で、触れるとピリピリして痛い。でも私にしてみれば、まだ大丈夫だっていう判断があった。確信ってまでは言わないのは、ノクタームエルドでは、迂闊な行動と判断で一度溺れかけた事があるから。


 ガンロック王国でも、無謀な行動をとって遭難して力尽きて、ナジームに助けられたし……自分自身、しっかりしているつもりなんだけど、結構無謀な性格かもしれないって解ったし。その上で、もう少し進んでも大丈夫って判断したんだけどな。でもゾーイにお尻を叩かれてしまった。この歳にもなってね……はははは。



「私は私の事を、結構無謀なところもあるんだなって、冒険者になって色々旅や冒険を続ける事によって知ったから、今は引き際も解るの。これ以上は、危険度もグッと上がるしここら辺で満足して、戻るべきだって」


「そうですか。それなら安心しました」


「ゾーイ、ひとつお願いしていいかしら」


「はい」


「エスメラルダ王妃の前でとか、エドモンテの前でとかはアレかもしれないけれど、こういう時は普通に接してくれたら嬉しいなって。意味解る? 私はあなたと、いい友達になれたら嬉しいって思っているの」



 じっと私の顔を見つめて、少し考える素振りをみせるゾーイ。



「それは、私があなたに対してタメ口で接するようにという事ですか?」



 あれ? そうなんだけど……なんかちょっと違うような気もするな。



「えっと……まあ、それはそうなんだけど……そうかも! もっとフレンドリーに接して欲しいって事よ!」


「それは、なぜですか?」


「だから、言ったじゃない。あなたともっと仲良くなりたいから……かな」


「私はガンロック王国では、あなたの前に立ちはだかりました。エスメラルダ様の意思ではありますが、ゾルバ団長の命で。そしてあなたに、鉄球を喰らわせた。それなのに、そんな相手と仲良くなりたいと?」


「え? うん、そうだよ。それにあの時は、お互いに立場があったでしょ。でも今は、同じチームだし」


「チーム……チームと言われれば確かにそうかもしれない。フフ、ならばアテナ様のお言葉に従いましょう。ですが今、あなたが言ったようにこれは、互いの立場があってそうするまで。私は、エスメラルダ様の騎士であり、あなたの仲間ではない。今は仕方がなく協力しているだけ。先ほど、私があなたの尻を激しく叩いたのも、あなたに万が一があっては立場上困るからだ」


「う、うん、そうだね。でも私は、あなたと仲良くしたいって気持ちはもう伝えたから」


「……フッ、王女殿下直々のご命令とあらば、遠慮なくタメ口を使わせてもらう」


「ご命令でなくて、お願いだって言ったでしょ」


「わかりま……いや、解った」



 無表情のゾーイに対して、にこりと微笑みかける。そしてもといた場所に戻ろうと、再び水に入った。い、痛い。お尻がじんじんしているから、水に入るとピリっとした痛みを感じた。


 水中に潜る前に、そろそろ行くよともう一度ゾーイと顔を合わせ合図を送る。



「ローザ・ディフェイン」


「え?」


「ディフェイン家の女騎士。あなたは、彼女と知り合い、そして友人になったんだったな」


「うん。私もそうだし、ルシエルもローザとは親友よ」


「王女とその国の騎士。本来ならば、主従関係にあるべきなのに、まさか本当に親友にまでなっていたなんて驚きを隠せない」


「でも私達の友情は本物よ。彼女とは今、離れているけれど、心は通じ合っているし、もしもローザが助けを求めてきたら私もルシエルも、きっと火の中でも水の中でも突っ込んで行って何がなんでも力になるわ」


「そうか。でも、私はローザ・ディフェインとは違う。そもそもが違う。彼女の父親は、クラインベルト王家でも有名な誉れ高き騎士の家系だ。私は違う。だから私もローザと同様に思わぬことだ。再び、あなたがエスメラルダ王妃とことを構える事があれば、私の振り放つ鉄球は容赦なく――」


「私を狙う……ね。それもいいわ。その時は、私も受けて立つし」



 でも私は、ゾーイ。あなたと仲良くなりたいよ。そう言おうとしてやめた。今、それを言っても私が満足したいだけで、きっと彼女の心には何も響かないだろうから。今は……だけどね。


 それにしても、ローザの名前がゾーイから出るなんてね。ローザも最初は、エスカルテの街などに派遣されて、治安を守ったり人を襲う魔物や盗賊が出たら、討伐しに行ったりする警備騎士団だったみたいだけれど……すっかりえらくなってしまった。


 ローザとルシエルと、3人で約束をした。また楽しいキャンプをしようって。でもローザは、優秀な子だからもっともっとえらくなっちゃって、暇がなくなってしまったらどうしよう。その時にそんな暇……作ってくれるといいけど。


 ゾーイと共に息を思い切り吸い込むと、ザプンと水に潜る。そしてもときた道、横穴を通ってもとの洞穴の泉に戻った。

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